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第三十九話 宿泊学習のジンクス

 バスが出発した。住宅街を離れて、どんどんと自然が多い山の方へ向かっていく。バス内では鈴木先生がガイドの真似事をして生徒たちの退屈を凌ごうと頑張っていた。


「実は先生、先日お見合いをしたんですよ~。もう32歳だからそろそろ結婚しろって両親がうるさいんだよね~。でもぉ、先生は白馬に載った王子様みたいな素敵な人と結婚したいので、お見合いはちょっと困るんだよね~」


 ただ、鈴木先生の話が面白くないので、退屈は凌げていなかった。クラスメイトは思い思いにおしゃべりしている。鈴木先生の話は誰も聞いていない。


 ふと、バスの前方を見てみると、一番前の席で霜月が座っていた。一つだけある、一人用の席だ。彼女は窓にもたれて微動だにしない。たぶん、寝ているのだろう。


 それから、竜崎の隣には結局誰も座らなかった。梓と違って竜崎ハーレムの他のメンバーはまだお互いに牽制し合っている状態で、だから硬直状態に陥ってしまったらしい。誰かが座ったら角が立つので、誰も座らないことにしたのだろう。


「おいおい、俺だけ一人なんて悲しいなぁ……でも、友達なんて要らない。ぼっちは人間の強度が強いことの証明だからなっ」


 一人でもあいつはいつも騒がしい。その発言を聞いて周囲のヒロインがクスクス笑っているのも、いつも通りだ。


 ぼっちって言いながらもハーレムメンバーはいるので、贅沢な御身分である。まぁ、ただのファッションぼっちなんだろうけど。


 ――と、そんな状態でバスは走っていた。

 その最中、隣の梓が小さな声でぽつぽつと俺に話しかけてくる。


「龍馬おにーちゃん、楽しそうだね。たぶん、霜月さんが参加してるからだろうなぁ……霜月さんは病弱だから、こういう行事は基本的に参加しなかったって、龍馬おにーちゃんが言ってたよ?」


 ……竜崎の中ではそうなっているようだ。

 本当は苦手な竜崎に付きまとわれるのが嫌でサボっているだけだったらしいが、まぁそれは俺の心の中にしまっておこう。


「これは内緒なんだけどね……本当はね、霜月さんはこれにも行こうと思ってなかったんだって。グループ決めで誘った時、最初は断られちゃったの。『あんまりこういうのは得意じゃない』って言われちゃったなぁ」


 そういえば、梓たちが霜月を説得してグループに入れたんだっけ。


「でもね……梓が耳打ちで『おにーちゃんも一緒のグループだよ?』って言ったら、すぐにオッケーしてくれたの。これ、龍馬おにーちゃんには言ってないから、秘密だよ?」


 ……ああ、そういうことだったのか。

 やけにあっさり誘いを受けたことが意外だったのだが、その理由がようやく分かった。


 梓は俺と霜月の仲がいいことを知っている。それを知っていたから、俺の存在を匂わせて霜月を釣り上げたみたいだ。


「思ったより簡単に説得できてびっくりしちゃった……それで、龍馬おにーちゃんも喜んでくれたから、なんか複雑だったなぁ」


 梓が乾いた笑顔を浮かべる。

 人懐っこい笑顔が印象的だったけど、竜崎と関わるようになってから、その笑顔は曇ることも増えた。それは少し、残念だ。


「だからね、梓も負けてられないと思ったの……このままだったら、ずっと霜月さんに負けたままだから、この宿泊学習で告白するって決めたんだよっ」


 そしてようやく、本題に入ってくれた。

 急に告白をしようと決意した理由は……やっぱり、霜月の存在が大きかったらしい。


「それにね、宿泊学習のキャンプファイヤーで告白したら絶対に成功するっていうジンクスがあるんだって。だから、うん……気休めだけど、ジンクスを信じて頑張ってみるのっ」


 ……ジンクス、かぁ。

 物語を動かすための舞台装置として優秀な存在である。


 停滞した関係を変化させるための理由付けとして、ジンクスというのは説得力があって、よく使用される。


 竜崎の物語でも、このジンクスが大きな転機となるようだ。

 はぁ……はたしてどうなることやら。先がとても不安である――

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― 新着の感想 ―
主人公の設定もやりすぎると正直ドン引きにしかならないという良き例とも言える作品。 コミカライズ版から来た人がこの小説版を見たら寒暖差で風邪を引くのではないかとすら思わされる程に主人公の精神状態がオカシ…
[一言] ホモ特有の優しい暴力さんは主人公様に好意を抱いているのが3人だけみたいに言っているが、クラスの女子のほぼ全員が少なからず好意を持っていますよ
[一言] 興味深いですね 主人公様にはクラス内で男友達がいないのは確定 クラスの女子であの3人以外の女子は主人公様と 関わろうとしない 何故か関わろうとしている3人は美少女 なんなんだろこの世界
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