間話29 クリスマス その4
クリスマスパーティーが始まったのは、お昼ごろのこと。
それから、赤い帽子をかぶった配管工おじさんが色々なキャラとパーティーをするゲームや、鉄道で全国を旅するすごろくをやっていたら、あっという間に時間が経っていった。
受験生ではあるけれど、今日くらいは脳みそを休めよう……ということで久々に羽を伸ばしたのである。しほも勉強から解放されてとても楽しそうだった。
そんなこんなで、夕方の6時。
ささやかなパーティーも、そろそろお開きである。
「こほんっ。えー、宴もたわなけではございますが……残念ながら、そろそろママが迎えに来る時間となってしまいました」
残念ながら、宴も『たけなわ』が正解だけど、それはいいや。
名残惜しそうなしほが、いきなり司会の真似事めいたことを始めたので、静かに耳を傾けた。
「なので、最後のプログラムとなりますが、これよりプレゼント交換をしたいと思います!」
まぁ、クリスマスと言えば定番だ。
俺も梓も、事前にそれは伝えられていたのでちゃんとプレゼントを用意していた。
リビングの端にあるクリスマスツリーの下に、各々が用意したプレゼントが置かれている。
「それでは、まずはあずにゃんから! おねーちゃんに何を用意してくれたの?」
「……ちょっと待ってて」
そう言って梓は、ツリーの下から大きめの袋を取って、しほに放り投げた。
「ふぎゅっ……何かしら、これは?」
運動神経が悪いしほは袋を顔面で受け取っていたけれど、痛そうにしている様子はない。中にはどうやら柔らかいものが入っているようだ。
「開けたら分かるよ?」
「どれどれ……って、これは!!!!」
中身を見て、それからしほが目の色を変える。
よっぽど嬉しいものが入っているのか、空色の瞳がキラキラと輝いていた。
「あずにゃんっ……ありがとう!!」
「別に? ただ、霜月さんだったらこれがいいんだろうなぁ――って」
一体何をあげたんだ?
気になって、袋の中身を覗いてみると……そこにあったのは、大量の衣服。
そしてそれらは、見覚えのあるものばかりだった。
「――俺の服だ」
そう。袋一杯に入っていたのは、俺のタンスにあるはずの衣服である。
しかも、着なくなったお古とかではなく、現在進行形でよく着用していた普段着だった。
「良かった~。寝間着が古くなってて困っていたのよね」
「……ちょ、ちょっと待って。え? しほ……それ、もらうのか? いや、違う。梓? それをあげるのか? あれ? 俺、どっちに話しかければいいんだ???」
状況がちょっとよく分からなかった。
勝手に持ち出した梓を問い詰めるべきか、それを疑いなくもらおうとしているしほに話しかけるべきか……混乱していたら、しほが袋をギュッと抱きしめた。
「ダメよ! これは私がもらったものだからっ」
「そうだよ。おにーちゃん、洋服なんてまた買えばいいよ。もちろん、梓だって好きであげたわけじゃないよ? でも、霜月さんが一番欲しい物って言ったら、おにーちゃんの私物だから。あと、無料だったから」
絶対に最後の一言が本音だろうなぁ。
「……まぁいいや」
しほが喜んでいるなら、それでいいのか。
別に高い洋服を着用しているわけじゃないし、なんなら地味なデザインだからプレゼントの価値もないような気がするけど、しほが満足しているのなら、それでいいだろう。
――と、自分を納得させて思考を停止した。
「あ、おにーちゃんにはこれあげる」
梓から渡されたのは、一枚の紙。
そこにはこんな文字が書かれていた。
「『肩たたき券』って……」
「いつでも叩いてあげるね?」
最近、大人っぽくなってきたかなと思ったら、これである。
よっぽどお小遣いが足りなかったのだろうか。ちょっとケチだった。
「お年玉がそろそろもらえるからって、お小遣いを使い込むのは良くないと思うぞ」
「だ、だって、受験勉強のストレス解消でゲームに課金しすぎちゃって……」
流石に『肩たたき券』には罪悪感があったのだろう。
内弁慶で俺には横暴気味な梓も、ちょっと申し訳なさそうな顔をしていた。
「まったく……まぁ、勉強が大変なのは分かるけど、課金はほどほどにな? はい、俺からもプレゼント」
それから、俺もお返しに梓にプレゼントを上げた。
「……手袋だ。おにーちゃん、地味にプレゼントのセンス良くて気持ち悪いね」
「褒めるならもっと嬉しいこと言ってくれ」
仕返しに頭を撫でると、梓がイヤそうに顔をしかめて俺の手を振り払った。
彼女は子ども扱いされるのが嫌いなのである。でも、発言がまだ俺に対しては子供っぽいので、もうちょっと大人になってほしいものだ。
「いいなー。ねぇ、あずにゃん? 私も撫でていい? ほら、なでなで~」
「触らないで! いー!」
「……幸太郎くんにだけ触らせるなんて、ずるいわ! あと、幸太郎くんに撫でられるなんて、そっちもずるいっ」
しほにとってはどっちもずるいようだ。
賑やかに騒いで、梓とじゃれ合っていた――




