ハロウィン特別企画 お菓子をくれなきゃイタズラ――してもいいの!? その6
それから、俺たちはハロウィンを楽しんだ。
「あー! 霜月さん、それ梓のチョコレートだよ!? 勝手に食べないでっ」
「食べてないわ。もぐもぐ」
「食べてるじゃん! もうっ……まぁ、おにーちゃんから奪うからいいんだけど」
「じゃあ私も幸太郎くんのをもらうわっ」
「それおかしくない? だったら梓がもっともらうべきだよね?」
「違うわ。幸太郎くんのものは私のものなの」
「何言ってるの? おにーちゃんのものは梓のものだから」
いや、俺のものは俺のものだよ。
……なんてこともありながら、三人でわいわい楽しんだ。
最初は『別にハロウィンなんて興味ありませんけど?』みたいな態度を取っていた梓だけど、やってみたら意外と楽しかったのだろう……いつもよりテンションが高かった。
「ふぅ、お腹いっぱい……って、お腹が膨らんでる!? ちょっと着替えてくるねっ」
結局、お菓子もたくさん食べたので満足したのだろう。梓はお腹を隠すように手を当てながら、自分の部屋へと向かっていった。
仮装もこれで終わりか。ハロウィンもそろそろお開きである。
「……幸太郎くん、もうちょっとお菓子余ってるの?」
いや、しほの食欲は衰えていないようだ。
確かにまだ余っている。でも、さっきも結局、甘やかしてしまって大目にあげてしまったし、いいかげんに心を鬼にしないといけない。
「これ以上食べたら、夕食が食べられなくてお母さんに怒られるぞ?」
「大丈夫よ。幸太郎くんのお家で食べてくるって言ったもの……ねぇ、たまには夜ご飯をお菓子ですませてもいいでしょう? お家にいたら、そういうことはママが絶対に許してくれないし、たまにはいいと思うのっ」
「いや、でも……やっぱりダメだっ」
「うぅ………い、いじわるっ」
そんな、哀しそうな目で見ないでほしい。
こんな顔をされると、ついつい優しくてしまいそうになる。
しかしながら、しほは結構……計算高い一面もあって、あえてこういう顔をすることがあるのだ。
「むぅ……いつもなら子犬みたいにおねだりしたら折れてくれるのに、今日はとても頑固だわっ。幸太郎くんなんてチョロイと思っていたのに、どうしたものかしら」
ほら、やっぱりそうだ。
危ない危ない……あと少しおねだりされていたら折れそうだったので、我慢してよかった。
「お菓子はこれくらいにしておこうか」
そう言って、散乱しているお菓子を片付けようと手を伸ばす。
しかし、しほが邪魔するように俺の手を掴んできた。
「イヤっ。幸太郎くん……お菓子をくれなきゃ、イタズラしちゃうわよ?」
――そういえば、お馴染みのセリフを今日初めて聞いた気がする。
しほも、もしかしたら忘れていたのかもしれない。急に思い出したように、いきなりあのセリフを口にした。
「とりっくおあとりーと!」
……発音が拙いのは目をつぶるとして、翻訳すると『お菓子かイタズラどっちか選べ』という意味のセリフである。
(……なんか、今日はずっとしほにやられっぱなしだったなぁ)
ふと思ったのは、今日はずっとしほに振り回されていたことだった。
コスプレを見た時はかなりドキドキさせられたことだし……ちょっとくらい、仕返しをしてもいいいよな?
そう考えた俺は、あえてこっちを選ぶことにした。
「トリート。やっぱりお菓子はあげられないな」
「……え?」
「だから、イタズラしてもいいよ? ほら、好きにしてくれ」
「イタズラ――してもいいの!? だ、だったら……えっと!」
まさかの返答だったのか、しほは驚いている。
それから、目をグルグルとさせて一生懸命何かを考えていた。
はたして彼女は、どんなイタズラをするのだろう?
興味津々で見守っていたら……不意にしほが、握っている俺の手を持ち上げた。
「じゃ、じゃあ……がおー」
がおー?
何がしたいんだろう……と首を傾げた瞬間だった。
――がぶっ。
と、尖った八重歯が腕に触れた。
痛みはない。こそばゆくはあるけれど、突き刺さるほどの力で噛んでいない。
……えっと、なんで噛んだのだろう?
「イタズラって……これ?」
「……がぶっ」
「いや、また噛まれても……」
甘噛みしてくるしほに、どうリアクションを返していいか分からない。
というか、なんだか照れてしまって……顔が熱くなっていた。
好きな女の子の唇は、想像以上に熱くて柔らかい。
それを意識すると、恥ずかしさが倍増してしまった。
「――イタズラ、したわっ。ど、どうかしら?」
「どうって……顔を真っ赤にするくらいなら、やらなくても良かったのに」
「幸太郎くんだって真っ赤じゃないっ。お互い様だわ」
本日二度目だ。
二人して赤面して、モジモジして……えへへと笑い合う。
もどかしい距離感ではあるけれど、それがまた心地良くて……胸が熱くなった。
やっぱり俺は、しほが好きなのだろう。
こうやって、一緒に何かをして楽しめる……それがすごく幸せに思えたのだ。
「……また来年も、ハロウィンをやりましょうね」
そして、しほも恐らくは俺と同じ気持ちを抱いてくれている。
嬉しそうに笑ってから、俺の手をもう一度優しく握ってくれた。
「うん。来年は、もうちょっと大人しい恰好だと、嬉しいよ」
「そうね……幸太郎くんにそういう目で見られるのは嫌いではないけれど、お互いにもうちょっと大人になってからにしましょうか」
来年のことを約束して、もう一度笑い合う。
これから何度も、こうやってハロウィンを祝える未来が来るのだろうか。
もし、それが実現するとしたら……それはとても、幸福な未来だと思った――。
【終わり】
お読みくださりありがとうございます!
気付けば、連載して一年が経過しておりました。
いつも読んでくれてありがとうございます。ここまで続けてこれたのは、読んでくれる皆様がいてくれたからこそ、です。
心無い言葉をいただくこともあって、そのたびにメンタルクソザコな僕は心が折れそうになっていましたが、それ以上に嬉しいお言葉も多かったからこそ、挫折せずにまだ戦うことが出来ています。
完結まで、僕も頑張ります。
それまでどうか、お付き合いくださると嬉しいです!
それでは、今後ともよろしくお願い致しますm(__)m




