ハロウィン特別企画 お菓子をくれなきゃイタズラ――してもいいの!? その3
梓は今、猫になっていた。
……いや、自分でも何を言っているのかよく分からない自覚はある。
でも、猫としか表現できないのだ。
「こ、こんな恰好初めてしたっ。うわぁ、すごく悪い子になった気分……」
そう言った直後、猫耳と尻尾がぴょこんと動く。まるで梓の感情と連動するように。
「おおー! のーは?で動くとは聞いていたけれど、本当だったのね!」
しほがそれを見てはしゃいでいる。
なるほど……脳波か。しほがそれを理解しているのかどうかはちょっと怪しいけど、原理はなんとなく分かった。
「……おにーちゃん、あんまり見ないでっ」
そう言いながら梓は露出されたおなかに手を当てた。へそは隠れたけど、その他も結構肌色なので、兄としてちょっと複雑な気分である。
黒い毛並みを連想させるフリルが多い上着とスカートは、どちらも異常に丈が短い。だというのに、なぜかニーハイソックスを履いているのがミスマッチというか、不自然でならなかった。
「むふふ♪ 目の保養ね……絶対領域って現実で見るとすごくあれだわ。こう……うん、絶対!って感じ」
しほの感想を聞いてもやっぱり意味不明だった。
まぁいいや、とりあえずコスプレってそういうものだと思い込んでおこう。
「梓……ハロウィンなんて子供だましのイベント、しないって言ったなかったか?」
「そ、それは言わないで! 梓もやるつもりなんてなかったもん……でも、霜月さんが強引だったから」
「ハロウィンをしないなんて神様に失礼よ? みんなでかわいい恰好しないと、神様だって喜ばないわ」
彼女はハロウィンをどんなイベントだと思っているのだろう?
もしかしたら、かわいいコスプレを神様に見せて喜ばせるための行事だと思っているのかもしれない。
「おにーちゃん……ちなみに、どう?」
玄関から上がって、とりあえずリビングに向かう。
ソファに座ると、モジモジしながら梓がそんなことを聞いてきた。
「どうって……かわいいけど」
妹を褒めるくらいなら照れることもない。
素直にそう言ってあげると、彼女はちょっとだけ嬉しそうの頬を緩めていた。
「ふ、ふーん? かわいいかぁ……えへへ、そっかぁ」
喜んでいるなら何よりだ。
「園児のお遊戯会みたいですごく微笑ましいな」
「――梓はそんなにちっちゃくないよ!?」
……まずい、少し言葉の選択を間違えたみたいだ。
さっきまで喜んでいたのに、梓は急に拗ねてそっぽを向いた。
「おにーちゃんなんてしらなーい」
ふてくされたようにそう言って、梓はソファにゴロンと寝っ転がった。
不機嫌な割に隣に座ってくるあたり、女の子ってよく分からない。
いや、女の子ってより……年頃の妹との接し方が難しいだけかな。
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
……いや、訂正。
年頃の妹も難しいけど、同級生の女の子も難しすぎてよく分からなかった。
だって、しほは今ものすごく不満そうに唸っている。
持っているステッキ?のような杖で俺のほっぺたをつついていて、いかにも構ってほしそうな目で見ているのだ。
こんなことされると、無視するわけにはいかないわけで。
意図的にしほからは目をそらしていたのだけど、流石に彼女を見ないわけにはいかなかった。
「ど、どうかしたか?」
そう言って、しほを見ると……梓と同じように露出が多い恰好を直視することになって、すぐに目を離したくなる。
今の彼女は……年頃の男子高校生にとって、目に毒だったのだ――




