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霜月さんはモブが好き  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻
第四部

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第三百三十一話 元ハーレム主人公の決意


【竜崎龍馬視点】


 やっぱり、もう遅かった。


「――バイバイ。龍馬おにーちゃんっ」


 笑顔でそう言った梓は、振り返ることなく帰って行った。

 その後ろ姿を見えなくなるまで見送った後……俺はその場で崩れ落ちてしまった。


「……罪を償う機会すら、もう与えられないんだな」


 かつて、俺は失敗を犯した。

 梓に告白されて、それに対してまともに答えることもしなかった。


 梓が俺のことを『おにーちゃん』と呼んで慕ってくれたから。

 俺も、梓のことを妹と思って、かわいがっていた。


 それだけでいいと思っていた。

 だって、彼女がそれを望んでいたのだから……それ以上の感情は不要だと、梓の気持ちを考えることなく、自分で勝手に決めつけていた。


 妹だから、そばにいるのは当たり前。

 妹だから、兄の俺を慕ってくれるのも、当たり前。

 そんな傲慢なことを考えていたから……彼女を傷つけてしまったのだろう。


 そして、傷つけたことをしっかりと謝ることもできないまま、梓の方が俺から距離を取った。


 そうして梓は、新しい道を見つけて、歩み出したのである。


「俺は本当に、酷いことをしたんだな」


 改めて、実感した。

 俺を怖がるようにビクビクしていた梓を見ていると、胸が痛かった。


 俺さえちゃんとしていたら、きっと違う道もあったのに。

 たとえば、梓と恋人同士になることだって――可能性としては、十分にあり得たのだ。


 その可能性を潰したのは、俺だ。

 俺が、梓の思いを踏みにじったのだ。


 この失敗を償うことはもうできない。

 俺が梓に対してできることは、もう何もないのだから。


 せめて……同じ思いをさせないように、心に刻もう。


「――謝れるうちに、謝っておかないと」


 まだ、俺が傷つけた少女は存在する。

 キラリはそれを許してくれた。俺にまだ期待してくれていた。


 それをありがたく思う。

 だけど、あと一人……まだ、謝れる可能性がある女の子がいた。


「結月にも、ちゃんと……言わないとっ」


 ずっと俺の隣にいてくれたあの子にも、しっかりと頭を下げたい。

 謝ったところで許されるとは思っていないけれど。


 それでも、結月が新しい道を踏み出せるように……梓みたいに、俺への思いがまだあるとしたら、それを断ち切ってあげたい。


 それが、俺にできる唯一のことだから。


「――行くか」


 そのまま、彼女の家へと向かって歩き出す。

 大して防寒していなかったが、寒さなんて今はどうでも良かった。


 足元もスリッパのままだが、まぁいいだろう。

 できるだけ早く、結月も解放してあげたいから。


(でも、なんて言えばいいんだろう?)


 歩きながら、結月にかける言葉を探す。

 しかしなかなか思いつくことはできず……気付けばもう、彼女の家に到着していた。


 バスなら十数分くらいで到着するくらいの距離なのだが、歩いたので一時間以上かかった。

 もうすっかり夜だ。手早く済ませた方がいいか、と思ってインターホンを躊躇なく押した。


 さっさと、終わらせたい。

 そうじゃないと、自分がやってきたことの後悔で、潰れそうだった――

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― 新着の感想 ―
[一言] スリッパでそれだけ歩くのは大変だろうに。 とりあえず、結月と片を付けるのかあ。彼女が一番ヤサグレているようだからなあ。まあ付き合えるルートを自分で放棄したのだし。
[一言] スリッパのまま徒歩で一時間以上かけて歩くことに何の意味もない。 ちゃんとした格好して、バスで早く行く程度の礼儀も守れない、それより自分の生の感情を優先するのでは何も成長してないと思いますけど…
[一言] >さっさと、終わらせたい。 >そうじゃないと、自分がやってきたことの後悔で、潰れそうだった 結局、自分本意なのは変わらない模様。仲が拗れてるときってそういうのに敏感になるのになぁ。
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