間話15 義理の『姉妹』 その1
10年後、幸太郎としほが結婚した後のお話となります。
本編には関係のないのですが、明るい話が書きたくなりました。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
――これは、少し先のお話。
まだ訪れていない10年先のとある一日の出来事。
幸太郎としほが結婚した後のことである。
当然、二人が夫婦になったということは……戸籍上、二人が『姉妹』になったということでもあって。
それが彼女はものすごく不満だった。
「あずにゃん、おねーちゃんが遊びにきたわ!」
「……来なくてもいいんだよ?」
「えー。だって、お暇だったもの」
一人暮らしをしている梓の家に、白銀の美女――霜月しほ改め、中山しほがやってきた。
年齢は26歳。出会った時よりも随分と大人っぽくなった彼女を見て、梓はついため息をついてしまった。
なぜなら、彼女は梓が最も苦手な人間だからである。
「梓……じゃないっ。私、忙しいから帰ってくれない?」
「え、忙しいの!? だったらおねーちゃんがお手伝いしてあげるから、遠慮しなくていいわ」
「遠慮してないよ!? ああもうっ。あのね、しほさんがいたら迷惑だから帰ってほしいってことだよっ」
「あらあら、奥ゆかしい女の子に育っちゃって……! おねーちゃん、妹の成長を感じられて嬉しいわ。でも、大丈夫。おねーちゃんにくらい甘えてもいいのよ?」
「ぐぬぬ……!!」
梓も26歳なので、流石に大人として振る舞うことを意識していた。
一人称も『私』にして、言葉遣いも子供らしさを消そうと心がけている。
しかし、彼女の前だとつい本性が現れてしまうようで。
「何度言ったら分かるの? 梓はね、あなたのことが苦手なんだもんっ!」
まるで高校生の時のような幼い自分をさらけ出してしまった。
そんな梓に、しほは優しく微笑む。
「うふふ。反抗期がまだ終わってないのかしら? よしよし、いい子だから落ち着きなさい? ほら、今日はケーキを買ってきたの。一緒に食べましょう?」
そしていつも通り、しほは梓の話を全く聞いていなかった。
これもまた学生の時から変わらない。しほはいつだって自由で、梓を振り回すのである。
「食べない! 梓、ダイエット中だからっ」
「……それ以上細くなってどうするの? まだまだ小さいんだから、いっぱい食べないとダメよ。ちゃんと大きくならないわよ?」
「もう大きくならないもん! 梓は一生この寸胴みたいなスタイルで生きていくしかないの……放っておいてよ!!」
「むぅ……思春期なのは分かるけど、成長期でもあるんだから、たくさん食べないと」
「梓はしほさんと同級生だよ!? 反抗期も思春期も成長期も終わってるし、この体に未来なんてないんだからね!!」
久しぶりに大きな声を出した。
大人になって、すっかり落ち着いた生活をしていたというのに……しほの到来は、いつも梓を狂わせる。
「しほさんは勘違いしてるかもしれないけど……梓はね、見た目は子供だけど中身は大人だから!」
とは言うものの、ほっぺたを膨らませている梓は、子供のようにしか見えない。
そんなんだから、しほは梓を子ども扱いするのである。
「はいはい、そういうことにしてあげるわ。やれやれ、困った子ね」
「お、大人の対応しないでよ……いかにも『折れてあげました』みたいな態度をとらないでっ。梓が子供っぽく見えるから!」
「うふふ♪」
「ぐぬぬっ」
穏やかに微笑むしほに、梓は歯ぎしりをすることしかできない。
相変わらず、彼女との相性が悪かった。
学生の頃から変わらず、会話がまったく噛み合わないのである。
「いいかげんに――!」
そろそろ本気で怒って追い返そう。
勝手に部屋でくつろぎだすしほを見て、梓がそう覚悟を決めた時だった。
「あ、そういえばだぁちゃんからあずにゃんへのお土産もあるんだった」
その一言で、怒りが消えた。
「――え? おにーちゃんが?」
だぁちゃんとは、ダーリンから派生した呼称であり、要するにしほの夫……梓にとっては義兄の『幸太郎』を意味する言葉である。
「お、お土産かぁ……ふーん? そ、そっかぁ」
途端にそわそわとする梓。
兄からの贈り物が気になってしょうがない様子である。
「そうなんだけど、迷惑だったら帰るわ。また後日、郵送するから」
「ちょ、ちょっと待って! 今渡せばいいんじゃないの!? わざわざ郵送する意味なんてないよっ」
「えー。でも、なんか怒ってるし……」
「う、ウソだよっ。怒ってないから……あー、もうっ。分かった! ケーキ、食べればいいんでしょ!?」
なんだかんだ、抵抗はしたのだが。
兄からのお土産があるなら、話は別だった――
(続く)




