間話14 語るにはちょっとだけ早いとある未来の日常(ラブコメ) その4
――いったい何故、苦手だった母親と同じ業界の職を目指すのか。
どうして、微塵も尊敬していない母親にお願いしてまで、雑誌を出版している企業を紹介してもらったのか。
それは全て、二人の未来のためだった。
普通に人生を歩んでいては、どうしても二人が「ずっと一緒にいる」という未来を掴むことができない。
だから幸太郎は、母親を頼ったのである。
トラベルライターを目指したのは、母親のコネを使って世界を移動するのが容易だからだ。旅行代理店を経営している母親にとっても、幸太郎がライターとして一流になれば利用できる点が多い。
珍しくお互いに利害が一致したこともあってか、母親も幸太郎に協力的になってくれていた。
幸太郎が望むなら、と就職先やモデル事務所も紹介してくれたのである。しかも、トラベルライターになるにあたって、英語の他にも複数の外国語は必ず習得した方がいいとアドバイスしてくれたのも、実は母親だった。そのために、外国語関連に強い大学をオススメしてくれて、幸太郎は現在そこに通っている。
彼としては、まさかここまで協力してくれるとは思ってなかったので、驚いたのだが……しほとの幸せな未来のために、利用できるものは全て利用することにした。
そうして今、彼はしほに『雑誌モデルになること』を提案したのである。
「モデル、かぁ……」
雑誌の表紙に映る華やかなモデルを見て、しほは思案するように目を閉じる。
正直なところ、しほは『モデル』という職業に対して、魅力を感じていない。
そもそも彼女は目立つことが嫌いなのだ。高校生の頃は他人の視線を感じるだけで、自由にオシャベリができなくなるような女の子だったのである。
幸太郎と出会って以降、人見知りが緩和したとはいえ……自ら人前に出るようなことはしたくなかった。
でも、
「しほをモデルに、海外の記事を書いてみたいんだ。それなら海外にもいっしょに行けそうだし……独立して二人きりになったとしても、仕事が途切れないと思うから」
幸太郎が考えてくれた人生の設計図を前に、しほは自分の視界が広がっていくような感覚を覚えた。
「モデルになったら、幸太郎くんの力になれるの?」
「それは、もちろん。むしろ、しほの力が強すぎるくらいだよ」
幸太郎のためなら。
苦手なことにだって、チャレンジしてもいいかもしれない――そんなことを思ったのだ。
「まぁ、えっと……正直なところ、俺がしほと一緒に海外に行きたいだけで、別にどうしてもやってほしいわけじゃないんだけどね」
しかしこれは強制じゃない。
幸太郎なりに将来のことを考えた末に辿り着いた、一つの答えだった。
対人能力において不安のあるしほは、一般的な仕事に就いても苦痛が大きいだろう。それなら家にいてくれた方が安心なのだが、そうなると幸太郎が働いている間、二人は会えないことになる。彼はその問題を解決するために、今回の提案に至ったのだ。
しほが幸太郎とずっと一緒にいたい、と考えているように……彼もまた同じ願いを抱いていたからこそ「モデルになってほしい」などというわがままを言ったのだ。
「ただ……しほの『かわいさ』を利用しているようで気も引けるし、イヤなら断ってもくれた方が、俺としてもありがたいかな」
「――やる」
そんな幸太郎の思いを、しほはちゃんと理解していた。
「幸太郎くんと一緒にいられるなら、がんばるっ」
未来の自分たちを想像すると『イヤ』なんて感情はまったく感じなかった。
それに、
「幸太郎くんが『かわいい』って言ってくれたもの。やる気にならないわけ、ないじゃない!」
大好きな人に褒められると、どんなお願い事でも引き受けてしまうのだから。
「よーし! じゃあ、将来のことも決まったし……このままお家に帰りましょう?」
「いやいや。これから講義だよ? 将来のためにも、サボるのはほどほどにしないと」
「……うげぇ。私、やっぱりおべんきょー嫌いだわ」
「受験の時、あんなに苦労したのは普段からサボってるからだよ」
「そ、そんなママみたいなこと言わないでよ!」
……と、いつものような微笑ましいやり取りを交わしながら、二人は席を立つ。
語るにはちょっとだけ早いとある未来の日常は、やはり語るまでもないくらいに、平穏だった――
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