間話11 語るにはちょっとだけ早いとある未来の日常(ラブコメ) その1
※本編には関係のない小話です。
とある日のできごと。
それは、今語るのは、少し早い未来のお話。
彼女も大人になり、お酒を飲める年齢になった。
そんな頃に、ふと母親がこんなことを聞いてきた。
「しぃちゃんは将来、ヒモになるの?」
「ママ!? あのね、ヒモって言い方は良くないわ……専業主婦って言ってくれないかしらっ」
夕食中、残業で帰宅の遅い父親がいない食卓でのできごと。
彼女――霜月しほの母親は、娘の作った唐揚げを不思議そうに食べながら、更に質問を重ねた。
「主婦って……しぃちゃん、お料理できないのに?」
「で、できるもん! ほら、この唐揚げ美味しいでしょう!? 今日、彼にあげたら『すごく美味しい! 天才だ!! しほちゃん大好き!!』って頭をなでなでしてくれたものっ」
「まぁ、素敵な彼氏さんね。これを美味しいって言ってくれるなんて、とても優しいから大切にしなさい?」
「うわーん! ママのバカ―!」
――そんな口論があったことを、彼に話した。
「幸太郎くん、ママったらすごく酷いと思わない? 自分が綺麗で料理が上手で家事が完璧で性格も良くてすごく素敵だからって、言っていいことと悪いことがあるわっ」
「……とりあえず、しほがお母さんを大好きってことは伝わったけど」
大学に通う二人は、次の講義まで少し時間が空いたので、近くの喫茶店に行くことにした。
そこで彼女は大好きな彼氏と一緒にティータイムに興じていたのだが、ふと母親のことを思い出してしまったのである。
「まさか20歳になってもそんな微笑ましい親子喧嘩をするなんて……しほは大人になっても変わらないなぁ」
「ほ、微笑ましい……? こんなに激しい喧嘩なのに!?」
「これが激しいって思うなら、普段のしほがとても甘やかされてるっことかもね」
「あら! 幸太郎くんったら言うようになったじゃない……もう、そうやってからかわれるとニヤけちゃうからやめなさい? 私は今、怒ってるのよ?」
砂糖を吐き出しそうになるくらい甘ったるい会話を交わす二人に、周囲の同級生たちは少しだけ居心地を悪そうにしていた。
大学の近くにある喫茶店なので、自然と顔見知りも多く利用しているが、二人はまったくそれを気にしていない。
周囲の目を気にするなんて、高校生の頃にもう終わっていたのである。
そのせいか、二人だけの空間を作る頻度も増えたのだが……今もその最中だった。
「何に怒ってるの?」
「だ、だって……ママったら、私のお料理を『微妙』って顔して食べてたものっ。愛娘ががんばって作ったんだから、ニコニコ食べてほしかったのに! しかも、お料理も下手って言ってたもん!」
「ああ、そういうことか。でも、俺は美味しいって思うから、それでいいんじゃない?」
「――好き」
「おっと……いきなりの告白はちょっと胃もたれしちゃうなぁ」
「幸太郎くんのせいよ? そんな、いつも私を喜ばせるようなことばっかり言って……でもこれは『ゆゆきし』事態なのっ」
「『ゆゆしき』事態、なんだね」
幸太郎はニコニコと笑いながら、コーヒーを一口すする。
それを真似するようにしほもコーヒーを飲み、それから苦そうに顔をしかめた。
「苦いなら砂糖入れたら?」
「……に、苦くないわっ。いつまでも子供と思ってもらったら困るもの。私、20歳になったのよ? こう見えてお酒が飲めるわ」
「一口飲んだだけで顔を真っ赤にするくらい弱いけど、一応は飲めるね」
「ええ。だからコーヒーだってブラックで飲めるに決まってるじゃない?」
「そう決まってはいないと思うなぁ」
「むぅ……あ、あなたと同じ飲み物が飲みたいの! 確かに苦いけれど、無理してでも同じがいいってことなのよ? 言わせないでくれるかしら」
「そっかー……でも、しほが無理してると、あんまり俺が楽しくないよ」
「――好き」
「はいはい、俺も好きだよ。だから砂糖とミルク入れた方がいいと思う」
「……甘くしちゃったら胸焼けしちゃわないかしら?」
「もうしてるよ」
……もちろん、幸太郎はコーヒーに砂糖を入れていない。
だけど、しほの甘い言葉に、彼はいつも胸がいっぱいだった。
まぁ、なんだかんだ言ってる割には、彼も楽しんでいるようだが。
それは、コーヒーでも中和できない程に甘いラブコメ。
だが、しほは甘党である……その甘さは、まだまだ足りないようで――
突然申し訳ないです。
明るい話が書きたくなりました。




