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第二百三十九話(間話八) もしも彼が『主人公』になれていたなら


 果たして、分岐点はどこだったのだろうか?


(もしも、俺が主人公になれていたなら――)


 想像する。

 テスト用紙を眺めながら、意識が空想の世界へと飛んでいく。


 もしも、俺が主人公として相応しい選択ができていたなら。

 その仮定の先にあった物語は、どんなお話だったのだろう?


(たぶん……もっと違う物語になったんだろうなぁ)


 それが良いか悪いかは、分からない。

 今と比較して幸せか、不幸か、比較できるようなことでもない。


 所詮は妄想の話だ。答えなんてものは存在しない。

 だけど、一つだけ分かることがある。


 もし、俺が主人公になれていたのなら。


 その時はきっと――胡桃沢さんは、笑っていただろう。


 系統としては『ハーレムラブコメ』になるのかもしれない。

 それはそれで、苦難も多かったことは間違いない。

 だが、きっと彼女は今よりも『幸福』でいられたはずだ。


 誰かを選ぶということは、誰かを選ばないということでもある。


 俺はしほを選び、胡桃沢さんを選ばなかった。

 結果、彼女は選ばれないまま、舞台から降りてしまったのである。


 彼女の思いは報われずに、役目を終えて、消えていった。

 それがとても虚しかった。


(俺には、みんなを幸せにできる物語なんて紡げない)


 改めて理解した。

 ご都合主義という理不尽な力に背中を押されたにも関わらず、ラブコメの神様には主人公として不適格の烙印を刻まれた。


 俺には『ハーレム主人公』になる器がなかったのである。


(みんなを幸せにできるのは……きっと、選ばれた一部のキャラクターだけなんだ)


 誰もが幸せなまま終わるエピローグが見てみたい。

 だけど俺にはそれができない、というわけだ。


 みんなが笑顔でいられる『ハッピーエンド』を手にする力を持つのは、たった一人だけなのだろう。


(竜崎……お前にしか、その権利は渡されていない)


 ハーレム主人公として、他人に愛される才能を持った竜崎龍馬にしか、理想のエピローグを語ることは許されていないのである。


 もし、俺にその力があったのなら。

 中山幸太郎が、竜崎龍馬になれていたのなら。


 きっと俺は、迷わずにその道を選んだかもしれない。

 みんなが幸せでいられる『ハーレムエンド』に向かって、歩んでいたかもしれない。


 もしその道を選べたとすれば、胡桃沢さんだってきっと幸せにできたはずだ。


 もちろん、俺はハーレムなんて嫌いだ。

 しかし、みんなが幸せになれるのなら……その道を選ぶことにためらいはない。


 だからこそ、みんなを選ばない不義理な竜崎龍馬が、嫌いだった。


 あいつにはもう一つの道がある。


(みんなを『選ぶ』という道も、お前には存在するんだぞ?)


 竜崎龍馬にしか幸せにできないヒロインがいる。

 彼女たちの思いが報われるには、竜崎龍馬ががんばるしかないのだ。


(主人公がお前じゃなくて、俺だったら――)


 そもそもの話、俺が紡いでいた物語はもっと違う流れを辿っていただろう。

 梓、キラリ、結月の三人に見放されることだってなかったかもしれない。


 しかし、そうなってくると……その『if』の先にある物語に、霜月しほは存在しなかったことに、ふと気付いた。


(いや……俺は主人公じゃなかったからこそ、しほに選ばれたんだ)


 彼女は恐らく、主人公の俺には興味を示さなかった。

 つまり、今の道こそが、しほと添い遂げる唯一の『可能性』だったのである。


 それなら、こんな妄想をしていても意味はない。


 今の物語に不満があるわけじゃないのだから、『もしも』の可能性なんて、考える必要がないのだ。


 だから、悔やむな。

 胡桃沢さんのことで、俺の選んだ選択を反省するな。

 いつまでも、彼女のことで悩むな――!


(俺にはもう、何もできない)


 凝視していたテスト用紙を、再びカバンに入れた。


 胡桃沢くるりという少女がいたことを、忘れたくない。

 だが、いつまでも引きずられても、意味がない。


(どうか、彼女が幸せになれますように)


 そして、祈った。


(竜崎……どうにかしてくれ)


 主人公様の活躍を、とにかく願う。


 そうすることしか、俺にはできないのだから――

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだかんだ一番竜崎に執着しているのは幸太郎なんだよな それが期待なのか、憧れなのか、はたまた別のなにかか・・・
[一言] ハーレムのメンバーになります。 抜け出せない それが本当の不幸ですか?
[一言] そもそも恋愛の舞台から降りたら不幸になるみたいな考え方が頭おかしいんだよな 失恋を糧に強くなって幸せを掴むサブヒロインだっていくらでもいるだろうに
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