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霜月さんはモブが好き  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻
第三部

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第二百二十七話 金の価値と人の価値

「はぁ……」


 意を決して放った一言は、しかし母のため息によって熱を失った。


「幸太郎、お前の感情論に付き合うほど私は暇じゃない」


 取り乱すことなどない。

 俺の言葉なんて、母にとってはただの音に過ぎない。

 何を言おうと、訴えようと、願おうと、母は全て踏みにじるだろう。


 だってこの人は、俺のことを道具としか思っていないのだから、それも当然だ。


「お前が私の子であることを疑いそうだ」


 無機質な声に、喉が詰まりそうになる。

 その時になってようやく、自分が息を止めていたことに気付いた。


 それくらい、今の俺は冷静じゃないようだ。


「幸太郎、お前の感情に幾らの価値がある? お前が何を思おうが、どうでもいい。嫌だろうが、やれ。怒っているなら、感情を抑えろ」


「……なんでだよ。あんたに、そんなことを言う権利があるのか?」


 絞り出すように声を発する。

 精一杯の反撃だったが、それすらも母は容易く一蹴した。


「ある。私はお前の親だからだ」


「説明になってない」


「……お前でも分かるように説明してやろう。幸太郎、お前がここまで成長するのに、いったいどれほどの金がかかったと思う? お前を産まなければ、私はいったい幾ら稼げたと思う?」


 ほら、結局これだ。

 母の価値観は『金』にしかないのだ。

 相手が子供だろうと、関係はないのだろう。


「要するに、お前は私に借金があると考えてもいいだろう。だから、それを返済するだけの利益をあげろと言っているのだ。そこにお前の感情は関係ない」


 ……ダメだ。

 この人を分からせるだけの言葉が、俺には思いつかない。

 まるで宇宙人と話しているような気分になってしまう。


 根本的に価値観が合わないので、言葉は通じているのに、会話ができないのだ。


「今のお前にできることは、胡桃沢財閥とメアリー社のご令嬢に媚びを売ることだけだ。私が満足のいく利益を得たと判断したなら、その時は親子の縁を切ってやる。それまでは、自分の役割を果たせ……それが『大人』というものだ」


 身勝手な論理に、うんざりしてくる。

 こんな人間を大切にしようとしていた自分が、バカバカしくなった。


「だから、胡桃沢の娘とも仲良くやれ。家庭教師の契約は終わったが、そのまま良好な関係を継続しろ。妹の千里にもそのサポートを言いつけてある……うまくやれよ? 可能なら、その懐に入れ。結婚できれば儲けものだ。それでこそ、私が産んだ価値がある」


「…………」


 思わず、黙り込んでしまう。

 会話していたところで意味なんてない――と、思っていた、その時だった。


「ふむ、なるほどねぇ」


 隣で聞き耳を立てていたメアリーさんが、何やら頷いていた。

 それから、通話している反対側の方に歩み寄って来たかと思えば、小さな声でこんなことを耳打ちしてきた。


「コウタロウに、魔法の言葉を教えてあげよう」


「え?」


 いきなりの発言は、いわゆる『アドバイス』というものだった。


「『俺に関わるな。じゃないと、胡桃沢財閥とメアリー社に支援をやめさせる』と、そう言ってごらん? それで多分、会話は終わるよ」


 ……たったそれだけでか?

 こんな無機質で人間味のない母が、この程度の言葉で折れるのか?


 自分で言うのもなんだが、母は恐らく俺に利用価値を見出している。この先もきっと、ことあるごとに俺に介入してくるだろう。


「大丈夫、ワタシを信じていいよ。だってワタシにはできないことがないからねぇ……チートキャラの金言だ。そっくりそのまま、言えばいい」


 ただ、打つ手がないのも事実。

 このまま俺が何を言っても母が聞き入れてくれるわけなどない。


 物は試しだ……メアリーさんの助言に、乗ってみることにした。


「俺に関わるな。じゃないと、胡桃沢財閥とメアリー社に支援をやめさせる」


 そう言い放ち、反応を窺う。

 どうせ『やれるものならやってみろ』などと言われると思ったのだが。





「――それは困るな」





 呆気なく、母は降参した。


「…………はぁ?」


 思わず、困惑してしまう。

 あれだけ散々、俺に色々とと語っていたくせに、たった一言で全てが覆ったのだ。


「交渉に出たか。それをされると困るのはこっちだな……いいだろう。幸太郎、今後はお前には関わらないと約束する。その代わり、きちんと彼女たちとの交友は続けろ。では、切るぞ」


 そう言って、母は一方的に電話を終わらせた。

 あまりにもあっさりとした幕切れに、通話が切れても俺は呆然としたままだった。


「こんな、簡単に……自分の言葉を、撤回するのか?」


 頑なだと思ったのに、想像以上に軽い言葉だったようだ。


「HAHAHA! コウタロウは、まだまだ子供だねぇ」


 驚く俺を見て、メアリーさんはむかつく笑顔を浮かべている。


「ああいう人間にとって『感情』は価値が薄いんだ。だから感情を上回る価値、あるいはリスクを提示すれば、簡単に折れるんだよ……生粋の商人なんて、そんなもんだよ」


 明るく笑い飛ばしているが、しかしその笑顔はとても嘘くさかった。


「金で動く人間は、金で動かせばいい。だからこそああいう人間は信頼してはいけない。結局金で動くんだから、いつか裏切られちゃうからね」


 ……拍子抜けだった。

 いや、今の感情は、ちょっと違うかもしれない。


(あんな人間が、俺の母親なんだな……)


 俺はあの人に、失望していた。

 あんな人に義理を果たそうとしていた自分が、バカバカしくなっていたのだ――

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いつきとさつきが出てきてたからあの物語の続編かと思ってたけど…もしかして全く違う世界線の話?
[一言] しほが本当に怒りをぶつけるべき相手は、くるりよりこの毒母の方だったんじゃね?とオモタヨ・・・・・。 くるりには良きライバルのままでしほがこの毒母とっちめる話だったらもっとスカッとできたかな…
2021/03/06 13:14 退会済み
管理
[一言] そんなのが母親で、よく音が歪まなかったものだ。 というか、まともな人間じゃないほどに歪んでしまったから、逆に雑念が入らずに濁らなかったのかな。
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