バレンタイン特別企画 10年後のハッピーバレンタイン(後編)
※バレンタイン特別企画の続きとなります。
どうぞよろしくお願いします!
「だぁちゃん、ほら……チョコレート、食べて? 手作り風だし、私の愛情もたっぷり詰まってるから、とっても美味しいと思うの」
「手作り『風』だから手作りじゃないのに、そこを強調しなくていいよ……愛情が詰まってれば、それでいいから」
「じゃあ、食べてっ」
「……でも、しいちゃんを支えているから、動けないんだよなぁ」
「あら?」
そういえばあなたの両手は私で埋まっている。
私がこれでもかと言うくらいに体を擦り付けているので、動くことも難しいみたい。
でも、動く気にはなれなくて。
あぐらをかくあなたの膝上は、とても居心地が良い。
背中にあなたの体があって、耳元にあなたの吐息がかかると、幸せな気持ちで胸がいっぱいになっちゃう。
申し訳ないけれど、この態勢を崩したくない。
だから私は、あなたの『手』になってあげることにした。
「じゃあ、私が食べさせてあげればいいじゃない♪ ほら、どうぞ……あーんして? だぁちゃん、あーん」
小箱からチョコを取り出して、その口元に差し出してあげる。
一口サイズのチョコを前にして、あなたは恥ずかしそうにほっぺたを赤くした。
「な、なんか、バカップルみたいで恥ずかしいなぁ」
「え? バカップルなのよ? 今更恥ずかしがるなんて、遅すぎるわ」
「そうなんだけどさ? でも、しぃちゃんはかわいいから、やっぱり照れちゃうんだよ」
はにかむあなたは、本気で照れていた。
そんな『うぶ』な反応をされちゃうと、こっちまで恥ずかしくなっちゃう。
いつまで経っても、あなたは私に魅了されてくれている。
それが本当に、幸せだった。
「だぁちゃんったら、本当にかわいいわ♪」
「……その『だぁちゃん』って呼び方も、恥ずかしいんだけどね」
「むぅ。どうして? かわいいと思うのだけれど」
わざとらしく唇を尖らせて拗ねていることを伝えたら、あなたは私をあやすように、頭を撫でてくれた。
「よしよし……落ち着いて? 別にイヤなわけじゃなくて、恥ずかしいだけだから」
「それが不本意だわっ。『だぁりん』をかわいくしただけなのに、そんなに変かしら?」
「……名前で呼んでくれると、もうちょっと平常心でいられるってだけの話だよ。ほら、高校生の時みたいに、さ」
高校生の時――かぁ。
言われて、ふと心の引き出しを開けてみると、電子レンジに入れたゆで卵みたいに、一気に爆発した。
大切にしていた思い出が心を一杯にする。
とても幸せだった状態で、更に幸せが重なって、不意に涙が出そうになる。
それくらい、私の心は満たされていた。
高校生の時は……確か、こう呼んでたっけ。
「――幸太郎くん?」
久しぶりにその名前を呼んであげる。
そうしたらあなたは、嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱりこっちが慣れてるよ……しほ」
あなたがそう呼ぶのも、なんだか久しぶりな気がした。
でも私は、やっぱり『しぃちゃん』の方が大好き。
パパとママにもそう呼ばれていたから、こっちの方がより身近にあなたを感じることができるから。
うん……ごめんなさいだけれど、あなたの要望を聞き入れることはできないわ。
「でも、照れているあなたを見るのが大好きだから、呼び方は変えませ~ん。幸太郎くん、なんて呼んであげないわっ。あなたは私の大好きな『だぁちゃん』だもの」
再度、気に入っている愛称を口にしたら、あなたは顔を真っ赤にした。
その表情すらも愛しくて仕方ない。
思わず食べちゃいたくなるほどだった。
「ほら、だぁちゃん……チョコ、食べて? あーん」
もう一度、指でつまんだ一口サイズのチョコを差し出す。
体温で少し溶けたチョコレートを、強引に彼の口の中に入れてあげた。
「むぐっ」
指ごと食べさせてあげる。
食べちゃいたくなるほどに愛らしいあなたに、食べられるのも悪くないかも。
「どう? 美味しい?」
感想を聞いてみる。
するとあなたは、頬を赤くしながらも……しっかりと頷いてくれた。
「うん、美味しいよ」
果たしてそれは……どっちなのかしら?
私の指と、チョコレートは、どっちがあなたの好みに合ったのかなぁ?
……その答えを問いかけたら、きっとあなたは困ってしまうのでしょうね。
私は嫉妬深いから、相手が食べ物だろうとやきもちを妬いてしまうもの。
それを自覚しているから、あえてその質問は聞かないであげることにする。
その代わりに、こんなことを聞いてみた。
「ねぇ、私のこと、大好き?」
疑ってはいない。
不安なわけでもない。
でも、聞きたい。
あなたの気持ちを言葉にしてほしい。
そんな私のわがままに、あなたはちゃんと答えてくれた。
「うん、大好きだよ。しぃちゃんのこと、心から愛してる」
そう言って、あなたは私を抱きしめてくれた。
それがやっぱり……幸せだった。
10年経って、私とあなたは随分と変わった気がする。
でも、変わらないものはある。
それは、チョコレートみたいに甘いもの。
私とあなたの『愛』は、どんなに時間が経っても変わっていなかった――
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