バレンタイン特別企画 10年後のハッピーバレンタイン(前編)
※バレンタイン特別企画として、バレンタインのお話を書きました。
舞台は10年後となっております。
本編とは関係ありませんが、どうぞよろしくお願いします!
――2月14日は何の日でしょうか?
知らないなんて言わせないわ。
あなただって知っているはずだものっ。
「ハッピーバレンタイン!」
深夜0時のこと。
時計の長針と短針がてっぺんで重なると同時に、私は眠っているあなたに向けて声をかける。
「ねぇ、起きてっ! 今日はバレンタインよ? 一年に一度の女の子の大切なイベントなのに、どうして起きていないのかしら? ねぇねぇ、もしかして私のことが嫌いになった? そんなのイヤよ、あなた……起きてよぉ」
力強く体を揺すってあげると、ぐっすり眠っていたあなたが、ようやく目を開けてくれた。
「し、しぃちゃん……まだ深夜なのに……」
呆れたような、苦笑するような、それでいて嬉しそうに笑うあなたのほっぺたに、軽くキスをしてあげる。
おはようのキスは毎日の日課だから、深夜だろうとかかせないわ。
「だぁちゃん、日付が変わったのよ? つまり今はバレンタインデーなの! だから私からあなたにたくさん愛をあげるわ……うふふ、私の愛に押しつぶされないようにがんばってねっ」
「そんなこと言われても……重いなぁ」
とかなんとか言いながらも、あなたが悪い気分になっていないことを、私は知っている。
だって、あなたは私のことが大好きだから、愛されて嬉しくないはずがないもの。
重たくても、今のあなたは背負ってくれる。受け止めてくれる。だから私は、全力であなたを愛せるようになったのだから。
「だぁちゃん、どうぞっ! 手作りっぽいチョコレートよ? とっても美味しくて高いから、たぶんすごいわっ。私もさっき半分食べたのだけれどね、美味しくてほっぺたが落ちそうだったもの」
「……先に食べちゃったのかぁ」
あらかじめ用意していた小箱を渡す。
もちろんそれは市販の製品で、手作りなんかじゃない。
私にとって料理とは食べる物だから、チョコレートは作ってあげたくても作れないわ。
だけど愛情はたっぷり込めておいたから大丈夫っ。
愛情を注ぐ過程でつまみ食いもしちゃったけれど、そういうハプニングもまたありよね。
そんな私の奇行さえも、あなたにとっては愛しいはずだから。
「半分じゃなくて八割食べちゃってるし……そんなに食べたなら、本当にほっぺたが落っこちてるんじゃないかな?」
そう言って、あなたは私のほっぺたに手を伸ばす。どうやら触りたいみたいなので、そっちの方に歩み寄ってあげた。
そのまま、ベッドに座るあなたに身を預ける。お膝の上に座ると、あなたは当然のように私を受け止めてくれた。
優しい抱擁に身を任せていると、不意にほっぺたがつままれる。
まるで泥団子みたいにこねこねされちゃっていた。
「どう? ほっぺた、落ちてるかしら?」
「……溶けそうなほどに柔らかいけど、落ちてはないみたいで安心した」
「うふふ♪ 良かったわ。だぁちゃんが大好きなプニプニのほっぺたが落ちちゃっていたら悲しいものね」
「うん、そうだね」
深夜、半ば叩き起こした形になったにも関わらず、あなたは朗らかに笑ってくれる。
思わず、その笑顔に見惚れてしまった。
「今日も、笑顔が素敵ね」
「そう? 普通だと思うけどなぁ」
そんなことない。
あなたの笑顔は、とても魅力的だもの。
出会ってから長い年月を経て……あなたはとても変わったわ。
笑い方も明るくなったし、口調も少し優しくなった。
昔よりも、今のあなたは温かい。
あと、まるで別人みたいに表情が柔らかくなったわ。
それが本当に嬉しかった。
あなたと私には色々あったけれど。
最終的に、こういう形で一緒になることができて、本当に良かったと思う。
だって私は今、とても幸せだから。
これ以上に何も求めるものがないくらい、満たされているもの。
本当に、私は……幸せ者だった――
※後編に続きます。