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霜月さんはモブが好き  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻
第三部

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第百五十話 引き伸ばし

 すぐ目の前で、胡桃沢さんが心配そうに俺を見つめている。


「中山? 鼻、大丈夫?」


 細い手が伸ばされて、俺に触れようとしてくる。

 慌ててのけ反ると、彼女はきょとんとしたように首を傾げた。


「ん? なんでそんなに警戒してるの? 私、別に何もしないのに……」


「いや、大して深い意味はないんだけど……」


 まずい。なんて言えばいいのか分からない。

 好意を寄せてくる女の子との接し方なんて分かるわけがない。

 大抵の女の子は、俺に対して無関心だった。好意を寄せてきた子なんて、しほだけだったのだ……彼女になら、好意を返せばいい。だってしほは、俺にとって特別な人間だから、そうするのが当たり前だ。


 でも、胡桃沢さんは違う。

 今日出会ったばかりで、まともな会話もしたことがないというのに……彼女は明らかに、俺のことを特別に思っている。


 それが不気味だった。

 理由のない好意って、意味が分からない。


 とはいえ、だ。

 人間は与えられた感情をそのまま返す性質がある……嫌われたら嫌いになるし、好きになってくれたら好きになりやすい。

 だから普通の反応を考えるなら、好意を返すのが正しいのだろう。


 でも、胡桃沢さんを好きにはなれない。

 だって俺には、しほがいるのだ。しほを差し置いて好意を返すわけにはいかない。

 そのせいで、彼女に対する接し方が分からずにいた。


「それはつまり、触れてもいいってこと? だったら……遠慮なく、触っちゃうけどいい? べ、別に、特別な意味はないのよ? ただ、なんとなくっていうか……とにかく、手を握らせて?」


 もう一度、彼女が俺に触れようとしてくる。

 しかし、それを許せるほど、俺はしほの感情に対して鈍感になれはなかった。


(きっとしほは、俺が他の女の子に触れたら悲しむ)


 それを知っている。

 俺は竜崎龍馬にはなれない。

 鈍感なあいつなら、今の状況でも平気でイチャイチャできるのだろうけど。


 俺はどちらかというと、敏感なのだ。

 だから、やっぱり……彼女の思いを、受け止めることはできなかった。


「ご、ごめんっ」


 もう一度、後ずさる。

 胡桃沢さんの手は、俺の手を握ることなく……空を掴んだ。


「……そんなに、イヤなの? なんで? できれば、理由を教えて?」


 しかし胡桃沢さんは怒らない。

 ショックを受けていると言うよりは、なおさら前のめりになっているような気がした。


 冷静に俺が嫌がる理由を探ろうとしている。現在地を把握しようとするように、俺の感情を知りたがっている。


 感情的になってくれた方がまだやりやすかった。

 冷静に分析するその様が、彼女の本気度を表している。


 どれだけ長期戦になっても、関係ないと言わんばかりに。

 俺の心に触れるためであれば、どんなに時間をかけようと、その価値があると言わんばかりに。


「もしかして……付き合ってる人がいたりするの? だから、他の女子と触れ合うことはできないってこと?」


 臆せず、彼女は切り込んでくる。

 その勇気に、気後れした。

 本気の感情をぶつけられて、狼狽えてしまった。


 でも、ここで流れに流されては、意味がない。

 しほを悲しませるくらいなら……目の前の少女を傷つける覚悟だって決められる。


 だから俺は、正直に答えたのだ。


「大切な人がいるんだ。俺が君と触れ合ったりしたら、きっと彼女が悲しむから……その気持ちに、応えることはできない」


 心苦しくないと言えば、嘘になるだろう。

 でも、俺には誰よりも優先したい人がいる。

 その子を悲しませるくらいなら、いくらだって心を鬼にする。


「ごめん」


 ハッキリと、拒絶する。

 しかし彼女は、まるで俺の答えを分かっていたかのように、力強く頷いた。


「やっぱり、そうなんだ」


 今までのやり取りで、覚悟はしていたようだ。

 そして胡桃沢さんは、落ち込みもせずに……更に一歩、俺へと詰め寄ってきた。


 その瞳には、燃え上がるような闘志が宿っていた。


「でも、私が聞きたかった答えは、それじゃない。『付き合っている人がいるのか』を、教えて? 中山にとってその子は恋人なの?」


「……恋人では、ないけれどっ。限りなく、それに近い人だよ」


 嘘は言えない。

 俺たちはまだ、付き合っていない。

 しほが関係の進展を急いでいないから、それに合わせている。


 だけどそれが仇になったようだ。


「……なんで? そんなに大切にしている人がいるのなら、付き合うのが普通でしょ? 他の女子に触れることができないくらい、中山はその子を大切に思っているのに……どうして付き合ってないの?」


 更に深く、えぐってくる。

 俺としほの関係性にある、わずかな歪みを突いてくる。


 違うんだ、胡桃沢さん……本当に大切だからこそ、俺達はゆっくりと関係を進展させていきたいんだ。


 と、理由を教えた。

 いや、言わざるを得なかった。

 勘違いしてほしくなかったのだ……俺がしほに抱いている思いが決して軽いものではないのだと、説明した。


 だが、それすらも彼女にとっては、追い風にすぎなかったらしい。


「ありえない」


 一言、彼女は断ずる。


「中山がそんなに大切に思っているのに……好きでいてくれてるのに、その子はどうして受け入れてあげないの? 愛が重いから壊れちゃう? もっと愛されたい? そんなの、ただのわがままでしょ? 中山のことを本当に大切に思うのなら……どうして、あなたの思いを満たしてあげようとしないの?」


 しほの思いが、否定される。

 それは、俺にとっても最も嫌なことだった。


 俺のことはいくら悪く言ってもいい。

 でも、しほのことだけは、許せない。


「あの子だって、真剣なんだよっ……俺のことを心から大切に思っているからこそ、失敗しないようにしてくれてるんだ!」


 語気が荒くなる。

 乱暴な態度に、普通の女子であれば怯えてしまうだろう。

 だけど胡桃沢さんは、気丈に俺を真正面から見据えていた。


 怯むことなく、億すことなく、怯えることなく、俺に向き合っている。


「中山がそうやって甘やかすから、今の関係に落ち着いてるんでしょ? ねぇ、あなただって本当は分かってるんじゃない……? その子は、中山の優しさに甘えてるだけだよ。だってそんなの、おかしいもん」


 今まで、俺としほの関係性は不可侵のものだった。

 神聖な領域として、ずっと守られていたはずだった。


「そんなに大好きでいてくれるあなたを、拒絶するその子が私には許せない。だって、そんなの……ただの『引き伸ばし』でしょ?」


 でも、そこに彼女は切り込んでくる。

 正論という刃をかざして、正面から立ち向かってきたのだ――


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― 新着の感想 ―
[気になる点] やっぱ竜崎がフェードアウトしてると一気につまんなくなるなこの作品は。作品自体の主役もやっぱ竜崎なんだよな~、竜崎がいないとエセ主人公は基本何も持ってねえから途端にその辺のただの石ころと…
[一言] 1部後からある目標である真の愛を見つけるって 感情論の話はどこがゴールなのかが難しいからな 今回のコピーヒロインはそれの踏み台なんだろうか? それともヒロインを裏切って浮気に走るか?
[一言] お互い納得してるなら他人にどうこう言われる筋合いの話でもないけどな でもまあラブコメによくある片側だけの都合で相手が望んでるのに関係を進めず停滞させるのは確かに自分勝手な甘えであって相手の気…
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