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第百四十五話 綺麗な音を持つ少女

 転校生がやってきた。

 一年二組にとっては二度目の転校生となる。本来であれば他のクラスに回されると思うんだけど……うちのクラスにきたということは、やっぱり竜崎龍馬の『ご都合主義』がまだ機能している、と判断していいのだろうか。


 それとも、他の理由があってこのクラスにいるのか。


 正確な理由は、今のところ分からない。そもそも彼女がどういうキャラクターを持っていて、どんな立場にいるのかも分からないのだ。


 しばらく様子を見たいところである。

 ただ、なんとなく……彼女は一般人ではないような気がするのだ。

 何かしらの役割を持ってこの場に登場した気がする。

 何故かというと、普段は誰にも興味を示さないしほが、目を丸くして胡桃沢さんを見ていたからだ。


「……綺麗な音が聞こえる」


 ポツリと、彼女は呟いた。

 メアリーさんですら興味を抱かなかった彼女が、こんなに前のめりになっているところを、初めて見た。


「パパとママの音に、すっごく似てる……」


 しほの胡桃沢さんに対する感想を聞いて、俺もびっくりしてしまった。

 しほのご両親であるいつきさんとさつきさんに似ていると言うことは……すなわち、生粋の主人公とヒロインである二人と、同様の人間であるということになる。


 だとするなら、やっぱり彼女はテコ入れのキャラクターなのかもしれない。死にかけている竜崎のラブコメを復活させるための蘇生薬として投入されたのだろう。


 それなら、良かった。

 竜崎が復活さえしてくれれば……あの三人の思いが成就する可能性もある。いや、仮にその思いが実らなかったとしても、区切りをつけて別の道を歩むことだってできるはずだ。


 そうなってくれたら、本当に素晴らしいと思う。


「じゃあ、胡桃沢さんの席は、えっと~……メアリーさんの席がいいかなぁ? ちょうど休学してるし、いいよね~」


 鈴木先生が見つめる先には、空いている席がある。

 そこはメアリーさんの席になっているはずの場所だけど、もうずっと誰も座っていない場所だ。


 一応、彼女は休学しているだけで、学校をやめたわけではない。だから席替えの時も除外せずに、くじで席を決めていた。


 場所は前方の廊下側である。ちなみに竜崎御一行は現在、窓際後方に固まっている。梓は中央付近に移動していて、俺としほは相変わらず廊下側後方だ。くじ作成係になったしほは竜崎に対する不正こそやめたが、俺と隣り合わせになるための不正は続けている。


 クラスメイトも流石に疑っているだろうけど、何も言ってこないので、それまでは俺も素知らぬ顔をすることにしていた。鈴木先生も大して気にしていなさそうなので、大丈夫だろう。まぁ、あの人は説教とか指導とかめんどくさいことが嫌いなので、意図的にスルーしている可能性もあるけど。


 ともあれ、席の位置は竜崎と関係のない場所に座りそうだ。

 だとするなら、胡桃沢さんは物語に関係のない人なのだろうか――と、考えていた時だった。


「私、前じゃなくて後ろがいいんだけど」


 相変わらず不機嫌そうな顔で、胡桃沢さんが不満を口にした。

 その言葉に、鈴木先生はとてもめんどくさそうに舌を出した。


「うぇ~? 後ろがいいの~?」


「うん。前はイヤ」


 ハッキリと意思表示する胡桃沢さんに鈴木先生は曖昧に笑う。露骨にめんどくさがっており、抵抗するのも億劫になっているみたいだ。


「はいはいは~い。そういうことなので~、後ろの席の誰かと交代で~す。ちなみにどこがいいですか~? さっさと決めてくださいもう疲れました~」


 感情が駄々洩れである。もう全て胡桃沢さんの言いなりになることを決めたみたいだ。そんなんだから結婚できないんだと思います、先生……。


 でも、まぁこの流れは悪くない。

 恐らく胡桃沢さんは、窓際後方の席……つまり竜崎がいる場所に近いところにいくだろう。そうして竜崎と関わるようになり、物語に巻き込まれて、新ヒロインという立場からあいつの復活を促すのだ。


 そんなことを、予想していたのだが。


「……じゃあ、あっち」


 胡桃沢さんが指を差したのは、窓際後方の席ではなく。


「――――え?」


 なんと、廊下側後方の席。

 つまり、霜月しほの席だった――




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― 新着の感想 ―
[良い点] もしやこの子も特殊感覚持ち?
[一言] 百合ヒロインに一票
[一言] ほう、つまりこーたろーのラブコメが再始動するのか
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