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霜月さんはモブが好き  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻
第三部

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第百四十二話 ハーレムの牙城ですら

 ――ハーレムが、壊れていく。

 夢から醒めたように、ヒロインたちの愛が冷めていく。


 これは、竜崎龍馬が選んだ道。

 自分をモブキャラだと思い込み、自らキャラクターを手放した結果、ヒロインたちから見放されてしまった。


 これが、未熟なハーレム主人公様の末路なのだ。


 物語の主人公は、当たり前のように成長する。最初は意思が弱くても、物語という試練を通して、徐々に強くなっていく。


 竜崎龍馬も、当初はそうやって理想的な成長曲線を描いていた。

 ご都合主義の力も借りて、立派なハーレム主人公様になりかけていた。


 しかし、彼は羽化することができずにいる。

 その理由は――やっぱり、彼が原因だろう。


 中山幸太郎。


 一人の異物が竜崎龍馬の物語に混入していた。

 その雑音は、物語を通して大きくなっていき……やがて竜崎龍馬の全てを煩わせる異音となった。


 中山幸太郎のせいで、竜崎龍馬の覚醒は果たされなかった。


 宿泊学習の時も、文化祭の時も、竜崎龍馬が覚悟を決めた時には、いつも中山幸太郎がそこにいた。竜崎龍馬の物語を狂わし、捻じ曲げ、壊してきた。


 おかげで竜崎龍馬は未熟なまま、物語が進んでしまい……結果、彼は自信を喪失した。自分に期待できなくなった。どう振る舞えばいいのか分からなくなった。そのせいで彼は、ラブコメの神である『ご都合主義』という概念に見放されてしまった。


 そうなったら、後はもう転落するだけだ。

 地に落ちたハーレム主人公様は、その肩書すらも全てを失う。


 ハーレムが崩壊して、主人公ですらなくなってしまう。


 ただし、まだ彼の周囲には女の子がいた。

 その子たちはいわゆる『サブヒロイン』に分類される、竜崎ハーレムの中でも特に強いキャラクターを持っている女の子たちである。


 彼女たちが、竜崎ハーレムの『牙城』である。

 サブヒロインたちに愛されてさえいれば、まだ竜崎龍馬は主人公であることを維持できる。


 だけど、今の彼には何もない。

 キャラクターとしての魅力を失った『モブキャラ』になっている。

 そんな竜崎龍馬を見て、さすがのサブヒロインたちも……ショックを受けていた。


 ――違う。


 まず初めに違和感を覚えたのは、浅倉キラリだった。

 久しぶりに登校してきた竜崎龍馬を見て、彼女はいちはやく声をかけた。文化祭の一件を経て『自分』を取り戻した彼女は、中山幸太郎を見返すためにも、竜崎龍馬と結ばれる必要がある。


 だから、積極的にアプローチを仕掛けようとした。


「りゅーくん、久しぶりっ! あのね、アタシ……」


 しかし、話しかけている途中で、彼女はすぐに気付いた。


(違う。アタシが好きになった人は、こんな人じゃない)


 直感が、そう告げている。

 もともと彼女が竜崎龍馬を好きになったのも直感だった。

 一目惚れして現在に至るのだが……だからこそ彼女は、感覚的に今の竜崎龍馬を受け入れられなかったのだろう。


「…………」


 話しかけられても、彼は無言で席に座った。

 浅倉キラリのことは見えているだろうが、話す必要がないと言わんばかりに無視していた。


 そんなところが、浅倉キラリには気に食わなかった。


(はぁ……なんか、嫌だなぁ)


 ため息をついて、竜崎龍馬から目を逸らす。

 ふと教室の隅を見ると、中山梓が見えた。彼女もかつては竜崎ハーレムの一因だった。少し前にハーレムから抜けてはいるのだが、しかし彼女は今でも竜崎龍馬を忘れないでいる。よく目で彼を追いかけているくらいには、気にかけている。


 だからこそ、今の竜崎龍馬を見てショックを受けているみたいだ。


「…………えっ?」


 自分の席で呆然としている。目を丸くして、何度も竜崎龍馬を確認している。

 まるで、幻でも見ているかのような仕草だが……これは現実だった。


 それくらい、今の竜崎龍馬は豹変していた。


(こんなりゅーくんを愛するのは、ちょっと違うよね……)


 この状態の彼を愛することは、本音を言うと容易いことだ。

 ただ、受け入れてしまえばいい。ダメなところに目をつぶって、見ないふりをして、いつも通りに振る舞えばいいだけだ。


 でもそれはできなかった。


(それこそ、ただの『依存』になっちゃうし)


 愛することと、依存することは違う。

 竜崎龍馬にすがりついて生きていくのは、もうやめた。

 だから彼女は、あえて彼を無視することにした。


(りゅーくん……なんでそうなっちゃったのかなぁ)


 ショックだった。

 しかし思考は放棄せずに、なんとか彼を救う手立てを考えようとする。


(っ……アタシは頭が良くないから、分かんないのにっ)


 だが、ここがサブヒロインの限界値だった。

 今の竜崎龍馬は、並大抵のキャラクターでは手を出しようもなかったのである。


 このまま、落ちぶれてしまうのだろうか……と、サブヒロインの誰もが思った。


 しかし、ただ一人だけ……こんな竜崎龍馬だろうと、受け入れた人間がいる。


「龍馬さん? おはようございますっ。今日は学校に来てくれたんですね……嬉しいです。何度もご連絡を差し上げましたけど、返信がなかったので心配でした。あ、もちろん返信がなかったことは気にしていませんよ? そこはどうでもいいことですからね!」


 その人間の名前は、北条結月。


 中山幸太郎の、幼馴染である――



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― 新着の感想 ―
[一言] もう、元幼馴染の話はいいので幸太郎としほちゃんのイチャイチャを見せてください。
[一言] アレの本質は無神経クズですから あの年齢であんな無神経クズな時点で 矯正は不可です。そもそも一軍に振られようが 二軍メンバーがいるのにガン無視して 悲劇のヒロイン面をしている時点でね アレ…
[一言] 苦しんでる時や弱ってる時に支えてやれ って言っても部活なりスポーツなりに打ち込んでたのが事故や怪我でオシャカになって苦しんでるってなら兎も角、自分の好意を無視して他の女の尻追っかけた挙句フラ…
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