表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/654

第百三十話 ごほうび


 ――気付けば、もうすっかり日が暮れていた。

 もうそろそろ帰らないと、しほは門限に遅れてしまう。しかし彼女は帰る気がないようで、ずっと俺を抱きしめていた。


「にゅふふっ。久しぶりに幸太郎くんを独占している気分だわっ♪ こうやってずっと抱きしめていたいなぁ……あ、そうだっ。幸太郎くんを抱き枕にするのはどうかしら? 布でくるんで私のベッドに置いておきたいわっ」


 ……発想が怖いのも、いつも通りだ。

 しほはすっかりいつも通りに戻っている。メアリーさんが退場したおかげだろうか。


「そういえば……いつから見てたんだ?」


 さっきの彼女は、まるでずっと見ていたかのような物言いをしていたけれど。

 実際にそんなことはないだろう。少なくとも、校舎裏にはいなかった。もしあそこにいたら、俺がビンタされた時にしほは飛び出て来ていたはずである。


 早くても竜崎の告白くらいか、あるいはあいつが出て行ったくらいのタイミングから、俺達を見ていたのかもしれない――という俺の予想は、だいたい当たった


「ちょうど、幸太郎くんが壁ドンされたくらいかしら? 教室であなたの帰りを待っていたら、空き教室から大きな音がしたの。少し様子を見に来たら、幸太郎くんとメアリーちゃんを見つけたわ」


 大きな音、というと竜崎が机を蹴り飛ばした時か。


「だから、詳しい状況までは知らないし、何があった?なんて無粋な質問もしないわ。ただ、あなたの思いだけは理解しているもの……私を守ろうとしてくれたのでしょう? それで、十分だわっ」


 そう言って今度は、俺のほっぺたに手を伸ばしてきた。

 ちょうど、キラリに叩かれたところである。


「でも、傷つくほどに頑張らなくてもいいのにっ……ほら、腫れてるわ? 何があったかは聞かないけれど、私はあなたが傷ついて辛いってことは、理解している?」


「……うん。ごめんな」


 素直に謝る。そうすると彼女は、ニッコリと笑って頷いてくれた。


「きちんと謝れるなんて偉いわ。ええ、もちろん許してあげるっ……あ、そうだっ。幸太郎くん、かがんで?」


「え? あ、うん」


 いきなりどうしたのだろう?

 何をされるのかは分からないが、言われた通りに中腰になった。


 しほよりも少し目線を低くしてみる。

 そうすると彼女は、いきなり俺の頭をくしゃくしゃにした。


「よしよし♪ 今回はよくがんばりましたっ。あなたの努力に、ごほうびをあげるわ」


 ……どうやらしほは、労ってくれるらしい。

 そのまま彼女は俺に身を寄せたかと思ったら――そのまま、唇を重ねてきた。


「――っ」


 不意の出来事に、頭が真っ白になる。

 反対にしほの顔は、熟したりんごみたいに真っ赤になっていた。


「こ、これが……ごほうびよっ? べ、別に、メアリーちゃんに幸太郎くんの初めてが奪われそうになって焦ったわけじゃないからねっ。あなたが大好きだからキスをしたことを、勘違いしないでねっ!」


 どこにツンツンしているか意味不明だけれど……そのご褒美を、俺は強く噛みしめた。


 ――がんばって、よかったなぁ。


 心から、そう思えた。

 未熟だし、情けない俺だから、不甲斐ない点もたくさんあっただろうけど。

 でも、しほは見守ってくれた。俺のがんばりを認めてくれた。終わった後は、しっかりと褒めてくれた。


 それだけで、報われた。

 がんばって良かったと、心の底からそう思えた。


(絶対に、この子を幸せにしよう……!)


 固く、心に誓う。

 しほを不幸にすることだけは、絶対にしない。


 これからも、ずっと……彼女を守る努力をしよう。


 そしてこの子と、幸せになりたいなぁ。


 と、そんな願いを夜空に祈って。


 第二部は、閉幕となるのだった――

ここまでお読みくださりありがとうございます!

次から第二部のエピローグです。ひとまず話を区切れて良かったです。

途中から少しぐだぐだして申し訳ありませんでした。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。

第三部でも、どうぞよろしくお願い致しますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今更ながら、改めて思いました 付き合ってないのにこんなに甘々なら、付き合ったらどうなるんだろう?と 第二章完結お疲れ様でした!!  第三章も楽しみです!
[一言] 主人公のしほに対する気持ちだけは揺らいでいないのが、心休まる所かなあ。 ともあれ、二部ほぼ完結、お疲れさまでした。 もう一人は、三部で触れられたりするのかな。
[気になる点] 実はこの世界は、友達も幼馴染みもいないクラスの最底辺モブである中山の妄想の中だった…。 親友、幼馴染み、義妹は主人公に取られたがトップカーストである主人公の好きなメインヒロインだけは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ