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霜月さんはモブが好き  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻
第二部

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第百十二話 ハッピーエンドとは

 空き教室を出ると、そこはまるで異空間のようだった。

 賑やかな校内はどこも文化祭一色だ。自分のクラスの出し物を宣伝する生徒や、イベントを楽しんで騒いでいる生徒もいて、うるさいくらいである。


 そういえば今は、文化祭の最中だっけ。

 あまり騒ぐ気分にはなれないけど、暗い顔をしているのは場違いか。

 苦笑しながら、自分の頬を軽く叩いた。


「…………よしっ」


 こんな顔をしていては、かわいいあの子を悲しませてしまう。

 だから気分を切り替えて、再び顔を上げた。


 すると目の前には、当然のようにメアリーさんがいたので、思わずため息をついてしまった


「せっかく気分を切り替えたのに……はぁ」


「おやおやぁ? 美女の顔を見てためいきをつくのは良くないねぇ。色男になったせいで自信過剰になったのかなぁ~?」


「うるさい」


 今はメアリーさんに付き合う余裕がない。乱雑に振り切ろうと試みたけど、しつこく付きまとってくるので不快だった。


「どうしてそんなにイラついているのかなぁ~? あ、もしかして、そんなに女の子を拒絶したことが苦しいの~?」


 ……やっぱり盗み聞きしていたのか。

 相変わらずこの人は、性根が腐っているなぁ。


「そんなに辛いのなら、受け入れてあげればいいのにねぇ? その方がいいよっ! そうしたら、みんな幸せになれるよ? そっちの方が、ハッピーエンドに近くなると思わないのかなぁ~?」


「……そんなわけないだろ」


 しほが悲しむ結末がハッピーエンドなわけがない。

 まったく、くだらない。聞く価値もない戯言に付き合うほど暇じゃないのだ。彼女は無視して、さっさと教室に戻ろうとする。


 そんな俺に、メアリーさんは言葉を止めない。

 一方的に、またしても語り出した。


「まぁ、今回はがんばって拒絶したけど、次はどうなるか楽しみだよ。今度はなんと、ついにキラリが振られちゃうよ? その時、壊れかけた彼女を前に、はたしてコウタロウが無情を貫けるのか……楽しみだねぇ」


「――っ」


 不意に、息が止まりそうになった。

 そうか、彼女のシナリオではついにキラリが振られるのか。

 それはたぶん、現実となるかもしれない。


 俺に拒絶された彼女は、ヤケを起こしてついに竜崎へ告白するのだろう。そして振られて、彼女がボロボロになったところで、メアリーさんは再び俺を投入するのだ。


 その時、果たしてどんなことが起きるのかは……想像もしたくなかった。


「じゃあ、そういうことだから、後でまた楽しみにしてるよ~」


 そう言ったと同時に教室に到着したので、俺は何も言うことができなかった。

 しかもメアリーさんは、あえて場を乱すように……わざとらしく、声を張り上げてこう言った。


「うわぁ! コウタロウ、すごくイケメンだよー!」


 その言葉がで、教室にいたクラスメイトが一斉にこっちを見た。

 メイクを施した俺の姿を見て、みんな驚いていた。


「ふむ。結構、変わりますね。主役としての風格が出て何よりです」


「お、おお……おにーちゃんが、おにーちゃんじゃないっ!!」


 特に、俺と交流のある仁王さんと梓は声をかけてくれた。

 キラリの化粧技術はかなり良いのだろう。他のクラスメイト達にもジロジロと見られて、少し居心地が悪い。


「ちっ」


 そして竜崎も不機嫌になっていた。メアリーさんが騒いだので、それが面白くなかったんだろうなぁ……この人、黙らないんだよ。俺だって困ってるんだから、そんなに睨まないでくれ。


「……むむむっ」


 それから、意外なことに……教室にはもう一人、不満そうな子がいた。

 しかもそれは、しほだった。


「ちょ、ちょっと来てっ」


 しほは珍しく慌てた様子で俺の方に駆け寄ってきて、不意に腕を掴んできた。何をするのかと見守っていると、そのまま引きずって教室の外に出て行こうとしていた。


「どこに行くんだ?」


「いいから、きてっ」


 ズルズルと引きずるように、しほが俺を外へと連れ出す。

 そうして到着したのは、いつかも来た校舎裏だった。


 文化祭とは縁のない静かなここで、彼女はようやく足を止める。

 それからしほは、おもむろにハンカチを取り出したかと思ったら……俺の顔を、ゴシゴシとこすり始めた。


「ちょっ、なんで? しほ、どうしたんだ?」


 いきなりの出来事に混乱していると、しほはほっぺたを膨らませる。唇も尖っているので、明らかに不機嫌そうだった。


「私は、ありのままのあなたが好きなのっ。今の幸太郎くんは、見ていてなんだかムカつくの!」


 どうやらしほは、化粧の施された俺の顔が嫌だったみたいである――


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― 新着の感想 ―
[一言] なんかやっぱり思考がなぁ、変人ではありますよね。メアリーも中山も。いや歪んだ厨二病かも(苦笑) しほとは変人同士お似合いではあるし、正直梓とキラリに異常性が見られなかっだけに。
[良い点] 別に化粧ぐらいいいやんと正直思いましたけどしほが可愛いので許す
[気になる点] あれ, そういえば義妹がおにーちゃんだとみんなの前で呼んだけど, 二人の関係明かしてたっけ...? そういう話なかったような...
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