表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霜月さんはモブが好き  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/654

第百八話 喜怒哀楽が『感情』で、動けば総じて『感動』になる

 決めゼリフを決めたメアリーさんは、満足そうに笑っていた。


「だから、明日はよろしく頼むよ? ワタシが指示を出したら、その通りに動くだけでいいから……言うことを聞かないと、君が大好きなあの子も巻き込んでしまうかもしれないから、気を付けてね?」


「ああ、もちろん。しほにさえ関わらなければ、なんでもいいよ」


 頷くと、メアリーさんは邪悪な笑顔を浮かべる。

 ……やっぱりしほとは違って、かわいくない笑顔だった。


 竜崎はこんな笑顔のどこがいいと思ってるんだか。

 まぁ……あいつは『本物』を知らないから、仕方ないか。


 人を本気で好きになったことがなくて、いつも流れに流されて、ただ存在するだけで愛されるような人間が、人を愛せるとは思えない。だからきっと、愛された女の子が浮かべる素敵な笑顔を、竜崎は知らない。


 望めばいつでも、手に入れられたものなのに。

 梓でも、キラリでも、結月でも、誰でもいい。本気で向き合って、本気で恋をすれば、あいつもきっと『幸せ』を手に入れられたかもしれないのに。


(竜崎龍馬のラブコメも、ここまでだな)


 もう、諦めた。

 あいつはただのハーレム主人公で、それ以上でもそれ以下でもない。

 恐らく、メアリーさんに散々弄ばれて、彼女の思うがままにされて、終わりになる。


 読者に『ざまぁみろ!』と思わせて、あいつは最後まで何も生み出すことなく、物語が終わる。


 なんて悲しい人間なのだろう?

 ……まぁ、同情はしないけど。


 これは、あいつが綴る物語だ。俺には関係ない……と、言いたいところだけど、遺憾ながら敵役という立ち位置にいるので、最後まで付き合わないといけないか。


 ならばせめて、最後まで見届けよう。

 敵役として、竜崎龍馬という主人公を徹底的に追い詰めてやろう。


 それが、俺に出来る唯一の手向けである。


(でも、うーん……竜崎はともかく、その後――俺がハーレムなんて作るかなぁ?)


 ただし、竜崎のラブコメが終わった後のことは、正直なところ完成度が甘いと言わざるを得なかった。


 だってメアリーさんは、あの子の存在を無視している。

 物語に縛られないあの子を、意図的に考えないようにしている。

 だって彼女は、メアリーさんが扱いきれない程の存在感を有しているから。


 ……あるいは彼女がいなければ、恐らくそういう展開もありえたかもしれないけど。

 

(しほはかわいいヤンデレちゃんだからなぁ)


 霜月しほは、普通の人よりもちょっぴりだけ、愛が重いのだ。

 だから彼女がいる限り、ハーレムなんて絶対に許さないだろう。


(一人で勝手に動き出すキャラクターは、一番めんどくさいらしいからなぁ……メアリーさんもたぶん分かってはいるだろうけど、あえて無視しているのかな?)


 かつて、キラリにオススメされた小説のあとがきで見たことがある。『本当はこんな結末にするつもりじゃなかったけど、キャラが勝手に動いて暴走した』と、作者が書いていた。


 確かにその物語は、少し歪だった。

 メインヒロインよりも人気のあるサブヒロインが、主人公と結ばれたのである。おかげで今まで張り巡らされた伏線も台無しになったけど、それも仕方ないことだと、作者は納得していた。


 おかげで、その作品のレビューでは、賛否両論の意見が真っ二つに分かれていた。だけどそれは、名作である証でもある。


 プラスの方向だろうと、マイナスの方向だろうと、感情が動けばそれは『感動』なのだ。それだけ読者の心を動かすことができたのなら、それはそれで作品として成功なのかもしれない。


 ただし、メアリーさんはそんなこと、望んでいないだろう。

 だって彼女は過程なんてどうでも良くて、『ざまぁみろ』と言いたいだけなのだ。きっと、自由に動くしほのことを煩わしく思うだろう。


 でも、彼女には何もできない。所詮はテコ入れのサブヒロイン……いわゆる『偽物』なのだ。メインヒロインという『本物』を思いのままに動かせるはずがない。


 だからきっと、メアリーさんが望むほど『ざまぁ』とは言えないだろう。だって俺はハーレムを作らないのだ。


 つまり俺の立場は変わらないし、しほとはずっと『仲良しのまま』ということである。


(ほら、結局は君の思い通りにはいかないぞ?)


 メアリーさんは思い通りにいくと信じて疑っていないみたいだが。

 計算外のできごとは絶対にある。それを肝に銘じておけよ――と、心の中だけで言っておいた。


 まぁ、伝えるような義理はない。

 仮に今伝えて、用心したりするなら……それはそれで、めんどくさい。


 竜崎が地獄を見るのは、正直なところ悪い気分にはならないけど。

 何もかもがメアリーさんの思い通りにいくのも嫌だ。


 二人がちょうどいい具合に、苦しんでくれればいいんだけど。

 はたして、どうなることやら――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 賛否両論ある作品は名作である証って言う言葉がすごい心に刺さった!説明できる語彙力はないけど、とにかくこの話はいい!
[一言] 苺100かもしれない
[良い点] ただのハーレム物ざまぁだと思って読み始めました。 しかし、だんだんシナリオが進んであれ?って感じで 興味がマシマシになっております。 正直、最近ますます面白くなってきて、驚きです。 普通は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ