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73.本番

 先生の発表が終わり、私の出番となった。

 震える脚を押さえ、舞台の中心に置かれた演壇に立つ。全員の視線が私に集まっていることを痛いほど感じた。


 自分の研究には自信がある。ここにいる人全員に認められようとは思っていない。私はただ胸を張って発表すればいい。

 そう言い聞かせて、私は大きく深呼吸してから話しだした。



 発表が終わると、会場はどよめきの渦と化した。何か不手際があったのかと動揺していると、一番前の席にネイト様が座っていることに今更気がついた。ネイト様は歯を見せて笑い、親指を立てていた。どうやら私の発表に問題があったわけではないらしい。

 私はその笑顔に安堵し、質疑応答へと移った。



 発表後、やっとの足取りで舞台袖に戻ると、その場にへたり込んでしまった。

「大丈夫?」

 ずっと見守ってくれていた先生が駆け寄ってきて、心配そうな顔で私の様子を窺っている。

「だ、大丈夫です……安心したら力が抜けて……それより、私、ちゃんと出来てましたか?」

「うん、良かったよ」

 その言葉を聞いて、やっと終わったんだと実感した。

「なんだか、皆さんざわついてましたけど……」

「それだけ衝撃的だったんだよ」

 先生はそう言うと、いつものように笑っていた。


 会場では次の発表が始まっている。

 とりあえずロビーで休もうと思い、椅子に腰かけて喉を潤していると、見慣れた人物が目の前に現れた。

「お疲れ様、クレア」

「ロニー様! どうしてここに?」

「君の晴れ姿を見ようと思ってね」

 そういうことを聞いているんじゃない。薬学者しか入れない学会にどうして来ているのか、ということだ。と、そこまで考えて、そういえばこの人は王宮のお偉いさんだったと思い出した。こんな所に紛れ込むことは彼にとって容易い仕事に決まっている。

「初めてにしては上手く出来てたじゃないか」

「あ、ありがとうございます」

 ロニー様にそう言われて素直に喜んでしまった。

 それから少し世間話をして、ロニー様は会場を後にした。学会も終了しようとした時ぐらいになって、ロニー様の“初めてにしては”という言葉が引っかかった。……どうやら私はまだまだ精進しなければならないようだ。手放しで褒めてくれないところがロニー様らしいと一人で笑ってしまった。



 学会の後はパーティが開かれる。

 このパーティは私たち貴族に馴染み深いパーティではなく、交流を中心とした会食の場である。口説くことも無ければダンスをすることもない。そもそも率先して踊る薬学者の方が少ない。


 適当に食べて適当に帰ろう。緊張で朝からロクに食べてなかった。テーブルの上に並ぶ美味しそうな料理に目が眩む。

 乾杯の挨拶が終わり、食事を取りに行こうとした瞬間、数人に取り囲まれた。

「ノースドロップ様、お話をお伺いしてもよろしいですか?」

「私も今回の研究でお聞きしたいことがあるんですが……」

 私よりずっと年上の薬学者たちが興味深そうに質問を投げかけてきた。無下な態度を取るわけにもいかず、私は一人ひとり真摯に対応した。


 それから色んな薬学者が寄ってきて、色んな質問をされた。称賛の声も多く浴びた。その中には「親の七光りだろう」とか「本当にあの子がやったのか?」などと、妬みか恨みか分からない声をわざと聞こえるように言う人もいたが、そこは想定の範囲内だ。今更そんな嫌味に耐えられないほど、甘い人生を送ってない。


 小一時間ほど揉みくちゃにされて手に負えなくなったところ、やっと私の存在を見つけてくれたお父様とお兄様に助けてもらいその場を脱出した。

 朝から労力を使って満身創痍の私は、ポスト先生に挨拶する暇もなくお兄様に連れられて帰宅したのだった。



 学会で発表することが重要であり、この研究をどうするかは国の判断に任せるしかない。

 王宮の薬学者たちや、リオの父親やロニー様を筆頭とした偉い人たちの審議によって、方針が決まる。活かすも殺すも国次第だ。


 私は自室のベッドに潜りながら、今日のことを思い出していた。

 今後誰かに命を狙われるかもしれないだとか、恨まれるかもしれないなどという身に迫る危機感が無いと言えば嘘になる。しかし、大変な一日だったけど貴重な体験が出来た満足感や多くの薬学者たちに認められたことの喜びの方が勝っていた。


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