6.決意
医者には安静にするよう伝えられ、頭も痛むので大人しくベッドで過ごすことになった。
リオもずっと心配そうにしていたが、夜も遅くなるので王宮の自宅へ帰って行った。
周りから人もいなくなり、やっと頭の整理がつく。
あれは夢じゃない。
前世の私の姿か、平行世界の私か、そんなことはどうでもいい。
問題はあのゲームの内容である。
目が覚める前に攻略しようとしていたキャラクター。あれは間違いなく、レナード・デクスター、つまり、リオだった。
闇属性の魔法を扱う、クールで孤独な一匹狼。闇属性の力の強さから幼少期の頃から人に怖れられ、どんどん疎外されるようになったせいで人と群れなくなった。ヒロインは光属性の力と持ち前の明るさでレナードの心を開いていく……そんなストーリーだった。
レナードルートには、とあるイベントが存在する。
彼が授業の演習で怪我をする。ヒロインは治療薬を探して回ったが、購買には売っておらず、友達の少ない彼女が頼れる相手もない。そこに現れたのが、薬学に詳しいレナードの幼馴染だった。話を聞いた幼馴染はヒロインに治療薬を託す。その薬で回復したレナードは、ヒロインへ心を開き、好感度が上がる、といったイベントだ。
ちなみにその幼馴染が「リオ」と愛称で呼んでいた事で、ヒロインも愛称で呼ぶようになる。
そのイベントで好感度ゲージが一気に上がり、逆にそのイベントを逃すとノーマルルートで終わってしまう重要イベントだった。
気づいてしまった。
その幼馴染って、私の事だわ。
名前の表記も『レナードの幼馴染』で、キャラ絵もその他大勢の絵にちょっと手を加えただけだったけど、リオの周りにそんな存在は私しかいない。
私、ただのモブじゃん。
自分の存在にガッカリした。
ヒロインじゃなくても、もっと重要な絡みをする子とか、ヒロインの友達とか、せめてキャラ絵が確立されている子が良かった!
それより、いくつか気になる点がある。
ゲームのレナードはクールで孤独な一匹狼だった。
確かに私以外に友達はいないようだけど、私の知っているリオは、優しくて愛嬌があって少し弱いところのある人だ。ゲームの印象とまるで違う。
それに、ゲームのレナードは婚約者なんていなかった。今のリオには私という婚約者がいる。
もしかしたら、ゲームの世界観だけ一緒でゲーム本編とは関係ないのかもしれない。
でも、もしも主人公が転入して来たら?他の攻略キャラじゃなくて、リオを選んだら?
その時私はヒロインに勝てるのだろうか。
最悪、婚約破棄されてしまうかもしれない。リオが他の人に微笑む姿なんて見たくない。
「絶対に嫌だ……!」
考えただけで胸が張り裂けそうになる。どうしたら回避出来るのか。
痛む頭で必死に考える。悩みに悩んだ時、ひとつ名案が浮かんだ。
「私が薬を渡さなければいいんじゃない……?」
レナード攻略のためには絶対に避けられないイベントの妨害をすればいい。そうすれば好感度も上がらないで済む。
いや、もっと単純に……
「私が学園に進学しなければ良いのか?」
主人公に絶対に関わらなければ、手助けすることは絶対に出来なくなる。
魔法学園以外に進学するとなれば、やはり薬学の専門学校か。というか、なぜ今まで専門学校へ行く選択肢を選んでいなかったのかとすら思えてきた。
だって、専門的な知識も身に付けられて、さらに王宮勤務に一歩近づくから、良い事尽くしではないか。
ただ、入学するとなれば一筋縄ではいかない。お金さえ積めば入学できる貴族の魔法学園とは訳が違う。試験は一般教養に加え専門分野の筆記、実技もある。趣味で身に付けた程度では不十分なことは私でも分かった。
でも、やるしかない。
入学まであと三年。
絶対にヒロインにレナードルートを攻略させるもんですか!
私はベッドの上で、強く誓った。