5.記憶
夢を見た。
自分はノースドロップ家のようなお屋敷に住む令嬢ではなく、平凡な会社員の元に生まれた平凡な娘。
階級制度があり魔法が使えるような国ではなく、科学の発展した社会で家から近い高校に通う生徒。
趣味は自宅の薬草園に入り浸って研究することではなく、ゲームをすることだった。
特に入れ込んでいたのが『白魔法使いのプリンセス』という乙女ゲーム。
田舎の平凡な家に生まれた女の子が主人公。ある日、世にも珍しい光属性の魔法を使えると知られたヒロインは、貴族御用達の魔法学園に転入する。そこで様々なイケメンと出会いっていく恋愛シミュレーションゲームだ。
今日も家に帰ると、制服を着替える間も惜しんでゲームを起動する。
何週目か分からないこのゲーム。授業中ずっと考えていた。今日攻略するキャラは、黒魔法使いの……
そこで目が覚めた。
目に飛び込んだのは幼い頃から見慣れた天井で、先ほどのゲームをしていた部屋では無かった。
「クレア!」
「……リオ?」
心配そうに手を握っているリオ。周りにはお母様や侍女の顔があった。
「良かったわ、クレア……! ルーク! 貴方、妹に謝りなさい!!」
目を潤ませているお母様は、壁にもたれ掛っていた兄を引っ張り出し、頭を下げさせた。
「……悪かった」
そっぽを向いたまま謝罪の言葉を述べるお兄様。それで謝っているつもりなのか。悪態のひとつでもついてやりたいが、木刀が当たったところがまだ痛むのでため息だけで許してあげる。
「……クレア、お願いだから無茶をしないでくれ」
リオに手を強く握られ、泣きそうな顔をして訴えられた。そんな顔をさせてしまったことに罪悪感を覚える。
私がかばわなくても、リオは自分で避けることが出来ただろう。だけどリオが傷つく姿を私は見たくなかったのだ。
「……ごめんなさい」
そう謝ると、リオは泣きそうな顔を歪ませて無理矢理微笑み、そっと頭を撫でてくれた。