48.絶望の淵
レナードルートのフラグを折ってやった! これでリオとの将来は安泰!
そう思っていた。
でも、そうじゃなかった。
「悪いが、婚約を破棄してほしい」
彼に突き付けられた言葉に、絶望を感じた。
昨日まで仲良くしていたはずだ。
喧嘩した後ほど仲良くなる。それは私たちも例外ではない。昼休みも放課後も一緒に過ごしていたし、この前の休日は我が家でお茶もした。
前よりも心も体も距離が縮まっていた。ずっとこの時間が続けばいいと思っていた。
それなのに、なぜ。
婚約破棄の言葉を突き付けたリオ。そして彼の腕に自分の腕を絡めるシーア。
どうしてシーアがここにいるのか。どうしてリオはそれを許しているのか。
この状況が全く理解できない。
「ちょっと待って、どういうこと?」
「そのままの意味だ」
混乱する私は、声が震えないように必死で感情を押し殺しながら彼に訊ねる。そんな気持ちを察することなく即答する彼は、今まで私に向けたことが無い程冷たく非情な眼をしていた。
「私の事が嫌いになったってこと?」
「――シーアの方が魅力的だと気づいたんだ」
キッパリとそう言い切ると、リオは愛おしそうにシーアを見つめた。その視線を受けたシーアはくすぐったそうに笑う。
昨日まで、私がそこにいたはずなのに。
なんだ、これは。悪い夢じゃないだろうか。
「私、リオのために薬学の専門学校を蹴ったのは知ってるよね?」
「あぁ……あれは悪いと思っている」
やっと謝罪の言葉を述べたが、謝ってほしいのはそんなことじゃない。立て続けに彼は言葉を続けた。
「もちろん、王宮の薬学者になれるよう俺が斡旋する。約束は守る」
「え?そんな約束してたんですか? それって脅しじゃない?」
人の気も知らず、私を見下しながらクスクスと笑うシーアに苛立ちを覚えた。
今となっては、そんな約束どうでもいい。私は、約束を守って欲しい訳じゃない!
「両親には俺から伝えておく。話は以上だ。行こうか、シーア」
「えぇ、行きましょう、リオ」
仲睦まじいやり取りを見せつけられて、吐きそうになる。
引き止められるなら、今すぐにでも引き止めたい。
ここで私が喚き知らして彼の気持ちが変わるなら今すぐやる。でも、あの顔や言葉に嘘っぽさは見えなかった。全て彼の本心だ。
私にはどうも出来ないことが嫌でも理解できた。
腕を組んで立ち去る二人の後姿を見つめていると、シーアが「ちょっと待って」と足を止めて私に近づいてきた。
一体なんだ、と身構えていると、彼女は周りに聞こえないように私の耳元で囁いた。
「ごめんなさい、クレア様。でも仕方ないよね。貴女、モブだもの」
人を馬鹿にしたように笑うシーア。やっぱり自分がヒロインだと知っていたのか。リオに何をした。ヒロイン補正でも使ったのか。
きつく睨むと、痛くもかゆくもないと言わんばかりに彼女はより一層笑い出した。
「大切な人を取られる気持ちはどう? でも、私は貴女からずっとそんな目に遭わされてきたのよ」
負け犬を見るかのような目。屈辱でしかない。でも彼女に馬鹿にされたことより、リオを取られたことの方が辛い。胸が張り裂けそうだ。
置いて行かれた私は、その場で泣き崩れることしか出来なかった。
最終章です。




