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4.きっかけ

 それから瞬く間に、話は親まで伝わっていった。

 反対されるかと思っていたが、お母様は大喜び。お父様は娘をとられる気持ちから複雑そうな面持ちだったが、認めてくれた。


 本来なら伯爵家の娘と市民の息子だと結婚は難しいが、相手の父親が大臣であるランドル卿の息子となると訳が違う。その息子も闇属性となれば王宮入りは間違いなく、立場として申し分ない。

 それに本人同士が納得しているのならそれに尽きるという結論に至ったのだ。


 ただ、リオはまだ大臣の息子というだけ。婚約したことが公に知れ渡ったら他の貴族から何を噂されるか分からない。

 本人が王宮の職に就くまでは、婚約関係は内密ということになった。



 十二歳の誕生日も過ぎた。


 いつものように薬草園でお茶をしながら、リオとの世間話に花が咲く。


「お兄さんは相変わらず剣術に夢中なの?」

「そうよ、進学せず騎士団に入るとか言い出して。お父様が必死に止めたんだから」

 十五歳になると国民のほとんどが教育機関へ入学する。社会に出る前に教養や知識を身に付けるためだ。

 ほとんどの人は魔法学校へ入学する。ただ家業によっては専門的な学校へ進学する場合もあった。

 我が家の場合、跡継ぎである者は、薬学を専攻する学校へ入学するのが当たり前となっていた。

 

 今まで薬学と統治しか学んでこなかったお兄様に大きな変化があったのが二年前。

 体力も付けるべきだと始めた剣術に、のめり込んでしまったのだ。そこからお兄様は勉強もそっちのけで、剣術ばかりするようになってしまった。

 薬学専攻の学校では、座学か実験が中心で体を動かす機会はほとんどない。それを知ったお兄様は「そんなところに進学するぐらいなら騎士団に入ります!」などと言い出したのだ。

 そこから家中、大パニック。

 怒るお父様と泣きだすお母様。薬学を教えていた研究員は頭を抱え、剣術の先生は責任問題に。

 最終的に、「騎士団に入るにしても、魔法学校は出ておいた方が良い」と全員で説得し、薬学専攻ではなく貴族の通う魔法学校への入学が決まった。


「大変だね……」

 同情するリオは気づいているのかしら。その大変な人が、将来、貴方のお義兄さんになるのよ。



「そろそろ帰らないといけない時間ね」

 西日が差しこんできたことで、随分と時間が経ったのだと気づく。会いたいと思う時間は長いのに、一緒に過ごすとあっという間だ。

「……もうちょっと一緒に居たいな」

「ダメよ。またすぐに会えるから、ね?」

「こんなに好きなのに?」

「……私だって同じ気持ちなの知ってて言うのはズルいわ」

 随分と甘え上手になったものだ。私がこの顔に弱いことを知った上でやるから性質が悪い。

 このままズルズルと甘やかしてたら、お母様たちが様子を見に来る。私たちがイチャついている姿を見て「あらあら」と笑われるのは、二度と嫌だ。

 私は心を鬼にしてリオを説得した。



 薬草園からお母様たちの元へ向かうには、必ず中庭を通らなくてはいけないのだが、出来れば足早に過ぎ去りたかった。

 この時間、たまにお兄様が剣術の練習をしていることがあるからだ。剣術バカになってしまったお兄様に関わるとロクなことが無い。特にリオを連れているときは尚更だ。


「おい!」

 一番聞きたくない声がした。呼ばれた先には、木刀を持ったお兄様の姿があった。

「お久しぶりです、お義兄さん」

「お前にお義兄さんと呼ばれる筋合いはねぇ!」

 穏やかに返事をするリオと、喧嘩口調のお兄様。どっちが年上か分からない。

「俺はお前が妹の婚約者なんて認めてねぇからな!俺と勝負しろ」

 これが可愛い妹を取られたから、なら「お兄様大好き!」となるのだが、私のことは喧嘩を売る口実に過ぎないから腹が立つ。

 闇属性のリオと手合せしたいだけの、格闘馬鹿だ。昔は知的でカッコ良かったのに、どうしてこうなってしまったのか。

「ほっといて行きましょ。お母様たちが待ってるわ」

 困った様子のリオの背中を押す。

 こんなのに構ってるぐらいなら、薬草園で過ごす時間に当てたかった。


「食らえ!」

 歩き出そうとした瞬間、お兄様が持っていた木刀をリオに向かって投げた。下劣なやり口に驚いたが、それよりリオに怪我をさせてしまう!

「リオ、危ない!」

 考えるより先に身体が動いた。

 リオをかばったせいで、飛んできた投げつけた木刀が私の頭部に直撃した。

 

 薄れゆく意識の中で、リオが私を呼ぶ声だけが木霊していた。


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