41.優勝者
「レナード様ぁ!」
甘えた声を出すシーアは、控室に戻ろうとするリオを呼び止めたので、私はすぐに物陰に隠れた。
「先ほどの試合、とってもカッコ良かったです!」
「あ、あぁ……」
距離が近い。顔が近い。声がデカい。その声量なら、そんな近づかなくたって聞こえているはずだ。人の恋人に気安く触れるな。リオが困っている。
「応援してます!」
先輩を応援する後輩かのような、下心丸見えの甘い言葉に反吐が出る。
いつもなら怒り狂っているが、今日の私は余裕だ。彼女が応援しないと、賭けに勝てない。
それにもうひとつ、確信を得られた。
やはり彼女の狙いは、レナードルートだ。
彼女を引き離したリオが控室に入ったのを見届ける。踵を返してこちらに向かってくるシーアに気付かれないよう、私はすぐさまポスト先生の元へ戻った。
回復薬を急いで調合している間に、試合が始まってしまった。
私は一生懸命手を動かしながらも彼の試合を見守る。リオの怪我は治っているし、魔力も回復しているので、とりあえず一安心。しかし、もう先ほどみたいな怪我は見たくない。
そう思っていた矢先、リオが大きく吹き飛ばされた。爆発的な火力によって、リオの頬は軽くやけどをしていた。
生死をかけた戦いでは無いし、怪我もすぐ治るのに、落ち着いて見られないのは私の性分か、それとも好きな人だからだろうか。
会場の席で一人見守っていたら、心臓が持たなかっただろう。手を動かすことで気分を紛らわせられるこの環境に感謝した。
完成した回復薬は、救護班がバケツリレーのようにして持って行った。長引いているこの決勝戦で、この後どれだけの薬が必要になるか分からない。
先生に「もう作らなくてもいいよ」と言われても、材料が尽きるまで作るのを止められなかった。
大激闘の末、勝ったのはリオだった。会場から大きな歓声が上がっている。拳を振り上げているリオは凛々しくて勇ましい。
なんだか泣きそうになった。
涙が流れるのをぐっと堪え、私は部屋を飛び出した。
リオはステージから控室までの通路で、祝福の声を上げる人たちに揉みくちゃにされていた。いつもの無表情とは違い、嬉しそうなのが顔に出ている。
物陰でシーアが様子を窺っている後姿が見えた。どこかのタイミングで出てやろうと思っているのだろう。
私はシーアを追い越し、走ってリオの元に向かった。
「――おめでとう!」
リオが怪我をしているのも忘れ、思わず飛びついてしまった。
今にも倒れそうなのに、ちゃんと受け止めてくれたのは、彼の優しさである。私を抱きしめながら、彼は喜びの笑みを浮かべていた。
彼の血や汚れで制服や白衣が汚れるのも構わない。彼が無事だっただけで嬉しかった。
大会編終了です。次から日常に戻ります。




