31.優しい忠告
「元気してたかい?」
「あ、お久しぶりです」
薬学室を訪れると、優雅にお茶を飲んでいるロニー様が居た。向かい合って座るポスト先生は話し相手をしている。私はおざなりな挨拶を交わすだけ。本当なら怒られてしまう態度なのだが、全く咎められない。それはお互いに見慣れた光景になってしまったからだろう。もう、いつものことだ。
特に話すことも無いので、いつもの場所に掛けてある自分用の白衣を羽織る。それから育てている植物の発芽具合を確認し、魔法で少しだけ育てるのを手助けしてやる。
そんないつもの作業をしていると、ロニー様はポスト先生との会話を止めてから私に話しかけてきた。
「聞いたよ。転入生に絡まれているんだって?」
ロニー様の発言に、私はがっくりと項垂れてしまった。ここでもシーアのことを考えなければならないのか、とため息が出る。
シーアの私とリオに対する態度は、学園中の噂になっている。その話を耳に入れたポスト先生がロニー様に面白おかしく喋ったのだろう。本当に勘弁してほしい。
「人の噂は早いですね」
「社交界に出れば、もっと早いよ」
私の嫌味にも卒なく返されてしまった。何よりもロニー様が楽しんでいる様子なのが腹立たしい。
「で、どんな感じなの?」
「面白がらないでください。思い出しただけでストレスなんですから」
「でも、すごいじゃないか。怒鳴ることなく笑顔で往なしてるんだろ?」
「当たり前ですよ。こないだまで市民だった子に貴族の常識が身についてるはずないですし」
「でも身についてないとダメなんだよなぁ」
確かにロニー様の言う通りである。
自分の身分をわきまえるのは、田舎の町で育った市民でも、ある程度は理解しているはずだ。いくら希少な光属性でも、過保護にする必要はない。
もし使えない奴だと思われたら、他国に移住し利用される前に殺されてしまう可能性もある。彼女はそこまで危惧していないのだろう。
そんな殺伐とした国じゃないから大丈夫だと思うけど、絶対に無いとは言い切れない。
彼女の周りに忠告してくれるような人物はいないのだろうか。
「ポスト先生から注意してくださいよ」
試しにお願いしてみたが、先生はすぐに首を横に振った。
「ダメダメ。僕みたいなやつが叱ったところで説得力に欠けるでしょ」
確かに。こんな身なりの先生が立ち振る舞いを説いたところで聞こうとは思わない。この人、本当に見た目で損をしている。
ロニー様はまた椅子に座ると、お茶を飲みながら話題を変えた。
「しかしまさか、ランドル卿の息子と君が恋人同士だったとはね」
これも予想しなかった発言だ。今まで知らなかったのか。ポスト先生がベラベラと口を滑らせていてもおかしくないのに。
ランドル卿を知っているような口ぶりに、そういえばロニー様は王宮勤めだったと思い出した。何かしらで関わりがあるのだろう。
一方はこの国の大臣、もう一方は呪い魔法が使える人物。そう考えると、私の周りにはとんでもない人たちが大勢いるな。
「十分気を付けなよ」
先ほどまでの食えない感じとは打って変わって、ロニー様の目が一瞬だけ鋭くなった。
本気の忠告と言うことだろうか。しかし何故そんなことを言い出すのか分からず、首を傾げていると、ロニー様は再び笑顔に戻った。
「腐っても光属性、ということさ」
「それは、どういう――」
「さて、実験するか!」
ロニー様は私の質問を遮るように大きく手を叩くと、立ち上がって私たちを急かし出した。
ポスト先生も準備万端のようで、最近作った試作品を机の上に並べている。
「今回は自信作だからね!」
「おっ、楽しみだなぁ」
盛り上がる大人組に調子を狂わされてしまった。
一体どういうことだろう。光属性がそんな凄い真似を仕出かすということだろうか。
しかし一人考えていても結論は出ない。
まぁ、いずれ分かるか。と自分を納得させて、私も作業に移ったのだった。




