28.食い違う記憶
各キャラクター攻略ルートの他に、ノーマルエンドと逆ハーレムエンドが存在する。
ノーマルエンドは、特定のキャラクターを攻略せず友情関係のまま終わるルート。逆ハーレムエンドは全キャラの好感度を一定数上げれば訪れるルートだ。
ちなみにどのルートに進もうが、卒業後は光属性の魔法使いとして活躍できるので将来は安心である。
もしかして彼女は逆ハーレムエンド狙いなのか。
いや、そんな訳が無い。そんなの自分がゲームのヒロインだと知っている人しかしない行動だ。たぶん彼女は天然でやっているのだろう。
考えれば考えるほど、ため息しか出ない。
ここ最近、シーアの事で頭を悩まされてばかりだ。
「最近、来る頻度減ったね」
ポスト先生に指摘された通り、薬学室へ訪れる回数が減った。
理由はひとつ。シーアの言動に目が離せないからだ。
あれからリオは彼女と親しくはならなかった。挨拶されれば、気まぐれに返事をするぐらいで、話しかけられても無視している。つまり他の女子生徒への態度と同じになったということだ。
それでも、あれだけ献身的にリオが私に構って来ていたのに、今では私がリオを構っていて、立場が逆転しかけている。
「実験は進んでるから良いじゃないですか」
手に入りやすい植物との調合は一通り試したので、最近は希少価値の高い植物の種を家からかっぱらって来て、ここで育てている。種からだとすぐには使えないが、私の木属性を駆使し、普通より速いスピードで育てていた。
「それに転入生の子に補習もしているんですよね? その時間はここに来れませんし」
「まぁ、そうだけど」
現に先生は実験に手を付ける暇も無く、補習用の小テスト作りに追われている。
毎日放課後には各教科の補習が行われる。シーアとの一対一の授業。
薬学は人気が無いくせに覚えることが多いので、週に数回行われている。その間、薬学室は出入り禁止。
私としては、リオとの時間が増えたし、シーアがどこにいるのか分かるので、嬉しい限りだ。
私の喜びとは裏腹に、先生は大きなため息をついた。
「薬学に興味ないのは分かるんだけど、全然やる気がないんだよね」
「先生が生徒の文句なんて言っていいんですか?」
講師の立場では、絶対に怒られると思う。「ここなら良いでしょ」などと笑っているが、私の口が軽かったらどうするんだ。
「暗記は昔から嫌いとか言っててさ。あれだといくら能力があっても王宮では働けないよ」
「それは、国家を揺るがす一大事じゃないですか」
「大丈夫、うちの国にはもう一人、優秀な光属性がいるから」
「……そうなんですか?」
そんなの初耳だ。片手に数えられる人数しかいないのに、うちの国に二人もいるなんて。ヒロインが光属性として活躍できるようなれば、この国は近隣国に対し相当な権力を持つのではないだろうか。
それにしてもポスト先生、王宮事情に詳しすぎる。
「多分、今のまま卒業したら、当分その下で修業だろうね。あの人厳しいから、今、頑張っておく方が良いと思うだけどなぁ」
まるで知り合いかのような口ぶりだった。
面白がっている先生の笑いは、悪魔のように見える。相当ストレスが溜まっているのだろう。ちゃんとその旨を伝えれば彼女の授業への向き合い方も変わると思うんだけど……。
しかし、ヒロインってそんなわがまま言うようなキャラクターだっただろうか。
ある程度の性格はプレイヤーの選択肢で変わってくるだろうが、基本的には大人しくて時々物怖じしない態度を取るが、謙虚で優しい子。守るべき存在みたいだったはずなんだけど。
頭を悩ます材料がまた増えてしまった。




