26.初日
落ち着いて考えれば、焦る必要も落ち込む必要もない。
私もリオもヒロインに近づかなければいいし、万が一レナードイベントが起きても私が薬を渡さなければ良いだけだ。
普通にしていればアランルートだろう。本来なら一般市民が殿下と結ばれるなんてありえないが、そこは光属性のヒロイン、あり得る話だ。それに、夢物語に憧れている女子生徒も応援するだろう。
アランルートじゃなくても、他にも攻略キャラはいる。
常識的に考えて、私が恋人なんだからレナードルートは消えたはずだ。むしろそれでリオに手を出したら、周りから奇行の持ち主だと思われるだろう。
大丈夫、心配ない。
私はそう自分に言い聞かし、運命の日を迎えた。
転入してきたシーアは、一気に時の人となった。
突然の転入生、貴族の学園に市民の子、光属性の持ち主。
それだけでも話題は尽きないのに、アラン殿下と親しく話す姿に女子生徒は嫉妬の嵐。拙い敬語に守ってあげたくなる儚さ、そして可愛らしい見た目に男子生徒は心を奪われていた。
私も遠巻きから見たが、やっぱり見た目の出来高が違う。キャラクターデザインがちゃんとしているだけあるなぁ、と感心させられた。
令嬢がこぞって長い髪を揺蕩わせる中、一人だけセミロングだし、野暮ったい田舎娘な雰囲気も、異彩を放っている。
あれはどう大人しくしていても注目せざるを得ない見た目だ。
ちなみに野暮ったい雰囲気は、卒業パーティで見せる姿への前振りである。見違えるようなドレス姿に、いじめていた令嬢たちは唇を噛むこととなった。
いじめられるのはアランルートでは回避出来ないので頑張って耐えてほしい。イジメを見過ごすことしかできない私をどうか許してくれ。彼女には関わりたくない。
「今日は、やけに校内が騒がしかったな」
放課後、いつものように中庭でリオと過ごしていると、彼はそんなことを言い出した。
他人に興味がないのも程がある。
「知らないの?転入生が来たのよ。確か、リオの隣のクラスだったはず」
「そうか」
「興味ないの?」
「俺はクレアだけいればいい」
甘い言葉に私はほっと胸をなでおろした。
知らないということは、シーアはリオの前には姿を現していないということだ。リオとはクラスが違うので今日一日シーアと何かあったのではないか、ひやひやしていた。
彼の他人への関心の無さから考えて、大丈夫だとは思うが油断ならない。
それにしてもリオにはもう少し社交性を身に付けてほしいところだ。
一匹狼でいるのは良いが、その分敵も多くなる。公爵家や王宮の偉い人を親に持つ人たちとは親しくしていて損は無い。せめて殿下やイェンス様辺りとは仲良くしてほしいぐらいだ。
「もう少し周りと関わっても良いと思うけど」
「……分かった」
私の忠告を思ったより素直に受け止めたので拍子抜けする。もしかしたら私より先に両親に注意されたのかもしれない。そろそろ大人な振る舞いを身に付けていいはずだ。
それでもリオには最低限で良い。その他の貴族との交流は私が抜かりなく行っているし、彼が王宮勤めになっても大丈夫なように外堀を固めている。
こうやって甘やかすからダメなんだろうなぁ、と彼に寄り添いながらそう思うのだった。




