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18.実験

 リオが言うには、あれからブレントに喧嘩を売られることは無くなったらしい。

 あの後アラン殿下にこっぴどく叱られたようだ。この学園の生徒会長でこの国の次期トップに怒られたとなると、反省するしかないだろう。



 私の方は、相変わらずポスト先生の研究の手伝いをしていた。

 ノースドロップ家から貴重な材料を持って来たり、この学校で種から育てたりもしている。

 我が家ほど良質な栽培環境ではないが、ポスト先生の土属性で適した壌土を作り、私の木属性で発育を促進させている。お互い良い役割分担だ。


 今日も私は薬学室で研究に夢中になっていた。

「クレア、いる?」

 名前を呼ばれ、実験ゴーグルを外してから入り口に視線をやる。どうやらここの主が戻ってきたようだ。

 ちなみに、先生が私に対して敬称を付けていたのは最初だけで、いつの間にか呼び捨てになっていた。生徒だし助手代わりになってるから良いんだけど、リオが知ったら怒りそうだ。


 会わせたい人がいると言って席を外したのが十分前。

 戻ってきたポスト先生の後ろには、先生の知り合いとは思えないほど、高尚でダンディなおじ様が立っていた。

「紹介するよ、僕の友達のロニーだ」

「やぁ、どうも」

 被っていた帽子を外す所作だけで、この人は地位の高い人なんだろうなと分かる。

「はじめまして、クレアと申します。お会いできて光栄です」

 スカートを持って貴族らしく挨拶したものの、白衣が邪魔をしてどうも格好がつかない。

「話は聞いているよ。ノースドロップ家の優秀な薬学者なんだって?」

「そんなことありませんわ」

 上品に笑って見せると、そんな私の姿にポスト先生はニヤニヤしていた。私の振る舞いが面白いのだろう。先生の前でこんな姿を見せたことは無い。自分の格好に無頓着なこの人に、貴族らしい振る舞いなんかしたら、やってるこっちがアホらしく感じるからだ。


 先生は飲み物を準備しながら、ロニー様の紹介をする。

「前に言ってた、呪いの魔法が使える希少な人物だよ」

 この人だったのか。地位の高い人という私の見解は間違ってなかったらしい。呪いが使えるということは闇属性の持ち主だろうか。

「研究はどこまで進んだんだ?」

「クレアが来てから結構進んだよ」

 適当な椅子に座っているロニー様に、先生はお茶と一緒に研究論文を渡した。適当にページを捲ると、ロニー様は目を丸くさせた。

「すごいな……!文がまるで違う」

 驚いたのは研究の進み具合では無く、書かれている文章だったようだ。


 先生はどうも文章を書くのが苦手なようで、支離滅裂な研究論文を作成していた。

 私が今までの経過を確認するために目を通したときは、読み辛すぎて解読するのに二日かかったほどだ。子供でももう少しちゃんとした文が書ける。

 私は読み進めながら赤を入れていき、文章をまとめ直した。それからは研究が進むたびに私がまとめている。

「お前はもっとクレア嬢に感謝するべきだと思うよ」

 ロニー様の私に対する労いの言葉に、先生は頭を掻いて苦笑いしているだけだった。


 薬の効果を確かめるには、生物に呪いをかける必要がある。

 本来、実験動物で良いはずだが、ポスト先生が自ら実験台になるらしい。「対人用なんだから、人で試してみないと」なんて先生は言っていたが、あの嬉しそうな顔は単純に実験台になりたいだけだろう。

 薬学者に限らず研究者には変人が多いが、身を犠牲にするタイプはあまり見かけない。変態だ。


「さっそくかけてみてくれないか」

 ポスト先生は試作品を飲み干し、嬉々として構えた。

「……あんまり気持ちいいものではないんだけどな」

 嫌々も慣れた様子でロニー様が呪文を唱えると、先生が黒い呪いに覆われて苦しみだした。


 初めて目の当たりにした呪い魔法は、悪意の塊を具象化したようだった。確かに気持ちいいものでは無い。しかし、もっと嫌悪感に苛まれて見れないかと思ったが、反応の経過が興味深く、私は目を離さずに一挙手一投足をメモした。


 そろそろ薬の効果が出てくるはずだが、一向に現れない。

 前回の実験の記録では、立ち上がれず発狂寸前だったらしいが、今回は苦しむ程度でちゃんと自立している。自我はギリギリ保っているといったところか。

「そろそろ時間だな」

 効果が一定時間経っても現れない場合は、呪いを解くよう伝えている。時計を確認したロニー様は再び呪文を唱えると、すぐに呪いは解けた。


 実験は失敗。それでも以前の実験結果よりは進歩があった。やっぱり家から持ってきた植物が良かったのか。


 細かく記録するためペンを走らせていると、ロニー様が質問を投げてくる。

「クレア嬢は怖くなかったのか?」

「怖がっていたら実験出来ませんからね」

 怖くないと言えば嘘になる。しかし研究を進めるためには私が目をそらすわけにはいかない。

 怖いのも最初だけで見慣れてしまえばどうってことなかった。まぁ、流石に毎日見せられたら気が狂うけど。

 私の反応に、ロニー様は「そうか」などと感嘆の声を上げ、くつくつと笑っていた。

 こういう姿を見ると、やっぱりポスト先生の知り合いなんだな、なんて思ってしまった。


「クレア……み、水……」

「今、書いてるんでちょっと待ってください」

 床に倒れ込んでいる先生は私に手を伸ばしたが、それどころじゃないので突っぱねる。

 試作品はまだ用意されており、今日はあと数回呪いをかけてもらう予定だ。この程度で助けを求められても困る。


 私たちの一連のやり取りに我慢しきれなくなったロニー様は大笑いし、私の代わりに水を持ってきて先生に渡していた。

「君たち良いコンビになるよ」

 なんてロニー様は面白がっていたが、正直あまり嬉しくなかった。


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