2.運命の出会い①
この世界にたくさんの魔法属性がある中で、ノースドロップ家は代々「木属性」が生まれてくる。母親が他の属性だろうと、産まれてくる子は決まって木属性なのだ。何故なのか解明されていないが、強い血筋だということで納得されてきた。
クレアも例に倣って木属性である。植物を扱う家系にとって、これほど恵まれた属性は無い。
クレアが十歳の時、運命的な出会いをした。
「お嬢様、旦那様がお呼びでございます」
いつもの週末、自室で植物についての研究書を読んでいたところに、侍女が声をかけてきた。
この時間は、領地の統治についての話し合いをしているはずなのに、珍しいこともあるもんだ。不思議に思いながら急いで書斎へ向かった。
「呼びましたか、お父様」
ノックして扉を開け、お辞儀をする。顔を上げたがいつものデスクには居らず、応接用のソファで見知らぬ人と談笑していた。
「よく来た、クレア。さぁ、こちらへいらっしゃい」
お父様に呼ばれ、そばへ駆け寄った。座っていたお客様は、優しそうな大人の男性と無表情な男の子だった。
「この子は先ほど言っていた、うちの娘のクレアだ」
「はじめまして。クレアと申します」
ドレスを持ち上げて挨拶をすると、男性は返事をくれたが隣の男の子は無表情のまま。
「この方々は、ランドル・デクスター卿とそのご子息だ」
お父様が発せられた名前に、驚きを隠せなかった。
ランドル・デクスター卿といえば、子どもの私でも知っている名前だ。
珍しい闇属性の持ち主で、この国の大臣である。
闇属性は、生まれながらにして強い力を持っている。貧しい生まれであっても必ず王宮で働けるほど重宝されていた。
ただし、闇属性を持っているだけでは大臣にはなれない。
ランドル卿は、闇属性の力と持ち前の頭の切れの良さで、大臣になった男。一般市民から王に一目置かれる存在まで登りつめたことが、彼を有名にさせた大きな理由であった。
「はじめまして、クレア嬢。こちらは息子のレナードだ。歳も近いことだろうし、仲良くしてくれ」
「……」
紹介された男の子に微笑みかけたが、すぐに目を逸らされた。彼は一言もしゃべることなく、父親の腕をぎゅっと掴んだ。
「こら、リオ。きちんと挨拶しなさい。すまない、クレア嬢。人見知りが激しくて」
「いいえ。お気になさらないでください。知らない家に連れて来られたら、私でも緊張しますもの」
そう笑うと、ランドル卿は「ほう」と感嘆の声を上げる。
「素晴らしい教育がなされている。さすが、ノースドロップ家のお嬢様ですね」
お父様が人を招くのもよくあることだし、同じ年くらいの子を連れてくるのもよくあることだ。そういう態度を取る子も少なくない。私が文句でもつければ、親が叱ってさらに子どもは口を利かなくなる。もう慣れたものだった。
「そうだ、クレア。薬草園を案内して来たらどうだ?」
思いついたようにそう提案してきたお父様に、私はまともに手も付けてないお茶を置いて素直に頷く。
お父様がそう促したときは、大人の話があるから席を外せと言うことだ。
「わかりました。さぁ、行きましょう、案内しますわ」
この子自身は父親から離れたくなさそうだったが、そんな気持ちに気付かないフリをして手を取る。手を繋がれると思っていなかったようで吃驚した所に、更に父親に背中を押されたせいで、レナードは無理矢理立ち上がらせられた。