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10.初めてのパーティ②

 手を引かれ連れて来られた先には、私たちと同じ歳ぐらいの子が数名揃っていた。

 女の子だけではなく、数人男の子もいるが、多分女の子たちの婚約者とか親族とかそういったとこだろう。


「紹介するわ。私の友人のクレアよ」

「初めまして。クレア・ノースドロップです」

 私が挨拶をすると、みんな快く受け入れてくれた。


 ライラの言う通り、令嬢たちはとてもお洒落だった。

 王都で最先端のドレス、今流行の髪型、外国から輸入したというアクセサリー。今日のために各々が自分らしく着飾ってきている。それに交わされる会話もお洒落の話ばかりだ。

 私は相槌を打つことしか出来なかったが、とても興味深く聞いていた。


「クレア様の着けてらっしゃるお花のネックレスも素敵ですわね」

 不意に話を振られて「へ?」なんて間抜けな声が出た。そんな私の言葉にみんな気にも留めず、視線が私の首元に集まる。

「確かに、めずらしい品ね」

「どこで買われたの?」

 口々に質問されて慌てた私はライラに助けを求めたが、彼女は私の視線に全く気付かず、一緒になってネックレスを見つめていた。


 どうしよう、市で買ったなんて通用するかしら。そんな所に行くんですか?なんて怪訝な顔をされたら……。

 不安になった私は恥ずかしいが奥の手を使わせてもらった。


「これは恋人にプレゼントしてもらったの」


 照れながらそう言うと、彼女たちは黄色い声を上げた。「いいなぁ!」とか「羨ましい!」という声だけでは無く、中には隣にいた婚約者を肘で小突く者や、ストレートに直接おねだりする者など反応は様々だった。

 ライラに至っては「クレアに恋人!?」と大変驚いていた。


「恋人にアクセサリーをプレゼントしてもらうなんて素敵だわ。ねぇ、フィリップもそう思わない?」


 品格のある令嬢は、隣に立っていた男の子に話しかけた。

 その男の子は「……そうかもな」なんて不器用に返事をしただけだったが、私が目を見開く程注目したのはそこの反応では無い。



 私の記憶が正しければ、彼はフィリップ・ブルスではなかろうか。



 ブルス伯爵家の長男で私と同じ歳。婚約者がいる噂は聞かないので、隣に立っている令嬢は親族だろう。いや、そんな貴族としての情報はどうでもいい。



 問題は、彼がゲームの攻略キャラクターだということだ。



 世間一般に弱いとされている土属性の持ち主で、そのせいか卑屈で自尊心が低く、荒んだ性格のせいで口も悪い。いわばヤンキー枠。

 しつこく構ってくるヒロインを最初は邪険に扱っていたが、ストーリーが進むにつれどんどん心を開いていくキャラクター。いつも眉間にしわを寄せてガンを飛ばしているが、笑うと笑顔が可愛かった。


 まさかリオ以外のキャラクターと会う日が来るとは……。


 目の前にいる彼は、全然ヤンキーっぽくはない。こういう場だから猫を被っているだけなのか、それともリオと同じように、まだゲームのような性格になってないのか。


 そんなことを考えていると、令嬢がクスリと笑った。

「恋人がいるのに、そんな目をして大丈夫かしら?」

 無意識に彼を見つめていた事に指摘されて初めて気づく。私が言い訳を探していると、彼女は小さく笑っていた。どうやら、からかわれたらしい。


 そんなことをしていると、会場の音楽が変わった。

 どうやらダンスタイムのようだ。みんな相手を見つけて踊り出す。


 私は邪魔にならないよう、壁の花にでもなっていようと移動しようとしたところ、令嬢に止められてしまった。

「せっかくだし、フィリップと踊ったら?」

 何を言い出すんだ、この人は。

 彼女の優しさについ顔が引きつってしまう。出来ればリオ以外の攻略キャラには関わりたくないんだけど。


 私のことなどお構いなしの彼女は、彼に指示する。

「フィリップ、お相手しなさいよ」

「いえ、そんな、大丈夫ですよ!」

「あら、ダンスはお嫌い?ほら、エスコートしてあげなさい」

 断わったが聞いてもらえず。

 彼の方は勢いよく背中を押されて私の目の前に来ると、目を合わせてから、そっと手を差し出した。

「一緒に踊ってくださいますか?」

「……はい」

 断り切れず、私は仕方なく彼の手を取る羽目になったのだった。


 ダンスレッスンも日々の勉強に組み込まれているので、踊ることは出来る。ただ先生と踊ることしかなかったため、実践は初めてだ。

 人によってステップの癖が違うんだなぁ、なんてこんな状況でも勉強しつつも、気が緩むと足がもたつく。それでも表情には出さないように必死で踊った。


「躊躇っていた割にはお上手ですね」


 突然褒められて驚いてしまう。私の知っているフィリップ・ブルスの発言とは思えないからだ。

 いやでも、冷静に考えれば彼だって伯爵家の息子である。この程度のお世辞ぐらい身に付けていて当然か。

 私は「ありがとうございます」と微笑んでおいた。


「恋人との練習の成果ですね」

「いえ、ダンスの先生以外と踊るのはフィリップ様が初めてですわ」

 まさか冗談を言われるとは思っていなかったが悟られないように自然に返すと、今度は彼の方が驚いていた。


 それもそうか。普通、恋人がいるならば一曲ぐらい踊った経験があるだろう。


 そういえばリオと踊ったことなんてなかった。むしろ彼がそういう教育を受けているかすら疑問である。

 機会があればリオと一緒にダンスレッスンを受けるのもいいかもしれない。


 それからフィリップ様と他愛も無い会話をしていると、あっという間に一曲終わった。

「楽しかったです、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 社交辞令を交わすと、すぐに私の目の前に違う男性が現れて、またダンスに誘われた。


 結局、誘われるがままに踊っていたら、いつものダンスレッスンと同じぐらい踊る羽目になった。


 適当なところで切り上げると、遠巻きに見ていたお母様と目が合う。何か言いたげな顔だったので近寄ると、意地悪そうな笑顔で囁かれた。

「ずいぶんと楽しそうだったわね」

 私がステップを間違えないように頑張っていたことも、社交的に振る舞うために笑顔を作っていたことも知った上の発言だから性質が悪い。


 こんな場で怒る訳にもいかず、やり場のない怒りは渡されたドリンクを一気飲みすることでしか解消策がなかった。


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