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9.招待

 プレゼントされたネックレスは肌身離さず着けている。

 もの自体は小ぶりだが、実物の花と同じように存在感があり綺麗で目を引いた。視界に入る度にリオを思い出して、嬉しくなる。


 そんな喜びが日常に溶け込んだ頃。


「ねぇ、クレア。今度パーティがあるんだけど、貴女も良かったら参加しない?」


 勉強の合間のティータイム中、同席していたお母様からの突然の提案に思わずお茶を吹きそうになった。


「パーティですか?私に社交界はまだ早くないですか?」

「社交界なんて堅苦しいものでは無いわ。お茶会の延長線上みたいなものよ」

 ころころと笑うお母様は茶目っ気の絶えない人で、油断してつい忘れてしまいそうになるが、この人は普段この領地をお父様の代わりに仕切っている立場だ。パーティのお誘いをもらうのは日常茶飯事。


 お父様が忙しいからほとんど参加しないのに、今回参加するのは珍しいのではなかろうか。

 断れない大事なパーティか、親しい付き合いのある方が主催するパーティか。私を誘うとなると、多分後者だろう。


「私ひとりで行くのも寂しいじゃない。貴女も良い年頃なんだし、少し羽目を外してみたら?」

 仮にも婚約者がいる娘に言うような台詞ではない。

「お兄様はいいんですか?」

「断られたわ。……あの子こそ参加してほしいのに」

 大きくため息をつくお母様。声をかけただけすごいと思う。


 お兄様は魔法学校を卒業後、やっぱり騎士団に入団した。まだ見習いとしてだが日々懸命に働いているらしい。その分、縁談とは程遠かった。


「わかりました。参加しますわ」

 お父様は仕事で不在、お兄様は騎士団に所属。スノードロップ家を取り仕切っているお母様の気持ちが少しでも軽減されるなら、と私はパーティへ参加することを決めた。



 今回招待されたのは、アルドリッジ侯爵家のパーティ。

 貿易の商いをしている家で、我が家は薬学に必要なものを輸入するのに取引しており、昔からの付き合いだ。爵位は向こうが上だが、公の場以外はフラットな付き合いをしている。


 パーティは夜だというのに、当日はずいぶん忙しなかった。

 

 メイク、ヘアスタイル、ドレス決め。ずいぶんと時間をかけて仕上げた。

 私としては、場で浮かなければ何でもよかった。しかし侍女たちがそれを許さず、随分と時間を食ってしまったのだ。

 今後こういうことが増えるのなら、任せないで私が決めた方が速いな、とファッションについて学ぼうかと頭を悩ませた。


「お嬢様、本日はこちらに致しませんか?」

 突然目の前に出されたのはドレスに合った色のネックレス。

 侍女の気持ちも分かる。今着けているものより絶対にそちらの方が良いが、これだけは譲れなかった。

「ごめんなさい、これは外したくないの。リオにもらった大切なものだから」

 私の言葉に侍女たちが色めき立つ。うちの侍女たちは本当に色恋沙汰が好きだな。

「分かりました。でしたら二重にしても合うようなのを着けましょう」

 すぐに提案してくれる仕事の早さに、私は大きく頷いた。



やっとのことで準備が整った。

 鏡にうつる私は普段からは考えられない程に別人だった。普段からもう少しお洒落に気遣ってもいいかもしれない。


 それにしても、この姿に見合う立ち振る舞いをしなければならないのかと思うと、今から気が重い。


 重い足取りで、お母様の元に向かおうと廊下に出たところで、偶然テオと遭遇した。

 驚いた顔で私をまじまじと見つめて「お嬢様も着飾れば変わりますね!」と失礼なことを言った。

 侍女たちに怒られていた。


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