取り込み作戦
「ねぇ、ラー。なんとか王子様と二人っきりになれるいい方法は無いかしら?」
私としてはマルゲの為にもできるだけ早く婚約破棄を成立させてあげたかった。
だが邪魔の入らない所でペペロン王子の頭を直そうにも、どうにも二人きりになる方法が思い浮かばない。
そこで恥を忍んでラーに協力を求める。
私の言葉に部屋付きの侍女が表情を強張らせた。
ひょっとしたら変な噂になるかもしれないが、私としては健気なマルゲの力になってあげたいのと、さっさと茶番を終わらせたい気持ちが強いので我慢する。どうせ貰い手など真面に表れる事は無いのだ。少しぐらいの噂は誤差の範囲として飲み込む事にする。
ま、王子に言い寄られなくなるのは少々残念ではあるのだけどね。
「それは、何ともお答えしがたい質問ですね。お嬢様に限ってそう言った類の心配はいらないとは思いますが、言葉尻を捉えて良からぬ噂を流す者もおります。ですので、そう言った発言は控えられた方がよろしいのでは?」
もっともな意見だ。
軽率な発言だとは自分でもわかってはいたが、このままでは初夜迄二人きりになれそうにない。それは流石に絶対避けたいのだ。
仮に万一そこまで行く様なら、王子には悪いが頭の修復は断念させてもらう。
元に戻して、あんな性格の悪い男と一生を共にするなどゾッとする。
「皆も誤解して変な噂はたてぬように。この場にはお前達3人しかいないのだから、元を辿るのは容易い事を忘れるな」
ラーは侍女達に脅しをかける。
まあ私付きの執事としては正しい行動なのだろうが、別段聞きたくも無い話を聞かされ、その事で脅される侍女達は哀れだ。私事で嫌な気分にさせてしまってスマン。
やはり自分の言動には責任をもって行わなければならないなと、反省させられる。
とは言え、何とかしなければならない事態に変わりはない。
2人っきりになる方法が考えつかない以上、知恵を貸してくれる協力者は必要不可欠。
何とかしてラーに協力して貰えないかと、頭をフル回転させる。
!
閃いた!
勝ったな、こりゃこりゃ。
「ねぇ、ラー。ペペロン王子は私の事をどう思ってらっしゃるかしら?」
「勿論王子はカルボ様を心から愛し、慈しまれております」
定型文乙。
いつも通りの嘘くさい返事をありがとう。
いやまあ、今のおかしくなった王子を見ただけならそうとも言えなくはないが。
「初めて会った時の事を覚えているかしら?」
「……ええ、まあ……」
何とも答えにくそうに返事を返す。
「お嬢様めっちゃブスブス言われてましたね!」とは、彼の立場で気軽には返せないだろう。
ま、気まずいと言うよりは、上手くマイルドに表現する言葉が出て来なかっただけだとは思うが。だって顔はいつも通り涼しい表情のままだし。
「初めて会った時の事を思い出すと、どうしても不安なのよ」
「確かに。いくら照れ臭かったとはいえ、あれは少々あれでしたから、不安がられるのは無理在もありませんが」
「それに私もかっとなって王子様に手を出してしまったし、その事を謝りたいのよ」
「それは別に二人っきりでなくとも宜しいのでは?」
ふふ、その質問は想定済みよ。
甘いわね、ラー。
「ううん、駄目よ。周りの目があると本当の気持ちは中々伝え合えないわ。それに……あの時……王子様は……気絶しちゃった……でしょ 」
口元に手を当て、もじもじと言いにくそうに言葉を続ける。
鏡に映る自分の姿がちらりと目に留まり、うわぶっさ!と思いつつも演技を続けた。
「皆の前で……それを謝ってしまったら……王子様に恥をかかせてしまうわ。だからどうしても王子様と二人っきりでお話がしたいの 」
そう!これはあくまで王子様の顔を立てつつ、腹を割って話す事で私の不安を払拭する体だ!これならラーも主人の為に知恵を絞らずにはいられまい!
「でしたら、結婚後お二人でよく話し合われてはどうです?差し出がましい事かもしれませんが、宜しければナーラ侯爵様に婚姻の時期を早める様お嬢様が望まれている事を、私めからお伝えさせていただきますが」
「え!?」
何故そうなる!?
差し出がましいって次元じゃないわよ!
したくないの!
私は!
結婚を!!
それを早めるだなんて余計なお世話も良い所だ。
まったく、この執事は一体何をほざきだす事やら。
「い、いえ。早めるなんてそんな……私は只王子様と二人で本音を話し合って……」
「残念ですが、婚前にその機会を設ける事は不可能です。ですがお嬢様の不安を鑑みれば、
出来うる限り早急に婚姻を結ばれ、お二人っきりになられるタイミングを早めるのが、ベストかと私は存じます」
ベストじゃないわよ!
バッドエンド直行よ!
好きでもない王子と結婚させられて、挙句はマルゲに延々と鞘当てされるとか嫌すぎる。
「出来れば婚姻前に不安を取り除きたいのよ」
「不可能です。仮に二人っきりに出来たとしても、不安が取り除かれる保証は何処にも御座いません。此方から破棄できない以上、余計な噂を立てて名誉に傷をつけられるよりも、婚姻後お二人でよく話し合われた方が宜しいかと。どうか暫くの御辛抱を」
保証はある!
あるのだが……くっ、歯がゆい。
いっその事魔法や王子の状態を話してしまおうかしら?
そうすればラーも本気で頭を捻って案を出してくれる筈。
しかしそうなると、今度はラー以外の人間に聞かせずってのが難しいのよねぇ。
執事とはいえ男な訳だし、二人っきりという訳にはいかないから……
流石に他の人間にまで聞かせるのはリスクが高すぎるわ。
あー!もう!どうすりゃいいってのよ!!
何の成果も出せぬまま、時は刻一刻と進んでいく。
まじで誰でもいいので名案を下さい!