整形
「あーまいったわー」
ここはナーラ家の浴場。
私は湯船に肩まで浸かり、淵にもたれ掛って大きく伸びをする。
しかし本当に参った。
何が参るって誘惑が凄いのなんのって。
あれに耐えつつ、二人っきりになれるよう立ち回らなければならないとは。
最早試練に等しい。
それでなくとも婚前に二人っきりは難しいって言うのに、仮に二人っきりになれたとしても、迫って来る王子に冷静に対処できる自信が全くない。
そのまま流れで結ばれてしまいそうで怖い。
それにさぁ。
脳を回復させたら元の嫌な奴に戻っちゃうんだよねぇ。
王子。
正直転生してこの方16年。
ううん、転生前を含めてもこんなに幸せな気持ちになった事って一度も無いんだよねぇ。
やっぱイケメン最高だわ。
それを手放すのかと思うと、惜しくてしょうがないのよねぇ。
もうこのまま行っちゃえよと悪魔(不細工)が囁く。
駄目よ!本当の幸せは愛し愛される事、病気に乗っかり結ばれるなんて間違ってるわ!と囁く天使(不細工)。
私と同じ顔をした不細工な悪魔と天使が、取っ組み合いの喧嘩を私の頭上で始める。
それを見て思う。不細工同士の争い程醜いものはないなと。
本当に不細工は損だ。
「あー、あたしも可愛く生まれたかったなぁ」
魔法で無理やり顔の形成を変える事も出来なくはないが、出来ればそれはやりたくは無い。
親から貰った顔を、モテないからって理由で弄るのは流石に憚られる。
そもそもこの時代には整形技術は存在していないのだ。
その為、下手に顔をいじると悪魔付きだとか呪われているとレッテルを張られ、最悪国から追われかねない。
「住みにくい世の中だわ、まったく」
前世は魔法である程度顔を変える事が許容されていた事を考えると、生まれ持った顔で勝負するしかない現在は、本当に生きにくい時代と言える。
自分は生まれが侯爵家だから変える気は無いと断言できるが、この顔で平民生まれだったら整形していた可能性は高いと思う。家が守ってくれるからのほほんとしていられるのだ。
貧しい生まれで、この顔だったら絶対耐えられなかった筈。
そう考えると、自分は全然恵まれているなと痛感する。
まあでも不細工な貴族と顔が普通の平民なら、正直平民の方が良かったと思わなくも無いが。
ま、その辺りは考えてもしょうがない。
今私が考えるべき事はどうやって王子と二人っきりになるかという事だけだ。
それも安全(貞操的)に。