くらくらする
あー、くらくらする。
理由は目の前のペペロン王子のせいだ。
彼の脳を何とか修復しなければならない憂鬱さと、その眩しすぎる美貌を目にして上がる高揚感。いわゆる躁鬱病状態……とはちょっと違うか。
兎に角美味しい物と不味い物を交互に食べさせられている気分で、何かくらくらする。
「やあ、愛しの君。元気にしていたかい」
王子は笑顔で此方へと花束を突き付けてくる。
どうやら私への贈り物の様だ。
しかし愛しの君と来たか。
こりゃ重症だわ。
やっぱ脳がいかれてるかー。
疑ってはいたが、現実を突きつけられて余計憂鬱になる。
真面な脳細胞を持ち合わせていたら、散々罵り、その結果ぶん殴られた相手にこのセリフは出て来ないだろう。頭がおかしい証拠だ。半分自業自得とはいえ、本当に面倒な事になった。
「婚約は破棄されたと思っていたのですが?」
取り敢えず冷たく返しておく。
病人だろうと、超絶イケメンだろうと、そう簡単にあの侮辱を許すと思ったら大間違いだ。
「ははは、あれは只の冗談さ。本気なわけないだろう。怒らないでおくれ、ハニー」
冗談ってあんた……
あの罵詈雑言を冗談で言えるってどんな人間性よ?
それなら本気で言ってる奴の方がまだ人間として信用できるというもの。
やはり私に殴られた影響で、真面な判断が出来なくなっている様だ。
しかし……やっぱり顔は綺麗なんだよねぇ。
そんな相手に花束を笑顔で渡されては、ときめかずにはいられない。
我ながら本当にイケメンに弱い。
もうなんだったらこのまま王子の脳を修復せず、結婚して幸せになるのも手ではないかと思えてくるから困る。
まあ流石にそれはしないけどね。
そんなの本当の女の幸せとは言えないし。
取り敢えず受け取った花束をラーへ渡し。
目配せで侍女達に合図を送る。
彼女達は私に小さく頷くと、庭園の真ん中に設置されてあるテーブルの椅子を引き、お茶の準備を始めだす。
「立ち話もなんですから、どうぞおかけください」
「ありがとう。ハニー」
ハニーは止めて貰いたい。
恥ずかしくて聞くたびに顔が火照ってしまう。
免疫のない女には、イケメンの甘い言葉はとんでもない凶器なのだ。
「良い紅茶だ。こんなに美味しいのは君と一緒だからかな」
王子は差し出された紅茶を一口すすり、眩しい笑顔でとんでもない爆弾を放り込んでくる。
あかん。
冗談抜きで口説き落とされそう。
再開してまだ5分も立っていないのに、私どんだけちょろいの!?
私はこのハニートラップに気合と根性で耐え抜き、無表情を貫き通す。
顔が赤いのは勘弁してほしい、
こればっかりは意思や根性でどうにかなる物ではないから。
「王子様の為に最高級の物を用意させていただきましたから」
務めて淡々と、言葉を紡ぐ。
動揺を悟らせるわけにはいかない。
何せ相手は百戦錬磨の恋多き太陽の王子だ。
隙を見せたら心を一気に持って行かれてしまう。
「そうか。こんなに美味しいのは、君の真心が籠っていたからなんだね」
あかん。
魂が抜けていきそう。
太陽の王子はそこかしこで女性との浮名を流していた。
まあ王子は男だから仕方がない事だが、そんな軽薄な相手に引っ掛かる女は只の馬鹿だと私は思っていた。が――
こらあきませんわ。
これは落ちる。
今なら引っ掛かった女達の気持ちがはっきりとわかる。
もう今後、私は彼女達の事を笑えそうにない。
兎に角私は深呼吸して気持ちを静める。
耐え切らなくては。
そう思い、私は頭の中で王子に言われた罵りとあの時の嫌味な顔を思い出す。
よし!まだ戦える!
王子への怒りを胸に、私は気力を振り絞る。
そしてこの後1時間続いた彼からのラブラブアタックを、私は何とか凌ぎきるのであった。
王子とのやり取りで改めて嫌と言うほど思い知らされる。
自分がどうしようもない程超面食いだという事を。
やっぱイケメンは最高だわー