転生
「ラー、貴方は一体何者なの?どうして王子の命を……」
「……」
ラーは言葉を発さず、静かに私を見つめる。
その瞳はまるで――
まるで親とはぐれた幼子の様に不安げで、いまにも泣き出しそうな……
こんな酷く不安定で寂しげな彼の表情を見るのは初めての事だ。
「私の……僕の……」
暫く見つめ合っていると、絞り出すような声がラーの口から零れだす。
「やろうとしていた事は分かるのに……僕が何者かは分からないんですね……」
知っている。
いや、知っているつもりだった。
彼は私付きの執事であり。
幼い頃からずっと私に仕えていてくれた。
でも――そうじゃなかった。
彼は魔法を使う。
だけど普通の人間は魔法を使えない。
もうこの世界には、魔法と言う物が存在していない――少なくとも公には――から。
彼はペペロン王子の命を狙った。
普通の執事は王族の命を狙ったり等しない。
呪いもそうだ。
私は彼の事を何もわかっていない。
「確かに、私は貴方の事を何もわかっていない。だからこそ聞かせてもらうわ。貴方が何者で、そしてその狙いが何かを」
何の意図もなく、私の傍に仕え、そして王家の人間の命など狙う訳がない。
魔法が使える事もそうだ。
そこには何らかの意味があるはず。
私はそれを知りたい。
彼の目的が何処にあるのか。
けど――
「答えなさい。ラー、返答が無いのなら……私は貴方を……」
理由はどうあれ、彼は王家の命を狙った無法者。
それを放置すればはこの家にも大きな災いを齎しかねない。
だから返答がない、もしくはその内容が見逃せない物なら――
私は彼を殺すしかない。
「出来ますか?貴方に?今の僕は、貴方より強いですよ」
ラーの言葉は強気だ。
だが彼からは殺気の様なものが一切感じられず、その表情も相変わらず泣きそうなままだ。
本当に私より強いというなら、何故そんな顔をするのか……
ひょっとしたら只のハッタリなのかもしれない。
だけど、私は彼の悲しそうな瞳が気になって仕方がなかった。
私はこの目を知っている気がする。
以前、これと同じ悲しみを湛えた瞳を何処かで見た気がしてならない。
でも?どこで?
幼い頃から蝶よ花よと育てられた侯爵令嬢である私の前で、こんな眼差しを見せた相手などいない。
だが確かに私はこの瞳を知っている。
令嬢である私が見た覚えがないというなら、それは――
「貴方は私の前世の……」
口にした言葉に、ラーの瞳が見開かれる。
どうやら間違いない。
ならば彼は1000年前の……
しかしいくら魔法を使ったとしても、1000年の時を生きるなど不可能だ。
私もこの未来の世界に存在してはいるが、それは転生魔法によって時間を越えて――
あっ!そうか!
私が転生したように彼も。
「貴方も転生をしたのね」
彼が何者なのかやっとわかった。
転生魔法は私以外使える者はいなかった。
勿論後の時代に私と同じ域に達した者ならば使えてもおかしくはないが、必要とされる魔力の膨大さを考えれば実行できた者は極僅かな筈だ。
大人数が使いまくるならともかく。
少数しか使えない以上、転生魔法を使った者が偶然近い時代の近い場所に現れる確率は限りなく0に近い。
だが彼は私と同じ時代、しかも私の傍に仕えている。
つまり彼は私の転生先を知っていて、それを追ってきたという事だ。
それならば私の事を知っている口ぶりも納得できる。
そして私の転生した未来を知ることが出来たのは。
あの時――転生魔法を発動させた私の傍にいたあの子だけだ。
そしてあの悲しい色の瞳は、最後に見せたあの子の――
「ナルト」




