深夜の来訪者
明かりのない真っ暗な室内。
音も無く扉が開き、隙間から淡い光が差し込む。
だがそれは一瞬のこと。
開かれた扉はすぐに閉じられ、再び闇がその空間を支配する。
影が動く。
先程一瞬開いた扉から入り込んだ影――人影が音も無く、部屋の中央に置かれたベッドへと近づいて行った。
中央のベッドには、安らかに眠る一人の少女の姿。
影はその少女の顔を覗き込むかの様に屈み、そっとその手を頭部へと近づける。
その手には不思議な青い光が宿り、その光が影の横顔を照らし出す。
闇に浮かび上がるその横顔は美しく。
そして私のよく知る横顔だった。
「殺す気はないみたいね」
影の手に宿した魔法。
それが命を奪う目的の物ではないのは見て分かる。
恐らく記憶を操作する類の魔法だろう。
証拠隠滅のため、彼女の記憶抹消を計ったと言う所か。
「少し安心したわ」
子供の頃から知る馴染みの人物が……
小さな子供。
それも自分が生み出した従魔を手にかける所など見ずに済んで、ほっと胸を撫で下ろす。
「……何故?」
此処に居るのか?
彼は顔を歪ませ、苦々し気に口を開く。
私がいるとは夢にも思わなかったのだろう。
「時間があってね。彼女と二人っきりになる時間が……」
あの時、私は少女の体を調べた。
そして気づいたのだ。
彼女が人間ではなく、植物を元に魔法で生み出された従魔である事を。
「ずっと侍女達と一緒だったはずでは……」
「実はあの子達、お菓子を取りに自分の部屋に一度戻ってるのよ」
その事は、他言無用と侍女達には口止めしておいた。
幾ら許可があったとはいえ、私を一人にしたことがばれると周りから注意されるという、尤もらしい理由を付けて。
「それで私が今夜、彼女の元に現れると踏んでここに潜んでいたのですか……」
「ええ。だって貴方、私が魔法を使える事を知ってるでしょ?」
王子の呪いを解いた事で、私の魔法は相手に伝わっている筈。
勿論王子に呪いをかけた相手と、少女を生み出した者が同一人物であればの話ではあるが。
王子が私と初めて会った時精神に異常をきたしていた事と、従魔である少女がこの屋敷へとやって来た事で私は確信を得ている。
犯人はこの屋敷に仕える者だという事を。
それも王子に近づくチャンスがあり、私の目を出し抜いて呪いをかけられる人物は限られている。
「だから早い段階で貴方が動くと思っていたの」
少女は言葉を話す事が出来ない。
だがそれは私の魔法でどうにでもできる事だ。
例え少女が主や自分の事を口にしなくとも、魔法で記憶を覗かれる可能性だってある――そんな悪趣味な真似、私はしないけど。
彼からすれば、自身の秘密が漏れ出ない様一刻も早く彼女の口を封じる必要があった。
「何故王子を狙ったの?」
王宮襲撃犯の女は間違いなくベッドで眠っている少女だ。
厳重な警備を24時間敷かれている王宮に単独で侵入するなど、魔法でも使えない限り不可能。そして従魔なら、ある程度自由に肉体年齢を変える事が出来る。
彼女が裸だったのは、肉体が縮んで服が脱げてしまった為だろう。
そして少女は仕事を――恐らく失敗している。
だからあれだけ消耗し、主の元への帰還の途中に意識を失ってしまったのだ。
「何故……私が奴を殺そうとした事を……」
「暗殺……」
王子の名を出したのは――勿論ブラフだ。
王宮襲撃による被害は殆ど出ていない。
だが相手が王子の呪いをかけた人物と同一なら、ほぼ間違いなく狙いは王子だと思ったからちょっと口にしてみただけなのだが、見事に白状してくれた。
しかもその目的まで……
しかしまさか命を狙っていたなんて。
てっきり呪いのかけ直しを狙っていたのだとばかり考えていた私は、衝撃的な言葉に思わず唾を飲み込んだ。
「どうして……どうしてそんな真似を?」
「……」
だが彼は私の言葉には答えない。
ただ黙って、此方を苦虫を噛み潰した悔し気な表情で見つめる。
「黙っていないで答えなさい!」
魔法の光が消え。
真っ暗な暗闇の中。
魔力によって強化された私の視界に映る、黒尽くめのスーツを身に纏った男。
その男に向かって私は思わず声を荒げる。
「ラー!」




