賊
「使用人達は誰も彼女に心当たりはないみたいね 」
母がベッドで寝息を立てる翠髪の少女の髪を撫でる。
昨日あの後、少女を私の部屋に運び込んで私のベッドに寝かせ。
朝になるの待ってから私は両親に彼女の事を報告する。
直ぐに両親は執事に命じ、家に仕える人間や警備の者に心当たりがないかを探させたのだが。残念ながら誰も彼女の素性を知る者はいない様だ。
「戻ったよ」
「おかえりなさいませ。貴方」
扉がノックされ、どうぞと返事すると父が部屋へと入って来た。
父は母の元までやって来ると、人目も憚らず口付けを交わす。
相変わらず熱々だ事。
こんな姿、ラーには見せられないわね。
と、思っていると。
父から少し遅れてラーが室内に入って来るのが目に入った。
「ラー、貴方連休中じゃあ?」
私は思わず立ち上がって彼へと声をかける。
彼は4連休の最中で、明日まで休みの筈。
だからこそ私は堂々と侍女達への聞き込みが出来ていたのだが。
「何やら不審な人物が邸内に侵入したと耳に挟みましたので、そんな折に休んでいる訳にもいかないと思いまして」
「王宮の件でもバタバタしているんで、助かるよ。ラー」
「ええ本当に。でも、こんなに小さなレディーを不審人物呼ばわりするのはどうかと思いますけどね」
「これは失礼を致しました」
母は小さな子供が大好きなので、ベッドで眠る幼い子供を不審人物呼ばわりしたラーをしかりつける。その辺りを熟知しているラーにしては珍しいミスだ。
とは言え、ラーからすれば休日を返上してやってきたら叱られたのだから、堪ったものでは無いだろう。
「それよりお父様。宮殿での確認の方は?」
「ああ、やはり違ったよ」
そらそうだ。
こんな小さな子が王宮への襲撃犯なわけがない。
実は昨日、王宮へ侵入した物がいたのだ。
賊による被害は警備の者が何人か負傷した程度で、大きくは無いが。
警備の厳重な王宮へと誰かが侵入したのだから、当然大騒ぎだ。
私の家にも、朝一でその知らせは届いた。
その際侵入者が女性であったと伝えられた事から、念の為父は彼女の事を王宮へと報告に向かっていたのだ。
無いとは思うが、万一の事も考えて。
「髪の色は彼女と同じ緑色だったらしいが、侵入した賊は成人女性だったらしい」
「だから私は一々報告なんていらないと言ったじゃないですか」
母が珍しく父に噛みつく。
基本的にな仲良しべったり夫婦なのだが、事子供が絡むと母は頑固な一面を覗かせる。
「すまんすまん。だが万、いや兆が一にでも襲撃犯であった場合、不味い事になるからね」
父の言う通り、王宮襲撃犯をこの状況で報告もせず匿っていなどしようものなら。
例え知らなかったとしても、下手したら御家取り潰しだって十分ありえる。
父の立場からすれば、絶対違うと確信があったとしても、報告は絶対にしておく必要があった。
「それで?彼女の事は何か分ったのかい」
「いいえ、それが何も」
警備の厳重な我が家の庭に入り込み。
しかも全裸で気絶していた少女。
果たして彼女は何者なのだろうか。
「目が覚めるまでまって、本人に話を聞くしかないようだね」
「でしたら私の方で、彼女の寝床を用意させていただきます。ここはお嬢様の部屋になりますので……」
「あ、気にしなくていいわよ。ぐっすり寝てる様だし、動かして起こしちゃったら可哀そうだもの」
「いや、しかし……」
ラーのいう事は尤もだ。
令嬢のベッドに、子供とは言え見知らぬ人間を寝かすのは、貴族としては余り褒められた行動では無いだろう。
だが私は彼女の事が気になって、そのままにする様彼へと伝える。
「それにもうずっとここで寝てるんだし、今更部屋を変える意味も無いんじゃない?」
「お嬢様がそう言われるのでしたら……」
ラーは渋々承諾する。
わがまま言ってごめんね。
「ラー、少し手伝ってくれないか?」
父が立ち上がりラーに声をかける。
「逃げた賊の捜索に我が家も人員を割くことになってね。その振り分けを手伝って欲しい」
「畏まりました」
そう返事すると、ラーは部屋から出ていく父の後ろに付き従う。
だが気のせいだろうか、その横顔は少々険しく見える。
大好きな母に怒られてしまったせいかしら?
だとしたら落ち込まないと良いんだけど。
まあその辺りは私ではどうにもならないので、ドンマイと心の中で応援しておく。
頑張れラー!




