可愛いらしい侵入者
夜、目が覚めた。
いつもは寝つきが良く、こんな深夜に目を覚ます事等無いのだが……
何だか胸騒ぎの様な物が、私の胸をざわめかす。
私はゆっくりと体を起こし、辺りを見回した。
薄暗い部屋の中、壁にかけられたランプの明かりを頼りに。
だが特に変化はない。
一か所を除いて。
「ふふっ」
思わず小さく笑ってしまう。
椅子にもたれ掛って眠っている侍女の姿が余りにも面白くて。
本来彼女は寝ずの番をしなければならないのだが、今は涎を垂らして絶賛爆睡中だ。
主としては彼女を叱るべきなのだろうが、鼻提灯なんて貴重な現象を見せられては許さざるを得ないだろう。
ふふふ、しかしほんとに凄い顔。
その顔を見ていると、また笑ってしまいそうになる。
口を斜めに歪めて大きく開き、涎を垂らしてプゥプゥ鼻提灯。
其のインパクトたるや。
取り敢えず魔法でその様子を記録しておくことにした。
後でゆっくりと楽しむとしよう。
「それにしても……」
目覚めた時から感じる胸騒ぎ。
これは一体何なのだろうか。
私は侍女を起こさない様ゆっくりとベッドから立ち上がり、窓に掛かったカーテンを少しだけ開く。
すると美しい月明りが線となって室内を儚げに照らし出す。
「月の光ってほんと、幻想的よねぇ」
太陽の力強い、命を燃やすような光も好きだが。
やはり乙女にとっては、月の柔らかな儚い光りの方が心に来る。
ま、私を乙女にカテゴリーして良いならばの話ではあるが。
生前50近くまで生きて。
今はこの顔である。
流石に乙女は厚かましいか。
思わず自分の考えに苦笑いする。
視線を室内を照らす月光から、窓の外。
上空で揺蕩う月へと向ける。
今夜は満月だ。
その美しい白円が静かに辺りを照らしだしている。
「はぁ、ほんと綺麗だわ」
こんな月明りの元、素敵な恋人と散歩出来たらどれほど素晴らしいか。
頭の中で妄想し、デート気分で視線を眼下の庭へと這わせる。
イケメンの彼(仮)と腕を組み、ゆっくりと中庭を歩く。
私の顔にモザイクが入っている事を除けば、正に 幻想的な光景だ。
正に至福。
だがその至福は長くは続かない。
何故なら私の視線に異物が飛び込んできたから。
「!?」
え?人?
中庭に小さな人影が倒れているのが目に飛び込んできた。
私は妄想を中座し、窓を開けてそのまま外へと飛び降りる。
ここは三階。
そのまま着地すれば骨折ぐらいしてもおかしくは無いだろう。
だから私は風の魔法で空気のクッションを作り出す。
「いたたた」
魔法のクッションは地面への激突を1度は守ってくれたが、勢いで跳ね返った私はそのまま顔面から地面に着地する。
滅茶苦茶痛い。
「げ!?鼻血出てる!」
1、魔法で直す。
2、それ所じゃないので、放っておいて倒れている人の所へ急ぐ。
レディーとしては、1の選択肢も重要と言えば重要だが。
私の顔はレディーとは程遠いので、迷わず2を選ぶ。
そもそも人命が掛かってるかもしれないのだから、例えレディーであっても迷わず2を選ぶだろうけど。
兎に角私は急いで倒れている人の元へ向かう。
「女の……子……」
そこに倒れていたのは10歳前後の幼い少女だった。
綺麗なエメラルドの髪が、月の光を照り返して美しい。
「怪我は無さそうね」
少女に怪我が無い事は、魔法を使うまでも無く一目でわかった。
何故なら彼女は――
一糸纏わぬ姿だったからだ。




