別腹
「ラー様の事ですか?うーん、何か変わった事かぁ」
侍女Bが下唇に人差し指をあてがい、首を傾げる。
少々あざとらしくも感じるポーズだが、可愛らしい顔立ちの彼女がやると凄く似合う。
もし私が同じ事をやったら、きっと周りは苦笑いするしかないだろう。
ほんと、可愛い子が羨ましいわ。
「何でもいいの。少しでも思い当たる節があったら教えて欲しいの」
「うーん、変わった事ってわけじゃないんですけど。実は昨日偶然街中でラー様とばったり会っちゃったんですよ。どうも買い物をされてたみたいで」
「買い物?」
ラーは家の執事とは言え平民だ。
ビジュアル的に余りイメージし辛いが、別に外で買い物していても特におかしくはない。
だが変わった事を聞いて、買い物の話をしたという事は――
「はい。なんだか不思議な模様の鉢植えを持ってらっしゃたんです。それで私声をかけて聞いて見たんですよ。家庭菜園かなにかですかって?そしたら少し困った様な顔をされて、そんな感じだって答えて下さったんですけど――」
家庭菜園?
ラーは屋敷に住み込みだ。
食事もまかないで全て出る。
菜園をする意味など無い筈なのだが。
副業?
「で、あたしピーンと来たんですよ。あ、これは花を育てて誰かにプレゼントする気だなって。でなきゃ、あんな困った様な顔をされないと思うんで」
誰かに花を上げるのに、何故困った表情をする必要があるのか。
彼女の言っている事はいまいち良く分からな――
……あっ、成程。
私は彼女の言葉の意味を理解した。
花を渡すなら、当然好きな相手に決まっている。
0から育てるぐらいなんだから、絶対そうに違いない。
そうなると、当然渡す相手は母という事になる。
道ならぬ恋の相手。
その女性への贈り物の事を聞かれたら、そりゃ答え辛くて困ってお茶を濁す返答に成らざる得ないわよね。
でも――
「ひょっとして貴方、ラー意中の相手を知っているの?」
ラーの反応でピーンと来たのならそういう事だろう。
どうやら彼の恋は結構皆に知れ渡っている様だ。
全然気づかなかった私は鈍かったという事だろうか?
「一応は……只私の口から誰かとはちょっと……お伝えし辛いんで……」
彼女はちょっと困ったようにモジモジする。
まあ娘である私に、貴方の執事は貴方の母親に惚れてますよとは、流石に言えんわな。
「そうなの?彼あまりそう言った噂を聞かないから、私には想像がつかないわ。なんだか言いにくそうだし、他人の色恋に余計な首を突っ込む気はないからその話は聞かない事にしておくわね」
まあ知ってはいるんだけども、勿論知らないふりをしておく。
答えの解っている事を突っ込んで聞いて、場の空気を気まずくする意味なんて無いしね。
ラーの事はこれ以上聞けなさそうだし、取り敢えず話題を変える。
「そう言えば貴方は街へは良く出かけるの?」
「あ、はい。彼とのデートでちょこちょこと」
「え!?彼氏いるの!?」
「えへへ」
思わず大きな声で聞いてしまったが。
まあこんな可愛い子ならいてもおかしくはないか。
羨ましい限りだ。
「ラー様程美形では無いんですけど、結構格好いいんですよぉ」
どうでもいいけど彼氏いるのにラーを様付けで呼ぶってどうなの?
歴的には先輩にあたるとはいえ、別に直接の上司ではないし。
何より彼女は男爵家の人間なんだから、好きで憧れてるとかでもなければ様付けはおかしいと思うのだが。
どういう心情なのか、ちょっと気になったので聞いて見る。
「でも恋人がいるなら、ラーに様付けなんかしてたら彼氏が良い気分はしないんじゃないの」
「ラー様と彼氏は別腹ですよ!お嬢様!」
別腹ってあんた。
一体どういう主張よ。
「例えるならラー様は絵画。もしくは花の様な物です!花を愛でる事と、お腹いっぱい食べる事は別物ですよね!?」
確かに別物だが。
でもその例えはおかしくないか?
「要は付き合ってる彼は御飯なんです!私をお腹いっぱいにして守ってくれるナイト様!方やラー様は私の心を満たしてくれる芸術品!だから両立するんです」
絶対しないと思う。
何故なら両方とも人間だから。
様は、彼女は自身の浮気心に正当性を持たせようと無茶な理論を翳しているという事だろう。自分自身を納得させるために。
「そ、そうなの。まあ程々にね」
同意は出来そうにない。
だが否定するのもあれなので、相槌代わりに適当な言葉を返す。
「はい!」
何が程々なのか。
自分で言ってて意味が分からなかったが。
突っ込みも無く、彼女から元気の良い返事が返って来たのでまあ良しとしよう。




