嘘でも嬉しいから困る
「許してくれてありがとう、カルボ。実は君に許して貰えないんじゃないかと思って、不安で不安でしょうがなかったんだ」
「ひょっとしてお疲れの様子だったのは」
「ははは、不安で一睡もできなくってね」
私に許して貰えるかどうかで不安で眠れないなんて。
ペペロン王子、案外可愛いところあるじゃない。
「全く情けない話だ。イラついて君に暴言を吐いたり、不安で夜も眠れないなんて。俺もまだまださ」
まあ意気揚々と会に行った婚約者の顔がこれじゃあねぇ。
私と王子の顔のつくりがもし真逆だったとしたら、私だって間違いなくがっかりしてる。
将来ずっと一緒に居るのかと考えたら、イラつくのもしょうがないだろう。
「だがこれだけは信じて欲しい。俺は普段あんな風に暴言を吐いたりはしないんだ。只あの日は君の屋敷に着いた辺りからどうもイライラしてしまって、それであんな暴言を……」
自分は本来そんな事をする人間じゃないと言いたいのだろうが。
私はそんな事よりも、屋敷に着いた辺りからイライラしだしたという言葉が引っ掛かかった。
これからまだ見ぬ婚約者へと会いに行くのだから、緊張するのは分かる。
だがお待たせしたならともかく、只相手の屋敷に着いただけでイライラしだすのは明らかにおかしい。
そこで私の頭に浮かんだのはあの呪いだ。
どういった効果かは分からないが、目にかけられていた以上視界に影響を与えていた可能性は大きい。
特定の状況下で本人に気づかれない程度の不具合を視界に起こし、対象の精神状態を不安定にする事位やろうと思えば簡単なはずだ。
だとしたらそのタイミングで呪いの効果が発動したのは偶然なのだろうか?
それとも故意?
もし故意なのだとしたら、私と王子の婚約話に罅を入れるのが目的って事よね?
それ以外、屋敷に訪れた王子をイラつかせる理由は思いつかない。
イラついた状態で会えば私の印象はかなり悪くなるはず。
しかもブスとくれば破談なんて時間の問題だ。
実際王子が婚約を続ける意思を示さなかったら、完全に破談になっていただろう。
だとしたら、犯人は私と王子の婚約を良く思っていなかった人物という事になる。
考えうる候補としては――――マルゲ・リータ嬢。
は、ないか。
ぱっと思いついたが、彼女に限ってはそれは無いだろう。
大体呪いなんて卑劣な手段を使う人間が、正々堂々と私に宣戦布告をして来るはずがないのだから。
そもそも彼女は魔法を使えない。
魔力も全く感じなかったし。
いやまあ魔力はその気になれば隠せるから、あの呪いを使える様な相手なら隠してるんだろうとはとは思うけど。
兎に角彼女とは考えられない。
私の本能がそう言っている。
じゃあほかの候補はと言うと……うん、全然わからん。
候補がいないのではない。多すぎて分からないのだ。
王子は超が付く程モテるし、王家の人間だ。
結婚したいと思っている人間なんて星の数ほどいる。
その中から容疑者を絞り出すなんて、まあ無理。
「カルボ。本当にあの時はおかしくなってたんだ。信じてくれ」
私が考え込んだ事で生まれた間を、王子は懐疑の沈黙と捉えた様だ。
その為焦ったように言い訳を並べだす。
「自分で言うのも何だが、俺は良く周りから明るくて気さくで優しいって言われてるんだ。本当にあの時はどうかしてた。イラついていた上に、君の事をブ――あ、いや。何と言うかその……余り好みじゃないと言うかなんというか」
咄嗟に言葉を止めて言い換えたが、バレバレである。
まあ気にしてはいない。
事実だし。
ごめん嘘ついた、やっぱ口に出して他人に言われると腹は立つ。
「王子の判断は正しいですわ。私は見ての通りブスですから」
「ななな、何を言ってるんだ!君は美しい!とても美人だ!」
腹立ちまぎれに嫌味で返しまったが、ちょっと意地悪過ぎたか。
慌てふためく王子を見て少し反省する。
しかしいくら私の言葉を否定するためとはいえ、美しいとか美人は無くない?
流石に無理があるわよ、王子。
呪いが掛かっていた時ならいざ知らず、今の王子が私を美しいと誤認するなどあり得ないのだから。
「本当にあの時はどうかしていたんだ。君が醜く見えるだなんて。本当に君は美しいよ」
まだ言うかこの王子は。
でも大げさなご機嫌取りの嘘と分かっていても、美人と言われれば悪い気はしないから困る。悲しい女のサガだ。
結局この後王子の私に対する褒めちぎりが続き、私は上機嫌で帰路に就くことになる。
美人はいつもこんな気分で生活しているのだろうか。
だとしたら羨ましい事この上なしだ。




