呪い
遂に……
遂にこの日がやって来た。
王子とのピクニックデート!
――と言う名のおつむ治療。
遂に王子の頭の治療をする時がやって来たのだ。
ここは王都の少し北にある、なだらかな丘陵。
王族であるペペロン王子と王都外でのデートである為、護衛の数は半端ない。
デートの邪魔をしない様距離はおかれているが、大人数の警備兵が等間隔で私達の周りをぐるりと取り囲んでおり、不審者が僅かでも近づこうものならエラい事になりそうな警備体制だ。
昔家族だけでここへ遊びに連れて来てもらった時も警備の数は凄く、大概だとは思っていたのだが。今回はその倍以上。流石王位継承権2位だけの事はある。
さて、作戦はこうだ。
まず雰囲気を楽しみたいとのたまって、周りのお供を遠ざける。
とはいっても視界の範囲から消す事は出来ないだろう。
だからこれを使う。
私の手には小さな円筒の魔具が握られている。
その名も魔具瓶。
飲み物を入れるもので、この中にいれた液体はどれだけ時間がたっても温度が変わらないと言う優れた魔具だ。
これを暴走させる。
魔具とは、大気中に満ちるマナをエネルギー源として扱う事の出来るマジックアイテムであり、魔法が遥か昔に失われてしまった現在の生活には欠かせないものだ。
確か噂では、馬無しで馬車を走らせる魔具が最近開発されたとかなんとか。
まあそれは置いておいて。
魔具の動力源はマナと呼ばれる不思議エネルギーなわけだが、マナの代わりに魔力を籠める事が実はできたりする。但しその場合魔具に不具合が発生し、魔力を籠めすぎると暴走してしまうのだが――子供の頃今手にしている魔具瓶に魔力を籠め、部屋中水蒸気まみれにしたのは良い思い出だ。
様はその暴走現象を利用して水蒸気で周りの視界を遮り、その隙にあれやこれやしてやろうという作戦なのだ。
そして作戦は今、最終段階に入ろうとしていた。
お供は近いもので5メートルは離れている。
これだけ距離があれば十分だ。
彼らが駆け付ける数秒有れば目的は十分達成できる。
何せ私は大賢者と呼ばれた程の天才の生まれ変わりなのだから。
私はコップとなっている魔具瓶の蓋を回してはずす。
この中に入っているのは只の水だが、王子には特製のハーブティーだと言ってある。
これを入れる振りをして魔具を暴走させ、水蒸気で視界が0になった所でシート代わりの絨毯に座っている王子の延髄に魔力を込めた蹴りを入れて寝かしつける。
――というかもう寝てる。
我ながらいい仕事してるわ。
周りで騒ぎの声が起こっているが、焦らず王子に手を翳して魔法を発動させた。
「マジカル・レゾナンス・イメージング!」
魔法共振診断(通称MRI)これは魔力と人体の共振現象を利用してそのイメージを脳内に映し出す魔法だ。通常、イメージ映像は白なのだが、挙動が怪しい部分があると状態に応じてその部分に色が付く様になっている。出血の様な明確な破損は赤、ちょっとした挙動不審なら黄色と言ったように。
このMRIでペペロン王子の脳のどの部分に異常があるかを特定し、異常部位を正常に戻すための魔法をかけ――――
「え!?」
想定外の異常に、思わず変な声を上げる。
私は王子の脳の異常を調べるためにこのMRIを掛けた。
だが脳に異常はない。
異常があったのは――目。
そう、異常は脳ではなく目の方だった。
しかもこれは破損や誤動作の類ではなく――
呪い
「なんで目に呪い!?」
王子に呪い?
何故?
一体誰が?
それに呪いの効果は一体?
天才の私にも一瞬で効果の見抜けない呪い。
これ程の魔法を一体誰がかけたというのだろうか。
「王子!ご無事ですか!」
声が近い。
もう護衛や従者たちは直ぐ傍まで寄ってきている。
兎に角、目にかけられた呪いだけでも解いておこう。
そう考えて素早く魔法で目の呪いを解き、ついでに首筋のダメージも回復しておく。
「お嬢様!御無事ですか!?」
「私は大丈夫。それよりも王子様が」
ラーに寄り添われ、ショックを受けた風を装い、気絶している王子を心配そうに見つめる。
我ながら完璧な演技。
正に名女優だ。
これなら私の自作自演だとは誰も思うまい。
しかし今日で決着の筈だったといのに、なんだか訳の分からない事になってきた。
咄嗟に王子の呪いを解いてしまったが、解いて本当に良かったんだろうか。
術者は解かれた時点で気づいているはず。
面倒な事にならなければいいのだが……




