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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
壱章 私と彼女とこの物語
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(8話)魔法の氷と知恵の策

-(いきお)いでなったとはいえ、[秋野]は、金田についていくことになってしまった。


「お前、本当に来て良かったのか?」

自分の前を歩いている金田 本人にさえ心配される()(まつ)だ。

「うるさいなー。逆に、ほっとけるか。まだ(ゆず)が神候補になった理由も聞いてないのに」

「それは…ありがとうだけども」


 じりじりと暑いこの空間で汗水(あせみず)()らしながら歩いてゆく。その内、家の並ぶ(じゅう)(たく)(がい)を抜けてコンクリートの灰色をした道に出た。


「そういえば…電話してないはずなのに、なんで金田の居場所がバレたんだろうな」

「あー…。確かに…」

別にコソコソという訳ではないが、そこまで大きくない声で話す。()(かく)(てき)人通りの多い場所だったが、()()う人に聞こえた者はいないだろう。

「それはですね、秋野さんを辿(たど)っていけばすぐ分かりましたよ」

前を歩いている、大きな(つの)()えた規律使いが答えを教えてくれた。

「電話だけでは信じてもらえないことってありますよね…。そして、そういうことを信じてもらうには直接見せるしかない。そこで、我々(われわれ)は予想しました。きっと、貴方(あなた)は金田君に手紙を見せに行くと」

「…へぇ」

「これはつまり、あなたの後ろをついていけば ほぼ必然的(ひつぜんてき)に金田君のところに行けるというわけです」

そう言いながら、彼はその動く足を止めようとはしていない。聞かされてすらいない目的の場所はどんどんと近づいてくる。

「なるほど…。って!それ…つまり私をずっとつけてきたってことじゃ…」

ぞわっとする何かが背中を走っていった。

「言える立場でこそないですが、ストーカーには気をつけてください」

これはもう確信犯(かくしんはん)と言えるだろう。

「え…」

 普通に怖過ぎる。今度から気をつけよう…。今回は、かなり特殊(とくしゅ)なケースなんだろうけどさ。私ってば、鈍感(どんかん)だなぁ ってレベルじゃないぞ…。


「そ、そもそも なんで金田の場所が分からなかったんだよ。手紙出すってことは、私には会ったことあるんじゃないの?」

これ以上聞いたところで()(かい)な気持ちにしかならない…少なくとも良いことはないだろうが、彼女は確認したくなった。

「さぁ。そこまでは。これから会う人に聞いてみてください」

こうなっては、これ以上この話題で会話を続けることは まぁ不可能なので、話題を変えるか無言で歩く他ない。


「そういえば、名前は(なん)て言うんですか」

 金田が話題を変えることにした。彼が敵の仲間の名前を聞こうとしたのに、特に深い理由はなかった。まさか これすらも何かの(えん)だ と金田が思っているとは、(となり)にいる秋野も前にいる黄色い(ひとみ)の彼も考えていなかった。

(ぼく)ですか?僕はカフネ。カフネです」

「カフネ…」

一度 実際(じっさい)に口に出すことで覚えようとする。と、そこにこそこそと秋野が寄ってきてこそこそと耳元(みみもと)で言った。

「変な名前だな」

それだけ伝えると、また離れて元の位置で歩き続ける。

「お前な…」

遠回しに軽く注意しておく。

 それ以来、金田はもうあまり(しゃべ)らなかった。地味(じみ)なことだが、帰り道を(おぼ)えなければ帰れないかも知れないからだ。この時点で、目的地はもう近かったのだが。



 金田家から歩くこと大体(だいたい)20分。着いた。近くにまだ知らない所があったとは と思えるほどには近かったのだから、道も(なん)なく覚えることができた。もう来ることもないだろうが。

 自分から(この)んで来る気は起きそうにない。ここは…昔、工場だった所だ。不気味(ぶきみ)な灰色の金属で(かた)められた建物。

「おあ…」

思わず声が()れる。


 おいおいおいおい、ここでか。こんなとこで戦うのか。(すた)れた工場ってのは、こういうのを言うんだな…。

今にも(くず)そうってわけじゃない。むしろ、そこらの家より(がん)(じょう)に見える。それに、きっと中はすっからかんで何もないだろうし。危険な装置も謎の液体も、もう取り(のぞ)かれてるんだろ。ただ、ここからでも分かる この…()(じん)(かん)…。人の()(はい)って、無いとこんなに静かなのか。まぁ、お相手の神候補は中にいるんだろうけどさ。


 秋野は 自分が戦うわけでも

ないのに、どこか(きん)(ちょう)してしまった。

「…」

(となり)にいる金田も、声には出さなくとも緊張は()(あせ)となって出ていた。

「それでは、行きますよ」



 (すで)に開いていた、入口らしきところから入っていく。

 中は、多くの窓から光が()()んでいて、意外にも明るかった。階段もない、シンプルな空間(くうかん)。そんな空間の中に、ドカと(すわ)っている あいつこそが…これから相手となる神候補だ。見た目から男と思われる彼は、本を読んでいた。

「おーい。連れてきましたよ。(カミ)(コウ)()です」

()(りつ)使いのナイスガイ…カフネがそいつに言った。

 灰色の床に(ちょく)(せつ)座っていた、そいつが「よいしょ」と立つ。ちなみに、座り方は あぐら。足を組んで本を読んでいたとは、これまた()(ゆう)をぶっこいているように見える。


「く〜」

声を出しながら体を()ばした後、カフネとの会話が始まった。

「あー。サンキュー、カフネ」

「まぁ、いいんですけどね。にしてもメンドクセーやり方でしたが」

「分かった、分かった。(ひま)があったら(こん)()うどんでも(おご)るわ」

「うどんはもう結構(けっこう)です。それと、こちらの女の子は神候補ではないので、(きず)つけないようにしてください」

ス、と手を自分の方に向けてきた。

「うーい。こっちも、できれば正々堂々(せいせいどうどう)と戦いたいし」

どうやら話はまとまったようだ。

 おお…。悪い人ではなさそう。にしても、カフネさんの(しゃべ)(かた)独特(どくとく)だなぁ。そして私は…話の流れからすると、工場の(すみ)観戦(かんせん)ってことになるのかな。


 カフネさんと一緒(いっしょ)に、工場の中央から(はな)れた所へと()(どう)する。いつでも逃げられるように、立ったまま見ることにした。


 中央はというと、2人の神候補がじりじりと近づきあっていた。

「金田だっけ、よろしく。俺の名は…やぁ、ルークとでも()んでくれ」

 ルークと名乗(なの)ったその男は、どこからどう見ても(おう)(しょく)人種(じんしゅ)。黄色人種でルークという名前は…(あき)らかに()(めい)だろう。

「ルークさん。よろしく」

「じゃあ、さっさと始めるか。魔法使い」

この一言で、もう(かね)()(ゆず)は魔法使いということまでバレているということが分かる。となると、(おそ)らくルークは、柚が()()()()使()()かも知っているだろう。それを気づかせるためにルークはわざわざ、「金田」と呼ばず「魔法使い」と呼んだのだが。


「カフネーッ。これ」

 ルークが手に持っていた本をこちらに(ほう)()げる。それを、秋野の横にいるカフネが手を伸ばして受け取った。本にしては小さい方なので、(ぶん)()(ぼん)か何かだろう。

これでルークなる男の手には何もない(じょう)(たい)となった。半袖(はんそで)の白い(すず)しげな服と、青をベースとした(はん)ズボン。そして、ピンクと黄色が入ったビーチサンダルだけだ。半ズボンのポケットには何か入っているかも知れないが、そう大きな物は入らないだろうから 誰も気にはならなかった。


「…ん?もう攻撃(こうげき)してもいいんだけど」

金田はそう言われても、どうすればいいか分からなかった。


 …よく考えれば、あいつはちゃんとした戦いはこれが初めてか。まぁ私も初めてみたいなもんだけど。見てるだけでなぜか緊張する〜っ。

緊張する秋野をよそに、戦いはもう始まっていた。

「それとも、まだ()れていないのか」

ルークは、そう言って笑ったかのような顔になった。




-[金田]はというと…

後ろにじりじりと()がっていた。


 とりあえず、(きょ)()()っとこう。なんか、強そうだもんなぁ。戦うことに()れてる(かん)がすごい…。

 彼の()(せん)から見ても、やはり目の前のルークは強そうに(うつ)った。

「…」

 まずは(ルーク)()(かた)(うかが)う。(なん)せ、この星には、人間にも3種類いるのだ。

やはり『魔法使い』だろうか…それとも、ここらでは少し(めずら)しい『力使い』か『知恵使い』か…。考える。


「俺がナニ使いか(さぐ)ろうとでもしてんのか?」

次の(しゅん)(かん)、ルークは突然(とつぜん) (ゆか)に向かって(おも)()(こぶし)を落とした。

ドゴンと(にぶ)い音がする。


 灰色の床…コンクリートだろう。コンクリートらしき床は、ひびを出して()れながら(こわ)れてゆく。ひびの入った(はん)()は、せいぜい半径(はんけい)15cmほどだが 彼のパンチのパワーは(じゅう)(ぶん)に伝わった。

思わず、金田の(ほほ)に汗が流れる。

(ちから)…使、い…」

(かべ)の近くにいた秋野がそう言った。カフネは反応(はんのう)なし。いつもルークと一緒(いっしょ)にいるとしたら()れていても不思議(ふしぎ)ではなかったが。

 ルークが体勢(たいせい)を元の体勢に(もど)す。(だる)そうに立っているということだ。

「そ」

カフネらがいる方を(よこ)()で見て、彼も自分が力使いだということを肯定(こうてい)する。

「ま、そんなの関係ないけど。俺の武器(ぶき)は…」

半ズボンのポケットに左手を入れてゴソゴソと手を動かせる。

 彼が手をポケットから出したとき、手にはY(ワイ)というかT(ティー)というか(あや)しい形をした 何かを(にぎ)っていた。()ゴムよりも数倍(すうばい)は太いゴム(ひも)()いている。

(なん)…パ、パチンコ?」

思っていたものと かなり(ちが)うものが出てきた。

 パチンコ…パチンコだよな、あれ。あれって本当にあったのか…。アニメとかでしか見たことないぞ…。

「そりゃ そーよ。金田君の魔法には、あんまり近くで攻撃(こうげき)しちゃあ危ないからね」

(たし)かに、パチンコ…もといスリングショットなら相手に近づく必要がない。遠くから、ゴム部分に乗せた物を()ばすだけで、それは強い(たま)となる。

「ぐ…」

 ルークはそこらに()らばっているコンクリートの小さな()(へん)(ひろ)い、スリングショットのゴムに()()ける。そして、ぐぐ と右手で()()った。

「お前の氷で落とせるかな?」

右手を(はな)す。とほぼ同時に、ゴムの(だん)(せい)(りょく)をエネルギーにしてコンクリートは(ほう)(しゅつ)された。(くう)を切る音を立てながら、その灰色の弾は飛んでくる。

「ハァッ!」


「…おお。()()ったんだな」

 金田とルークの(あいだ)には、大体(だいたい)20mほどの(きょ)()があった。そして、灰色の弾丸(だんがん)は、金田の一歩前で床に落ちていた。

(うす)い氷に(つつ)まれて。金田の魔法で()ち落としたのだ。

「やはり…金田さんは 氷の魔法使いでしたか」

(かべ)にもたれているカフネが ふっ…と(つぶや)いた。



 数分後。あそこからスタートした2人の戦いは、なんと続いていた。初心者の金田からすれば、なかなかの長さを戦っている。コンクリートの()(へん)と小さな氷の(かたまり)()()う。

「ふっ!はっ!」

 あー、やっぱり攻撃(こうげき)するのは()れないもんだ。頭とかに当たらないようにしなきゃ。

この思いから、手や(あし)にしか攻撃できないようになっていた。そのため、()けやすい(ひょう)(かい)は ほとんどルークに当たらなかった。


 相手の武器…スリングショットを壊そうと、ルークの左手に氷魔法を(はな)つ。

しかし 悲しいかな、かすりもせずに魔法は避けられて、奥の壁に当たって消えた。

バシュウッという音が2回連続で聞こえてくる。自分の出した氷魔法は2つとも活躍(かつやく)なく消えたということだ。

「ぐ…」

「あーっ!柚、しっかりせいよ!」

 2人のギャラリーの内、うるさい方が味方なのだ。そのうるさい応援(おうえん)を聞きながら、戦いは続行(ぞっこう)される。


「せいっ!」

 いつの間にか、キリキリと限界まで()()られたゴムから黒い何かが放たれていた。アークの攻撃(こうげき)だ。

避けるには、もう間に合わない。そのまま、黒い弾は金田の右手に直撃した。

「ぐあッ。(いた)ぁ…」

手にぶつかった後の黒い弾が床にコロコロと転がり落ちる。それは…ゴム弾だ。

 コンクリートのカケラは何度か体をかすったりした。しかし、これは直撃だ。ダメージ量が想像(そうぞう)よりも大きい。

「はっ。何で当たったか分からないって顔だな。お前には…」

ルークは半ズボンの右ポケットに手を突っ込む。スリングショットの入っていた反対側のポケットだ。

「4発で十分…か」

ポケットから出てきた手は、4個の黒い小さな(きゅう)(たい)を持っていた。ついさっき見た物と同じ。ゴム(だん)()(ちが)いないだろう。


 この状況(じょうきょう)にはただの(かん)(きゃく)である秋野も汗をかかざるを()なかった。

「いって…。近くに行って氷を直接ぶつけるか…?いや、それは…」

 金田は小声でボソボソと(ひと)(ごと)を口に出す。痛がっている右手を左手でさすりながら勝つ方法を探しているのだ。そして、その考えは今 止まって進んでいない。なぜなら今 思いついた作戦はリスクが高すぎるからである。

()(きん)(きょ)()で氷魔法を放てば かなりのダメージを相手は受けるはずだ。しかし、相手は力使いだ。もしも、コンクリートを(くだ)いたあのパンチを受けてしまったら…あまり体力のない魔法使いには(つら)いどころの話ではないだろう。


「どうしよ…」


 カフネとルーク以外の全員が思い込んでいた。ルークが力使いだと。

金田は「ルークは力使いだ」と思っている…そのことのみ。そのことのみを、長い時間をかけて調べ()えたルークは 勝ちを確信(かくしん)しつつあった。心は大きな声で「あーーっはっはっはっは。ハンッ。オモシロイくらいに(さく)にハマってくれんな」と言っている。

 金田とルークの戦い。終わりはもう見えてきた のかも知れない。少なくとも、ルークには はっきりと見えていた。




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