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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
弐章 ARMAGEDDON QUEST
39/66

(Part38)その剣で わたしを 好きなようにしてみてください

 朝から気分がいい…と思ったらそれは今日が土曜日の朝だったからだった。納得の心地よさ。

「でも眠い…」

 目をゴシゴシとこする中学生秋野は、今日やることがある。


「この後、秋野さんと金田さん、機堂さんがこちらに来ますよ」

パタンと携帯電話の画面を閉じて、アークはステイトに話しかける。

「へぇーー」

(くし)も使わずに手についてる5本の指で、ステイトはてきとうに髪を整えている。若白髪は彼のコンプレックスだ。

 今度はメタ・ステイトの方から話題を変える。

「あ、というかさ、うっちゃん」

「はい?」

「うっちゃんは魔法の…『(ハコ)』の印象が強すぎんだよね。多分、この世界が小説なら、見た目の描写が少なすぎて翼とポニテの存在忘れられてるよ」

「いや…そ、そんなことは。…というか、やっぱりこの世界が小説って信じてやまないんですね」

「てなわけで、秋野ちゃんが来るまで背中の翼広げたり、ポニーテールのアピールでもしとくかー」

「何故!?──…」



 ピンポーン

「…誰も出ない」

 しばらく待ったが反応がないので、言われていた通り勝手に入ることにする。

「お邪魔しまーす…」

リビングの方から声が聞こえるので、そちらに行ってみる。その内金田や機堂も来るので、そこで待つことにした。

 リビング。

「…って何やってんですか」

そこでは、他の『円卓の大団』のメンバーの笑顔に囲まれながら、アークが色々なポーズをとっていた。色々なメンバーがいて、朝宮を担当した医者の姿もあった。

 翼、綺麗だなー…。性別が分からないから失礼だけど、美人だなぁ。…というか性別なんて絶対に聞けないしな……

「あっ!ちっ、これは、秋野さん、誤解です!」

「おー秋野ちゃんいらっしゃい」

笑いながらステイトが空いていたイスを引く。そして、座ることを(うなが)した。

「あ、どうも」

「う、あのですね…これは何というか…」

アークの翼がスス…と縮まっていく。

「あ!これって館の中に入れちゃってよかったですかね?」

例の剣を見せる。持つだけでかなり疲れる重さがあった。

「あ、はい。そこらへんにかけておいても構いませんよ」

「ありがとうございますー」

カタ。そこらへんにかけておく。

 というか、『これ』とか『()蛇虵舌(じゃじゃした)』とか言いづらいから、名前でもつけるかなー

そういうことを考えていると、ハッと周りに気づく。よく考えたら周りは知らない顔ばかりだった。

 その周り側も、秋野は面白い存在のようで、なんか騒がしい。

「おい、あの女のコが例の[主人公]ちゃんか?」「胸ないな」「こんな戦いに巻き込んで大丈夫なのか?ステイト」

とまぁ色々言われていた。

「ちょっと皆さん、失礼ですよ。目の前で騒がしくしては」

アークの一声で少しばかり静かになる。…そして、チャイムの音が聞こえた。

円卓の大団の団員とリーダーはずっと秋野のことを話していたが、あの医者とアークだけはそれに参加していなかった。医者はアホを見る目でコーヒーをすすっていて、アークは秋野に付き合ってくれていたからだ。

「…金田さん達も来たみたいですね。それで、今日は剣を持ってきたということは…」

「はい。朝宮ちゃんのお見舞いの後、剣を貰ったことをあいつらに言ってから、剣の練習をしたいと思います」

そのために今日は館に来たのだ。どちらにしろ朝宮ちゃんのお見舞いのために来る予定だったので、どちらかと言うと剣の練習の方がおまけだったが。

「分かりました。…しかし()蛇虵舌(じゃじゃした)をここまで持ってくるのは重かったでしょう?」

「いや、慣れたら、魔法を使えば結構いけますよ。重さを半分にして。…重たいよりも、持つのはちょっと恥ずかしかったですけどね」

ぽりぽりと(ほお)をかく。

「はは。今度、ギターケースを()した(さや)…というかケースでも作ってみますかね。それに入れておけば周りから変な目で見られる心配もないでしょう」

「あ、それ最高!絶対カッコイイ!」


 しばらくして、出迎えがないことを悟った2人が、館の中に勝手に入る。

もうその頃には大団の団員達は散っていた。みんな忙しいらしい。

金田と機堂がリビングに着いたのは、丁度そのことを話している時だった。

「そういえば、この、『円卓(えんたく)大団(だいだん)』ってどういう集まりなんですか…?というか、この館の机って円卓じゃなくて長方形のテーブルじゃん…」

テーブルをさする。

「大団は、『この世界はもしかしたらフィクション…つまり漫画やアニメの世界かもしれない』と思ってる変態の集まりだよ。だから、俺の予言書を信じてくれてる。変態だからな」

「えぇ…私まで変態ですか。心外です」

アークは名誉を侵害されたような悲しさの目をステイトへと向けた。

それを放っておいてステイトは話を続ける。

「ここも前までは丸テーブル…円卓使ってたんだけどなぁ。メンバー増えたから普通の長方形のデカいやつに変えちゃった。でも面倒だし『円卓の大団』のままでいい」

「なんてアバウトな…」「アバウトやなァ〜」

そこに口を挟んだのは青年2人だ。

「お、いらっしゃい」

「ようこそ。お出迎えを忘れていました…すみません」

「おぉ(ゆず)機堂(ギーク)!お先ー」


 機堂と金田は、持ってきたお菓子やら漫画やらをドサドサとテーブルに置いた。もちろん、朝宮ちゃんのお見舞い用に持ってきたものだ。

「…で、というか、すまん、インパクト強すぎんねんけど、あの剣なんやねん」

「それは俺も思ってたな。どういうこと?」

金田も機堂もさっきから見ているのは例の剣だった。

 やっぱり武器なんて物騒(ぶっそう)なもん持ってたら怒られるよな…。それも、神候補との戦いで使うもんとなると、なおさら…

「す、すまん。実は…「なんでこんなとこにガリアンソードがあんねん!!!?」

秋野の渾身の謝罪に言葉を被せてきたのは、機堂。ギーク・機堂 誠一である。

「…え?」

機堂に続くは金田。隠れオタク・金田 柚。

「ちょっと前に地球の日本でやってたアニメ、ガリ⚫︎ンに出てきた、別名蛇腹剣・ガリアンソードか。あの黄色いあからさまなボタンは…男のロマン…変形」

…こうなると一気に不安になるのは、朝宮ちゃんのお見舞い用に持ってきた漫画の内容である。

 こいつらあんなアニメ知ってるってことは、今回持ってきてくれた漫画、マニアックすぎるんじゃ…。そんなの、優奈ちゃんでも楽しめるか??

それよりも まずは()蛇虵舌(じゃじゃした)について説明しなければならないか、と秋野は溜息をついた。


 …

「…ということで、この()蛇虵舌(じゃじゃした)を貰った」

胸は無いが、胸を張る。

「おォお…!クッソ燃える展開やな…」

「俺の一番好きなドラクエの勇者だって最初に貰ったのはどうのつるぎだったな。…いいなぁ」

オタク共には割と好評らしい。

「てなわけで、お見舞いの後に今日はこの剣を使って特訓しようかなーって。これから、戦いは避けては通れないだろうし、少なくとも自分の身を守れるくらいにはならないと」

「私が特訓に付き合います。武術は少しかじってあるので」

アークはそう言う。

色々な人がこの『円卓』にいるらしいが、結局アークが一番強い とはステイトの言葉。アークは「ボスには勝てませんよ」と言っていたが。とにかく、相当強いことは確かだった。

「俺もやらせてください!」

当然、金田も志願した。金田は剣を持たずとも氷という武器があったし、アーク相手なら魔法の訓練にもなるだろう。

「ガラじゃないけど、俺も鍛えよかな…。と思ったけど、やっぱ今日はええわ。お前らで頑張ってくれ」

 おぉ。……ん!?

秋野は驚く。

機堂(ギーク)!…いいの?」

「もう神になるための戦いに参加することに反対はしとらんわ。なんなら、俺も命くらい既にかけてる。どうも、この世界には、中学生にすら負けるくらい神が似合わんクズが多いらしいしなァ」

 機堂もやっぱり優奈ちゃんのことが大きかったんだな…。これは今、みんなは優奈ちゃんのために一つになっているんだ。

不器用な表現だが、その時つまり、秋野は少し嬉しかった。



 しばらく朝宮ちゃんのいる部屋に遊びにいったあと、館の外にあるとてもデカい庭に出る。

「では、始めましょうか」

アークが秋野と金田に言う。アークはジャージに着替えていて、2人の目の前に丸太に(わら)をつけた人形を用意した。

めちゃくちゃ修行感がある。

「おお…」

「めっちゃ漫画とかで見る修行感あるな…」

 私もそう思う。

 館の壁には機堂とステイトがもたれかかっていて、3人を見守っている。

「機堂くんは神候補でこそないけど、戦いには参加する気だろう?どうしてあっちに行ってこないんだ?」

「少し聞きたいことがあったからや。別にあいつらも一緒にいるときに聞いてもよかってんけど、そうするとあいつらの心がブレるかも知らんし」

「そうか。大体分かる。ちょっと待っててくれ、今、予言書を取ってくる」

バッ とステイトは館の中へと戻った。言った通り、あの緑の立方体…予言書を取りに行ったらしい。

「よう分かったな。…やっぱこんなとこのリーダーやってるだけはあんねんなァ…」

待っている間、機堂はボーっと特訓の()(すえ)を見守っていた。


 用意された2つの(わら)(にん)(ぎょう)。その前にアークは立った。ついに特訓が始まる。

「丸太の藁人形は後でやりましょう。…戦いはいつだって突然です。まず、私と戦ってもらいます」

「…え?」

ならそこにいるサンドバッグになることを運命として受け入れてそうな丸太は何なんだ とは誰もが思う。

「少なくとも人との実戦は人形を使った後にするべきなのではないか…と思うかもしれません。しかしそうではなく、先に軽く実戦してみるのです」

「な…なんで?」

「先にした実戦で、リアルな戦いのイメージを定着させてから丸太や木と戦うことで、この後にする様々な訓練でもリアルなイメージを持ちながら訓練することができる…と思ったのですけれど…どうでしょうか?」

どうやら最終的な決定権はこちらにくれるらしい。

どう考えても強いのは…もとい、戦いに慣れているのはアークの方だ。経験豊富な先生が言うのであれば、その先生に従うのが一番であるはずだ。それに、中二病である2人は、まるで師匠キャラと特別な訓練というありがちなシチュエーションを結構楽しんでいた。

「「じゃあ、それで!」」


「武器を振り回して味方に当たってしまっては危ないですから、まずは一人ずつかかってきてください。私の方も攻撃はさせていただきますが、痛くはしませんから。こう、ガツガツときてくれて構いませんよ」

「んじゃ私からいってもいい?」

「おぉ。別にいいよ。頑張れー」

 最初は秋野からいくことに決定した。

 足には(しば)。風はそこまで吹いていなかったが、そう暑くもない。まだ夏の終わりだと思っていたが、もう秋の始まりなのかもしれない。スポーツ日和(びより)だ。

「しんどくなったらすぐに言ってください。…しかし、これは遊びではありませんよ」

「はい!」

 遊びなんかでは絶対にない。秋野だって、神にはなりたい。というよりも、朝宮のような罪の無い者をあんな目にあわせるようなやつを、神にさせたくなかった。

それくらいなら、自分が神になってやる。そんな気持ちで…

「かかってきてください」

「やぁっ!」

 スタート。

その時点では、秋野とアークは10メートルほど離れていた。秋野は、ダッと走りだし、ヴン・アークへと向かっていく。

アークの腹のあたりを狙い、斬りつけようとする。

 ブン!

剣が重い!フィクションの世界のように、ブンブンと振り回せるわけがない。振り回すのはおろか、剣を振り上げることすら腕に大きな負担がかかる。

「魔法で重さを半減したとしても、剣は決して軽くはありません」

さっ と剣の振り上げる一撃をかわし、解説をしている。

「おわっ!とっ、とっ、」

秋野はというと、振り上げたときの勢いがアークに届かなかったために余ったエネルギーのせいで、後ろにこけそうになる。

「うん…。秋野さん」

「はっ、はい!」

「半減の魔法は、重複して使うことができたりしませんか?」

「いや…学校とかでは今まで習いませんでしたね」

「そうですか…。では、その練習もしてみましょう。剣に慣れないうちの、秋野さんの強みはその半減魔法です」

確かに、さらに剣を軽くすると今よりかは扱いやすくなるかもしれない。

「…よし。はっ!」

魔法の重ねがけ。()蛇虵舌(じゃじゃした)の重さは理屈通りならこれで4分の1のはずだ。

「どうですか?」

「お、おぉお…!結構軽くなってる!」

「いい魔法ですね」

「え、えへ…」

 戦い再開だ。

ここまで軽くなると、だいぶ使いやすくなっているものだ。…それでも、そのブロンズの刀身がアークに届く気配はなかったが。

「おりゃあ!」

ザクッ!剣は芝と土をえぐるだけだ。

「ほっ」

剣を土から持ち上げようとした(すき)に、腕を軽くタッチされてしまった。この練習戦では、これがアーク側の攻撃ということになるらしい。

「腕は結構狙いやすいですね。自分のターンの終了…剣を振り下ろした後は、必然的に動きが遅くなるので、注意した方がよさそうです」

「なるほど…」と少し離れた位置から金田が強くうなずいている。

「はぁ…はぁ」

「…そろそろ金田さんに代わってもらいましょうか?」

彼女は運動が得意か不得意かで言うと、素直に不得意なので、疲れも溜まる。

ここで「いや、まだやります!」と言えたのならば、立派だっただろうが、生憎(あいにく)そこまでの熱血主人公っぷりは持ち合わせていない。彼女はそう、センスの面でいうと運動は不得意で済むが、スタミナの面でいうと不出来どころか…

「は、はひ…代わってください…」

とにかく、そう言ってずこずこと下がっていった。

金田のいる見物エリアへと向かい、代わりに金田がアークのいるバトルエリアへと向かう。

…秋野は見物エリアに向かう途中、思い出したように振り返り、ぺこりと一礼をした。

「ありがとうございました…」

「はい。頑張り過ぎることは立派ですが、無理をし過ぎないことも立派なことです。どうか、しっかりと休んでおいてください」

彼女は、地面に倒れこむ勢いで、もう一礼加えておいた。




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