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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
弐章 ARMAGEDDON QUEST
37/66

(Part36)その日まで、泣くんじゃない。

 ふと、気づくと雨が止んでいた。それでも晴れているという訳ではなく、太陽は厚い雲に隠されていた。そのため、今が何時かは時計を見るまで予想もつかなかった。

「…もう5時半か。そろそろ帰るわー」

「あ、俺もそうしようかな」

壁にかけてある時計を見て2人は帰る準備を始める。

「秋野は?」

そう聞く機堂の顔を見たあと、少し「う〜ん」とうなってから、

「私はもうちょっと残る」

と言う。

「そうか。じャあな、2人とも」

「ばいばいー、秋野、朝宮」

「おう」

「うん!ばいばーい」

ぶんぶんと手を振る朝宮ちゃんに背を向け、2人は(かばん)にてきとうにお菓子のゴミなどをつめてから部屋を出て行った。

部屋の扉が開くと、ご飯の匂いが流れこんでくる。

「あ、もう(めし)なんだ。やっぱ私も帰ったほうがいいかな?」

「えーっ!?もっといても私はいいけどなーー」

「はは。……なぁ、ここの人は優しいか?」

「?うん。みんなやさしいし、ごはんもおいしいよ」

「そうかー…」


 コンコン。

扉を叩く音。 間。 そして扉が開く。ガチャ。

「失礼します。…あ!すみません!てっきり、2人が帰る姿が見えたので、秋野さんも帰ったのだと…!」

服を持ったヴン・アークはそう言ってわたわたとしている。

「やっぱ長居しちゃいました?」

 そりゃ晩ご飯までここにいてたら「飯食わせろ」って言ってるみたいなもんだしな…

と考えながら、秋野は「よっ」と朝宮ちゃんのいるベッドから腰を上げる。

「いや!そういう意味ではなく、いつもこの時間に洋服を替えてあげているんですよ。そろそろ時間だったから来たんですけど…」

そういうことならなおさら部屋から出て行ったほうがいいだろう。「やっぱり帰ります」と言おうとする。

…しかし、ある考えが浮かんでしまったので、秋野は変態さながらのことを口にしてしまうはめになる。

「すみません、それ、見ていていいですか?」

「え…?」

自分の口から出た言葉の変態性に気づくのは、それからみるみる朝宮ちゃんの顔が赤くなってからである。

「…!あっ、そういう意味じゃなくてっ、てか、(ゆう)()とアークさんが『出てけ』って言うんなら、すぐ出て行きますけどっ…!」

「私は構いませんが…」

アークはチラッと朝宮の方を見る。

「それは…ちょっとはずかしいな」

「ご…ゴメン」

朝宮の両手はキュッと、自分を守る毛布を握っていた。

ここで執拗(しつよう)に見ようとするのはいけないことなのかもしれない。しかし、そう思っても、より強い想いが、極端に言うと朝宮の裸を求めていた。

「ごめん。でも、やっぱり見なくちゃいけない。包帯の上からでもいいから、優奈の負った傷を確認しないと。少しでも分けて欲しいんだ、その傷を…」

 きっと、朝宮が男だったのなら、金田と機堂は同じことをしていただろうな、

そういうことを思いつつ、秋野は自分の意見をはっきり言ってみせた。

「…ありがとう、お姉ちゃん。……アークさん、おねがいします!」

「分かりました。それでは、バンザイしてください」

言われた通り、朝宮は両手を上げる。しかしそれがまた、ゆっくりだった。

 お腹を刺されたからだ…。本当は、手を上げるだけでもかなり痛いはずなのに、頑張ってる。

見守る秋野を近くに、するすると朝宮の服をアークが()がす。少女の白い肌は、粉雪(こなゆき)をまぶしたような純白だったが、それよりも先にあれが目に入ってしまう。

「う…」

 血が染み込んでいるなんていうことはなかった。ただ、痛みだけ。華奢(きゃしゃ)な少女の痛みだけが染み込んでいる…包帯が巻かれていた。

「朝宮さんに、一通りのことは説明しています」

アークが(しゃべ)りだす。

「…」

「しかし…すみませんでした。秋野さんが来るまで忘れていた。このことはまだ、朝宮さんと話していませんでした」

慣れた手つきで少女の着ている服を変え終えたアークは、「はい、お疲れ様でした」と小さな声で言った後、少し怖さも感じる声色(こわいろ)で話を続ける。

「秋野さんも聞きたいことかも知れません。今 ここで 聞いてしまいます。……朝宮さん。あなたがあの悪い人に怖いことをされてしまったのは、悪い人があなたが持っていたものを(ねら)っているからと、以前説明しましたよね?」

「う、うん。私だけがもってる、なにか…」

「そうです。そのことなんですが…今から少し変なことをいいます。知らないなら知らない、で構いません」

秋野は(つば)を飲み込んだ。

(だいだい)(いろ)のカーテンは、夕暮れの光を受けて一層赤く光っている。

「悪い人が狙っていたのは、あなたの『神になるための権利』です。どうですか、知りませんか?この言葉を」

心臓がドクッ…と鳴ったのが、はっきりと分かった。朝宮に神になるための権利を渡した、(くず)がいるということを思い出したからだ。

「ど、どうなの?」

思わず自分からも聞いてしまう。

「え?う、う〜ん?分かんないかな…」

「そうですか。どうもこの世には(くず)が多すぎますね。こんな少女に、何の説明もせずに神になる権利なんかを押し付けて…」

そうアークは言ったし、秋野もそれに同意した…が、アークは後から心から恥じているようにこうも言う。

「…すみません。私も屑の一人なのです」

一瞬、何のことだか分からなかったが、すぐに気づく。

「!そんな!アークさんのやったことじゃない!私は、私が望んで神候補になった!!」

優しい色をした布団が、ギュッと握られ(こわ)()る。驚いた朝宮が強く握ったからだ。

「…2人がいる今、話してしまおうと思います。私たち…規律使いがどういうものなのか」


天命(てんめい)って分かりますか?…えーと、朝宮さんには少し難しいかもしれませんが、簡単に言うと生まれながらに持った運命というか、義務のようなものです。例えば、プロのスポーツ選手なんかは、『自分はプロのプレイヤーになる運命だったと分かっていた』のようにインタビューで言う人がいますね?」

「は…はい」

どうにか早口になるのを抑えながら説明をしているのが、こちらにまで伝わるようだ。

「それが、規律使いにもあるのです。魔法使いが魔法を覚えるのと同じ頃…つまり、物心がついたときくらいに、規律使いは、ある日急に『理解』してしまうのです。『自分は、神から仕事を与えられている。人を神候補にして、新しい神をつくる仕事が』…と」

信じられない話だった。それを、どうにか信じてもらおうとアークは説明を続ける。

「これまで…力使いは力仕事、知恵使いはその頭脳を使って、協力して、人類は繁栄(はんえい)してきました。あれも天命といっていいでしょう。力使いには力仕事の天命が、知恵使いには頭脳を使う天命があったのです。だから、規律使いには力使いのような肉体も知恵使いのような頭脳もなく、新しい規律を作る天命のみが…神をつくる天命のみがあたえられたのです」

 ん?ちょっと待て。

秋野は2つの疑問が浮かぶ。この質問に答えがないとすると、少しだけ自分の存在意義が薄くなってしまうようなものだ。

「ま、待ってください!…今の話を仮に本当だとすると、ちょっとおかしくないですか?天命というものがあるのなら、魔法使いの天命は何なんです?…それに!今の話だと、規律使いは規律使いで、力使いでも知恵使いでもない…。なのに、なんでアークさんは規律使いなのに魔法使いでもあるんですか?」

この答えは意外なものだった。

「魔法使いに天命はないです」

そうキッパリとかえってくるものだったから。

「──は?」

「…これは神話の域に達する話ですけど、とても分かりやすい話です。…今の(こよみ)が始まる前…つまり2000年以上昔、力使いでもなく、知恵使いでもない者()()がいました。その者たちは当然、能力を持たない者として酷い差別を受けてきたのです」

「そ、それと魔法使い、どう関係が…」

「この星 最初の神…今から約2000年前に神に()った方もまた、元々その能力のない者の一員でした。だから、願ったのです。『どうか、能力を持たない者にも能力を与えてくれ』と。それが、」

「……まほうつかい?」

朝宮が言う。どうにか話を理解しようと頑張っていたらしい。

「そうです。それが、今の、魔法使い」

「信じられない…」

秋野が信じられないのにも無理はない。少なくとも、学校では教えてくれない話だ。

「魔法使いとはつまり、本来能力を持たない者たちでしたが、神によって作り直された者たちです。そして規律使いもまた、神のエゴによってできたようなもの。…だから、『規律使いでありながら力使い』、『規律使いでありながら知恵使い』というのはいなくても、『規律使いでありながら魔法使い』だけは存在するのです」

「なるほどー…」

納得のいく説明をしてくれたヴン・アークの存在に納得しながら、秋野は強く感じていた。『神』の(すご)さ。

 神ってのは、そんなことまでできるのか…。それに、さっきのような説明は、多分 規律使いの全員ができるんだよな…。どうりで、こんな…朝宮ちゃんなんかを狙ってでも神になろうとするやつがいる訳だ。

「分かったでしょうか?神には、この星のルールを丸ごと作り替えてしまうような力を持つことが可能なのです」

「やだ…わたし、別に神になりたくないよ…」

ふるふると首を横から横へと反復(はんぷく)して移動させる朝宮。秋野は ぎゅっ…と優しく肩に手を回す。

「金田さんや秋野さんも神候補です。信用できる方に権利を【(ゆず)】ってしまうのも、良い選択肢だと思いますよ?…それに、我々、『円卓(えんたく)大団(だいだん)』もいます。守ってみせます」


 全員が、会話に集中するこの静かな部屋では、動いてるものはほぼ何もなかった。そんな中、外からの風を受けて大きく揺れたカーテンを見て、秋野はふと思う。

「…それで、この戦いは…いつ終わるんですか?」

「これは、規律使いとしての直感ですが…神候補が最後の1人になったら、その瞬間に終わるでしょう。当然、最後の1人が次の神です」

「うぉ…」

世界の広さから分かる途方(とほう)もなさを感じる。

「しかし、そうかといって、たった1人の絶対勝者というものは…なかなか決まらないものです。ですから、期限があります」

「期限…。つまり、最後の1人が決まる前に期限がきたら、その期限までに『神になるための権利』を一番多く持っている人が神になるってことですか?」

「そうです」

「その期限ってのは…」

「どうやら神というのは5年かけて世代交代するようで。4年の戦いを()えて決まった新しい神に、先代の神が1年かけて神の仕事を教えるそうです。……つまり、次の神が決まるのは、あの日から4年。…2004年、7月27日です」

「2004年の7月…27日!?」

と驚いてみたものの、別にその日が特別な日ということもないので、結局リアクションに困る。

 期限は大体分かったけど、いや、うーん。なんというか…7月の27日って別に何かの特別な日ということでもない…

そこまで思ったところ、ふと脳をよぎる。きっと、ゲームオタクの機堂(ギーク)ならこう言うだろうな、と。

「7月27日って、あの超名作神ゲーの『MOTHER(マザー)』の発売日やんけ!!」

そこに、金田が乗っかって「おー、いいな!でも俺はやっぱ2(ツー)が好きだなぁ…」とか言いそうだ。

…そう考えると、

「ふふ」

ちょっと笑えた。




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