(32話)私と
雨 雨 雨
雨 が雨 が 雨 が 太
が 雨 降が 雨 降 が 降 雨 陽
降 が る降 が る 降 る が は
る 降 る 降 る 降 東
る る 雨 る で
雨 が 雨 佇
が 雨 降 が ん
降 が る 降 で
る 降 る い
る る
「雨がうるさいな…」
傘の下、秋野はそう呟いた。
目の前を、ランドセルを背負った子供が通ってゆく。
「秋野さん、ここからが正念場です。」
「はい…!」
そのすぐ後だ。メタ・ステイトは『人を動かす』ことになる。
「紺の地色に白い水玉の傘、ランドセルは濃い目の赤だ。朝宮ちゃんの登場だ…!」
作戦開始。
ステイトのテレパシーを皮切りに、5人は一斉に動き出す。
最初に金田と機堂の2人が、朝宮の後ろから声をかける。あたかも偶然帰りに出会った風にだ。
「ん?おーい!」
金田が雨に負けない程度の声を出す。
「…!金田くん!!あ!ギークくんも!」
「おぉ、朝宮。奇遇やなァ。…って、お前まで俺のことギークって呼ぶようになったんか…」
無事に合流だ。
そこへ、少しして秋野が加わることになる。
「お〜い!」
3人の元に駆けていく。
「やっぱお前らか!」
まるで、偶然そこで出会ったかのように。
「まえお姉ちゃん!」
雨の中で彼女の笑顔が輝く。
「おー秋野やん」
「よう」
「や、やぁ。せっかくだし、一緒に帰ろうか」
「うん!!」
秋野の隣で、小さな傘が可愛らしく揺れた。
朝宮を壁側に歩かせ、車の通る道の側に秋野が歩く。そして、その後ろで金田と機堂が歩いていた。どんな者だって見逃さない心意気だ。
さらにその後ろにはステイトとアークがいる。規律使いであるアークが『神になるための権利』の数を見て神候補を見つけたら、すぐにステイトのテレパシーの魔法である『人を動かす』で秋野らに伝える。当然、ステイトとアークの2人も、誰も見逃すまいとして目を光らせていた。
「まえお姉ちゃ〜ん!」
「ん?どーしたー」
「あのね!ポストは見た!?」
「ポスト?」
普通の会話をして道を進む。会話をしている途中も、気を抜くことは決してなかった。
…が、
雲が少しずつ開いてゆく。元々薄かった部分が、切り開かれていったのだ。
きっかけは、本当に些細なことが多い。
まるで、タンポポの花一輪の信頼が欲しくて、チサの葉いちまいのなぐさめが欲しくて、とある文豪が人間を辞めたように、
まるで、聖母が身に覚えのない子を身籠ったことから、世界で最も有名な教えができてしまったように、
まるで、火の球の近くで石ころと石ころがぶつかったことから、生命を宿す星が生まれたように、
まるで、魔が差したかのように、
光が差した。
ヒュン。
その瞬間。自分の肉の数センチ横を、ナイフが走る。
…なぜ朝宮から目を逸らした?そんな後悔が頭を駆け巡る。光が眩しかったからか、光に見惚れていたからか、もう覚えていない。ただ、今は目に映ったナイフが。
鮮血。腹に、深く。黒い柄に銀の刃。紅く染まる。
「うっ、うわぁぁあああああ」
吼える秋野。傘が地面に落ちる。バシャッ!血の映った水溜りの、水が飛ぶ。
「「しまった!?」」
アークとステイトは、その状況を理解すると同時に、絶望をしていた。
ニタ…。ナイフを握ったその男は不気味に笑っている。
「う…ぐ…」
絶対に朝宮から出してはいけなかった呻き声。男はナイフを突き立てたままだ!
ブン!
2人の手が空を斬る音を奏でる。機堂と金田だ。
「クソがァっ!!」「離せぇ!!」
殴りかかる機堂と金田。魔法を使っている時間など無い!
ズボッ。ナイフを抜く!そして、不気味な男は、笑いながら2人の手を腕で受け止めた。
アークは見てしまう。男のオーラと数字!
「ッ!逃げるんです!!あなた達じゃ敵わない!!」
男は神候補だった。『神になるための権利』の数は、37。
が、そんな言葉は聞こえるわけもない!秋野は構わずにぶん殴りにいった。
「てめぇええええ!!」
しかし、拳は、その男の顔があった空間の虚空を掴むだけだった。
カウンターの準備。
不気味な男は、3人を振り解いて、ナイフを強く握り直した。
テレパシーではない、ステイトの直進する肉声がする。
「アーク!『箱』だ!病院へ!!」
「はっ、」
「早くしろ!!」
「はい!『箱』!!!!』
ドン
空間が入れ替わる!
どこだか分からないが、屋内に移動したようだった。
「キリクさん!」
ヴン・アークは名前を叫ぶ。
すると、近くにいた一人の男がこちらへ駆け寄ってきた。右半身が黒く染められた白衣をした男。灰色の髪の毛がよく目立つ。
「く、…予言は的中してしまいました![きっかけ]の治療を頼みます…!」
言葉を矢継ぎ早に飛ばす。
「チッ!わかった!……秋野ちゃん、かな?詳しいことは後で説明する。朝宮ちゃんを運ぶのを手伝ってくれないか?」
キリクと思われる者が、優しい声でこちらに言った。
秋野は、コクンとうなずいた後、朝宮に声をかけながら運ぶ準備に入る。
「もうちょっとだけ頑張ろうな…!絶対大丈夫だから…!!」
秋野の声に返事はこない。
こちらを見ながら泣いている少女の、ランドセルと傘を床に捨てさせる。そして、やわらかな肩に手を回す。
それを見て、遠のく意識の中、アークはボソ…と呟いた。
「後は頼みますよ…!」




