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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
壱章 私と彼女とこの物語
30/66

(29話)主要登場人物達と

-午後8時53分、[彼女]は全身の汗も気にならないほどに、皮膚の感覚が機能していなかった。

 そもそもなぜ汗をかいたかというと、先ほどのテニスが熱い試合だったからではない。(いやまぁテニスの歴史に残るであろうほどに熱い試合だったのだけれど…つまりその試合の熱気にやられて汗をかいたのではない。)汗は秋野の不安から()いた冷や汗だ。


 テニスは()(こよみ)が一位を取った。つまり、秋野らの住むこの国が、この瞬間からテニスのナンバーワンになった。

これには、「なんでスポーツなんか見るの」と文句を言っていた秋野の母親も少し感心している。()(こよみ)の国民は兎暦がテニスで一位を取れないことを知っていたからだ。そして、そんな常識は塗り替えられたのだ!明日のニュースは全チャンネル同じ内容だろうから、見なくてもいいだろう!

…しかしこれは秋野にとって少し違う意味をもつ「ヤバさ」があった。

「予言の通りだ…」

 9月10日、兎暦はテニスの世界一位に君臨した。予言の通りに…




 9月11日。クラスは、学校は、兎暦は、世界は、昨日のテニス大会のことばかり話していた。




 9月12日。テレビは、まだ日曜日にあったテニス大会のことばかり報道していた。が、夜になって違うニュースが一瞬画面を通っていく。

その衝撃から、思わず口に出してしまう。

伊鳩(いばと)付近で…急、な…豪雨…」

 9月のこんな時期に豪雨!!天気予報もぶっ飛ぶこのニュースは、代わりに予言の的中を秋野に(うった)えていた。

偶然と思えるはずがなかった。予言は本物だ。ヴン・アークさんがどうやって予言をしたのか、そういうことは全く分からないが、予言は本物。

ここで思い出すのが、彼女に予言を伝えた張本人のアークの言葉だ。アークは、「予言を信じられるようになったら、電話を下さい。その時に全て話しましょう」と言っていた。振り返ってみると、まるで最初から予言が絶対に当たると知っていたようだ。


とにかく電話をかけるしかない。


「予言…当たりましたね……」

 充分に心を落ち着けてから、アークに短く伝える。

「早くに信じてくれたようで、ありがたいです」

携帯電話の向こうには安堵(あんど)の息を吐くアークがいた。

 でも、本当に…なんで私に予言のことを言ったんだろう?

「あの…それで、なんで予言を教えてくれたんですか?」

エセ敬語のまま疑問をぶつける。

アークからしては「ついに来た!」と思うような質問だ。


「秋野さんを神候補に誘ったときもそうですね、本当は秋野さんを巻き込むようなことではありません…。しかし、我々は弱く、(もろ)い。そのクセ欲深いのです……」

ずいぶんと言うことをためらっているようだ。言いたい反面、躊躇(ちゅうちょ)しているのだ。

秋野も黙って聞くことしかできない。

「…」

そして、ついに言った。力強く、アークは言うのだった。

「力を貸してください。このままでは、9月18日に、朝宮(あさみや)(ゆう)()さんは殺されてしまう」

「……え?」


「お願いします」

「ちょ、ち…待ってください!どういうことですか!?」

同じ階にいる親も、予言通りのニュースを流すだけのテレビも、何も気にならなかった。彼女は怒鳴(どな)るように言った。

 優奈ちゃんが殺されるだと!?アークさんは何を言ってるんだよッ!!そもそも誰に?何で!?

まだ朝宮の死が確定した訳ではないし、ヴン・アークという者がクズのような嘘をついている可能性もある。それなのに、どうして彼女が本気で不安に押し潰されそうになっているのか…。

「…予言は……本当なんですか」

か弱い声で秋野は聞いた。

そう…彼女の中で、予言の信憑性(しんぴょうせい)は非常に高くなっていた。もう、「優奈ちゃんが殺させる」という予言が…この流れだとまるで当たるようじゃないか。

そこに、

「予言は本当です」

という声が返ってくる。アークは砥石(といし)()いだように真剣な声で、続きを言った。

「秋野さん。今度、会えませんか?」

「え?」

急展開が続き過ぎて、短い疑問文しか返せない。それでもアークは話を続ける。

「電話では説明できないことがあるのです。…もし、今の私に会うことが不安なら…怖いのなら、会う場所はあなたが決めください。図書館でも、警察署の前でも、信用できる方の隣でも。…ですから、どうか会ってくれませんか?」

「…」

これには迷う。アークのことを信用しているかどうか…それはとても()らいでいる。

しかし、迷いこそしたが、迷った時間自体は短かった。

 …本当は今更信用とかどうでもいい。今、心にズンと乗っかってるこの不安は、優奈ちゃんのことだけだ!

「会います!」




 …こうして、警察署を近くに持った安心安全の公園で会うことに。

9月14日木曜日、放課後の話である。(そろ)いも揃って面倒くさがりなので、全員が制服のままである。

「おい!このよう分からん集まりは、俺がおる必要あったか!?」

小声で文句を()らしているのは()(どう)だ。

「だって機堂(ギーク)が一番しっかりしてんじゃねーかっ!」

秋野は言い返す。

 アークと会うことにした秋野は、あの「会います」という返事の後、機堂と金田も一緒に会いに行ってもいいかと聞いたのだ。アークやステイトにとっては願ってもない幸運だ。

「本当にありがたいことです。…みなさん今日(こんにち)は、いい天気ですね」

アークが、こちらを見つけて、()けつけてくれた。

「あ!」

金田はすぐに反応する。

「!!…金田君。元気そうですね」

「はい!あ、秋野のこと、ありがとうございました」

(さい)()との戦いの後に病院にいたときから、もう1ヶ月以上経っている。


「どういうことや?お前の知り合いやと思ってたんやが…(ゆず)とも知り合いなんか?」

機堂が秋野にコソコソ話す。

「知り合い…うーん。そうなのかな?あれだ、あれ」

「あれ?」

そして、病院でのことを説明した。

「前に彩扉先生とバトルになって死にかけたって話あっただろ?」

「改めて聞くとエグいこと言っとるでお前…」

「ハハ。ま、その時に救急円盤(えんばん)呼んで助けてくれたのが、アークさんなんだよ」

「あァ…言っとった気もすんな。でもそいつと柚は関係あんのか?そん時には柚はもう、病院おったんやろ?」

「そ。で、その病院に私も来たことを金田に教えたのが、アークさんらしい」

「ほーん。まァ信用…できない奴ではない訳や」

秋野と機堂がコソコソ話を、金田とヴン・アークが世間話をしているところに、遅れて男がやって来た。

 メタ・ステイトが公園に着いたのだ。彼は、金田や機堂、そして秋野とも知り合いではない。今日が初対面だ。

「豪華なメンツだな。[主人公]だけじゃなくて[相棒]君も[理解者]君もいるじゃんか」

意味の分からないことをアークに言いながら、ゆっくりとこっちに歩いてくる。黒髪に若白髪がぼうぼうと生えているその男は、中学生3人にとっては信用とはかけ離れた存在だ。

「おい、こいつもお前らの知り合いか…?」

「いや、私も知らない…」

左手と腹で大事そうに(かか)えられた、緑色の大きなブロック。それが、一層(いっそう)ヤバさを出している。

 あの緑のブロック…なんだ?いや…あれは、本!バカでかい本か!?

「…ッ」

「うっちゃんから話は聞いてるよな…?いや、話というより、予言、か」

「予言書…」

「そ。これが予言書。君たちが学校で使う教科書と同じ0(ゼロ)円だぜ」

彼はその緑の、バカでかい予言書を、近くにあったテーブルに置いた。ドスン、と言う音の後に遅れて砂埃(すなぼこり)が舞う。

「では、テーブルとベンチがあることですし、座って話しましょうか…」

予言書の置かれた木製のテーブルを指差して、アークが言った。


 3人の中学生は座った。そして、辞書の5倍は大きい予言書を挟んで、向かいの席にアークとステイトが座っている。

「予言のことを知ってるのは…秋野ちゃんだけかな?」

ちゃん呼びに、謎の不安と恐怖を感じながら、返事をする。

「は、はい」

「ちょ、メタさん。ちゃん付けはダメでしょう…」

アークも少し引いた。

 しかし、そんなことは気にせず、メタ・ステイトは話を続ける。

「まずは予言を見てもらわないと始まらないな」

そう言って、予言書を広げる。そこには過去の予言がビッシリと書かれている。もう役目を終えた予言たち…全て、昔に当たった予言だ。

「う〜ん?」

「予言も、お前らが何したいんかも知らんけど…これは過去のニュースを書いてるだけにしか見えへんな。『当たった後の予言』と『過去のニュース』の見分けはつかん。これだけやと予言やとは思われへんわ!」

金田も機堂も、信じる気にはなれなかった。

「そうか…」

 秋野とアークは何も言わない。元々知り合いである自分が言えば、多少は信じるかも知れないが、それでは意味がないと思ったからだ。


 少し考えた後、ステイトは(ひらめ)く。

「そうだ!…じゃあ、こうしよう。協力してほしいのは18日だ。だから、それまでの予言を教えて、その予言が当たって 信じる気になったら18日に来てくれないか?」

つまり、今日のこの後を含め、15日、16日、17日の分の予言が当たれば、この予言書を信じてくれないか…ということだ。

「…もし、予言が本当だとして…本当だったらなんで、俺達に協力して欲しいんですか?」

今、金田が言ったことこそが、本題。今回集まった本題だ。

秋野は既に知っていること。信じたくはないことだ。


「それは、予言によると、18日に君たちの親友である朝宮ちゃんが殺されるからさ」


スパッ…と、感情のある冷徹な言葉が出る。

当然、2人は軽くパニックだ。

 ゆっくりとページをめくり、ステイトは予言書の『2000年9月18日』を指す。

そこには、乾いた黒のインクで、朝宮(あさみや) (ゆう)()が殺されることが書かれていた。



-2000年9月18日

河見第三小学校を終え、一人で帰宅途中だった[きっかけ]は、神候補に腹部を刺されて死亡。刺した神候補には[きっかけ]の権利が移行。尚、この件は[主人公]、[相棒]、[理解者]が知ることはない。そのため、[きっかけ]の登場人物的役割は発動せず、[主人公]が神候補となり神になろうとする確率は0%まで低下。



「そんな……ん?ま、待って下さい!この、きっかけとか主人公って何ですか?これが朝宮ちゃんのことですか?」

金田が疑問に思ったのはその、(かく)括弧(かっこ)の部分だ。これは、秋野も説明されていない。

「あ…しまった。その説明はまだだったか…」

ステイトは左手を軽く頭に置き、「あちゃー」といった感じのジェスチャーをとった。


 代わって、アークが説明をする。

「ここは私が説明をしましょう…。ザックリ言いますと、この予言書はどうやら一つの壮大な物語(ストーリー)になっています。そして、言葉のままの意味で[主人公]はこの物語の主人公。…秋野さんのことです」

「…。…えっ?!」

 驚く秋野を一旦無視し、次へと進む。

「そして、[相棒]が金田さん。[理解者]が機堂さんです。…すみません、選ばれる基準は、正直こちらも分かりません」

2人にとってそこはどうでもよかった。

確かに、自分にダサい二つ名のようなものが付いているのは気に食わないが、それよりも…

「…」「じゃあ、きっかけは…」

「…はい。[きっかけ]は朝宮さんです。主人公、相棒、理解者である…あなた(がた)が、この物語の目的を見つけるきっかけです」

 秋野はゾッとした。まるで、この気味(きみ)が悪い緑の本に、自分の罪を教えられた気分だ。

 私らがっ、この、こ、目的を、ってつまり…

「じゃあ、私らが、その、主人公とかいう役割をやるってためだけに、優奈は殺されるってことですか!?」

これではまるで、この予言書が、彼女の大切な友人を殺すようなものだ!

金田と機堂も、同じようにアークとステイトを(にら)む。

「落ち着いてください!彼女が[きっかけ]でも何でもないのは分かっています!それに、私がここに呼んだのは…「んん゛!」

 場を落ち着けようとしているアークの声を(さえぎ)って、ステイトが場を決める。

「落ち着けよ」


「この予言は最後まで見れば分かるが、どうやらバッドエンドのお話だ。で、君たちは世界を救う勇者(ゆうしゃ)一行(いっこう)に選ばれたワケ。まぁこのままじゃあ勇者たちもブッ殺されて終わるけどね」

ステイトのその言葉に、周りは黙るしかなかった。いや、彼に、(おのれ)の話を人に()かせる何かがあった。

「…」

「これからの数日で、もし予言を信じてくれるようになったのなら…協力を頼みたいね。この物語をハッピーエンドに変えたいからさ。…だから、今日来てくださった皆さんは、ぜひ自分の役割と予言だけでも覚えて帰ってね」

見てみると、彼は深々(ふかぶか)と頭を下げていた。まるでレストランのシェフ・ド・キュイジーヌが客に料理を説明するかのように、彼は予言書を手で(しめ)している。

「で、でも、何でわざわざそんなこと俺らに教えたんや…?」

賢い理解者を見て小さく笑った後、その笑顔のまま、彼はこう言った。



「俺が、たまたまバッドエンドの嫌いな、読書(どくしょ)愛好(あいこう)()だったからさ」




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