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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
壱章 私と彼女とこの物語
25/66

(24話)友達と恩人への相談

 ダン!

-テーブルに重たい右手と麦茶を持った左手が勢いよく振り下ろされる。[彼女]はビクッと体を反応させ、イスが少し動く。

「お前、それホンマに言ってんのかァーーッ!?!!」

大声で叫んだのは()(どう)だ。

「や、やっぱ、怒るか」

それに(おび)えているのは、向かいの席に座っている金田だ。隣にいる秋野もビビりまくっているようで、少なくとも出された麦茶が飲み干されていることから (のど)がカラカラになるくらいには緊張している。

「あ、いや、スマン。怒った…て言うよりは…なんていうか…」

「なんていうか?」

そして今、その3人は…

「マンガみたいな話やなァ」

神、そして神候補について話していたところだ。


 夏休みも残りはたった5日。学校が「二学期」という名前をひっさげて新しくスタートする一週間前、いよいよ宿題が終わらず 神に願いを頼もうとでも思っていた秋野だが、それがなんと神についてのことで悩んでいた。

 隣に目をやる。

同じように機堂にビビッている金田が座っている。彼は『神になるための権利』を持った『神候補』で、つまりは命がけのバトルと(とな)()わせの状態なのだ。


「だって、お前それ、死と隣り合わせってことやんけ!でもそれ、おま…え、マジ?」

「本当」

機堂の問いかけに即答する金田。

「あの、(さい)()先生が、その、お前と秋野を…」

「…」

次の問いには、黙ってこちらを見る。金田は問いに答えられるないのだ。

 そうだったな…あの時は気絶してたから…。

「えと、それも本当だ。…ただ、彩扉先生は理由があった。それにあの後、改心したらしくて、今は「人を殺す理由?」

早口だった秋野が言い終わる前に、機堂の言葉が重なる。

 人を殺す理由。こんなときに正論はやめろよ。人を殺すのに理由も糞もない。人を殺す…理由…

理由があるから人を殺す…殺しを正当化しているようで、汚い言葉のように思えた。


「確か、別に相手が【死】ななくても、【負】けを認めさせれば権利がもらえるんやっけ?(ゆず)?」

「え、あ、うん」

「まぁ、俺には関係のない話やしな。他人として注意させてもらうけど、やめた方がええとは思うわ。危ない」

「…」

「で、友達として注意するけど、やめーや。危なすぎるわ」

「うん…」

窓から差し込む光が、麦茶の中に散りばめられ、(まぶ)しい。

「アンドレアスさんや彩扉先生は、()()なる前に改心してくれたらしいけど、この先は多分…平気で人を殺すような奴が出てくるで」

それは2人も重々感じていたことだった。そして、立て続けに機堂は、最も鋭い質問をする。

「そもそも、なんでそこまでして神になりたいんや?願いを叶える…って、この星(サースター)の支配者か?ギャルのパンティか?不老不死か?…すまん、そういうのは漫画だけの話やと思ってた。実感が()かん…」

確か、ずっと前に金田は一度、秋野に理由を話していた。「できる限り困ってる人を助けるため」だ。中学生にしては立派すぎる願いだが…多分 機堂にとっては薄すぎる願いだろう。


 (わず)かな隙を見つけて少しずつ蒸発を続ける麦茶を端に、時間が流れる。

「ま、ぶっちゃけどうでもええねんけどな。理由は、他人に言いたくないものなんか、人に言うほど立派やないものなんか、知らんけど。あと、死んで欲しくないのと同じくらい、お前に人を殺してもらいたくないんや」

やや早口でそう言ったのち、彼はまだ半分以上麦茶が残っているコップを持って、「ちょっとお茶入れてくるわ」とキッチンへ消える。

彼の手は、隠し切れない緊張からくる汗と、大気中の水蒸気が麦茶に冷却されてコップの外側についた水滴でグチャグチャだった。



 うなだれながら帰る2人。目には薄く汚れた地面しか映っていない。

「…」

「…」

あの後ずっと気まずくて、逃げるように帰ったのだが、彼が正しかったことは2人とも分かっている。そのため、ひどく後悔しながら足を進めていた。

 私だって…無関係な訳ない。私はこいつの友達だぞ?でも、何もできない。神候補をやめさせることもできないくせに、戦いの中 サポートもできないなんて。…しかもそろそろ夏休みが終わるのに、これからどうなるのか、誰にも分かんないんだ。これからどうなるのか、これからどうするべきなのか、誰にも…。

誰にも。そこで秋野の思考は止まり続けた。


「…ここで別れ道か。じゃあ、また…」

気力のない別れの言葉を彼が言う。

「ああ、うん。また…」

そして彼女も同様に気力のない別れの言葉を伝えて、帰るのだった。



「ただいま…」 ガチャ


「え?あー、機堂君の家」


「…はい」


(…やっぱり玄関で待つのは暇だな。ゲームでもして待とう…) カチャ…カチャ…


(…) カチャ…


(…ハァ) パタ


(どうしよう……)



 約40分、玄関で立たされて待った後、母がスリッパを用意してくれた。それに履き替え、風呂場へ。

ハンドルを回し温度を調整し、シャワーから35度ほどの水を出す。少し髪をわしゃわしゃとした後、いよいよシャンプーの出番となる。

 2つの手をフル活用して髪をわしゃわしゃと洗っていると、急に

「あ!!」

思いついた。そして同時にシャンプーの泡が目に入る。

「あたたたた!」

念入りに目から泡を洗い流した後、またさっきのことを考える。

 そうだ!アークさんなら!ヴン・アークさんなら何か協力してくれるかもしれない!!

単純なことで、すぐに思いつくかもしれなかったことだが、少し混乱していた彼女にとっては もはや(ひらめ)きに近い思いつきだった!

あと、ここだけの話、彼女が風呂場で歌ったのは24日ぶりのことだ。


 風呂から上がり、まだ6時半。空はまだほんのり明るく、はやる気持ちを(おさ)えようともせずに電話をかける。

少し時代から遅れた彼女愛用のガラパゴス携帯は、ピ ポ パ ポ とプッシュ信号を鳴らして遠くにいる相手に連絡を知らせる。




-プルルルル、プルルルル、と 騒ぐ電話を[そいつ]は鳴り止ませる。

「―もしもし」

そいつは電話の外で、人差し指を口にあてた。勿論、「しー」の意味だ。

 今、例の館にいるのだ。予言の会議や食事をしていた、長いテーブルがある部屋ではないが。

隣にいたメタ・ステイトは「はいはい」とばかりにテレビの音量を下げ、口を閉じた。

 電話の向こうからは、女子中学生くらいの声が聞こえる。

「あ、あの…アークさんですか?」

「はい。…おや、秋野さんでしたか。どうかしましたか?」



「――そういうことですか」

 一通りの話を聞き終えたアークがうなずく。

小さな音量で情報を垂れ流すテレビを、つまらなさそうに見るステイトを横目に、会話を繋げる。

 ええと、秋野さんのご友人である機堂君ですか。彼が、金田君の『神になるための戦い』への参加を良く思っていない…と。当然のことですね。しかし彼は…

「しかし機堂君は、金田君を心配してそう言っているのでしょう」

「そう…です」

不安そうな声だ。

「冷静に考えてみればよく分かりますが、悩むようなことではありませんよ。きっと、彼は世界がどうなっても君達の味方ですよ。だからこそ、待ってくれます。君達の決断を」

「!」

「考えて考えて、考え抜いた意見を…ぶつけてみてはどうでしょうか?」

「ありがとうございます!」

少し遅れて、電話の向こうからは別の女性の声で「静かに」と聞こえた。次いで秋野が「ご、ごめん」と小声で言う。

「もう大丈夫そうですかね。では、また、いつでも相談に付き合いますよ!」

「はい!ありがとうございます」

さっきより少しだけ小さくなった彼女の感謝の言葉を受け取って、アークは電話を切ったのだった。


「…ふぅ」と一つ溜息をつく。

それから十数秒後、メタ・ステイトが尋ねた。

「うっちゃん、どーだった?」

秋野との会話中にしていたものとは別の種類の笑顔で、アークは対応する。小さな不安を(のぞ)かせながら。

「どうもこうも、聞こえていたまんまだと思いますよ?しかし機堂さん…いえ、[理解者]は本当に役割を果たしてくれますかね…」

「なるようになるだろ!」とてきとうな返事をして、ステイトはコーヒーをすすった。(ちなみに彼は、コーヒーに砂糖を直接入れ溶かして飲むのではなく、まずザラメを口に放り込みそこにコーヒーを流し込む。)

 バリバリとザラメだか角砂糖だかを噛んでいる彼に、アークは質問を返す。

貴方(あなた)こそどうだったんです?」

糞でかい溜息をつきながら、彼はウンザリ気味に言う。

「絶好調だよ!!信じられんくらい!いつも通りなんだけどねぇ…」

彼はウンザリと……壁一面にぎゅうぎゅうと詰められたモニターを見ながら言ったのだ。

 この館の2階のとある部屋は、壁にぎっしりとモニターがある。それらは全てがテレビの役割を果たしてくれていて、ざっと20程だろうか…そのどれもがニュース番組のチャンネルを指していた。

予言書の精度のチェックをするためだ。

「予言書に書かれてた予言は全部ピッタリとニュースになってるよ!いつも通りな!」

青白い光を放つ約20コのモニター共は、クソ真面目にニュースを読み上げている。この国のニュース番組が8チャンネル分と、6カ国程の大国のニュース番組が各2チャンネル分ある。

「相変わらず凄まじい精度ですね…予言書は」

つい漏れたアークの(うれ)わしげな声を、ステイトは笑い飛ばす。

「精度が凄い?ハッ!バカ言え。よく外れるぜ?特に9月18日の予言なんて、当たる気がしない」

つられて笑う。

「ハハ、それもそうですね」

それに共鳴するように、予言書の2000年9月18日の予言―学校の帰りに朝宮(あさみや)(ゆう)()が死ぬという予言―の文字は(わず)かに濃くなった……




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