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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
壱章 私と彼女とこの物語
20/66

(19話)秘策とやっつけ作戦

 隣のオタクな男子中学生は分からなかったが、秋野はすぐに分かった。

 あの、変わった髪色の男…

「神候補か…」

「か…何て?」

 機堂は()(まど)っている。

「…」

 金田は、黙った。というよりは、アンドレアスと(にら)み合っているものだから、黙る他なかった。


 2人は小声で会話する。

機堂なんかは、“神”のことも“神候補”のことも“神になるための権利”も“(なに)”も“()”も、知らないのだ。

機堂(ギーク)、ワケは後で説明する…。一つ言えるのは、あの男は(ゆず)の敵だ…」

「はァ?」

「金田を殺そうとすらしてるかもしれない…」

「いやいやいや!てか、何でお前はそんなんが分かるんや!?」

「マジで頼む」

「…はァ。俺にどうしてほしいねん」

 すぐ折れた機堂は頭をぽりぽり()きながら言った。

「そう言われると…」

どうなんだ?



神候補の戦いに、私は…

私達は入っていいんだろうか?



「なに。怖がらなくてもいいさ。むしろ、そこの 君達を(だま)したクソ女から救ってあげてると言ってもいい」

 アンドレアスは、金田との間に(ただよ)っていた沈黙を破ってユリを見ながら言った。

 ハッ としたかのようにその冷たい視線の先を見ると、ユリがいた。彼女を知る者なら全てが驚くであろうほど、彼女ばボロボロだった。

「ユリ…?」

書く必要がないが、『彼女を知る者なら全てが驚く』というのは、勿論 アンドレアスを除いてだ。


「ああ!こいつは、お前らを騙して、ここにおびき寄せたのさ!…いや、本当は金田君だけここに来させれば良かったんだけど」

「…!」

「おまけまでご丁寧にくれたんだな」

「アンドレアス…」

「バカな女だった。ああ、良いことを思いついた。この際だ。あの女も殺してしまうか」

 我慢できなくなった金田の叫び!

「お前!この…「いい加減にしろ!!」

…は、秋野の叫びにかき消された。

 駄目だ。

我慢できなくなった秋野が叫んだ。

 つまりどういうことだ、ユリは あのクソ野郎に使われたってわけか。柚のそばにいるってことは、どうやらユリをあんな風にしたのは、あのクソ野朗の方みたいじゃないか。こんなやつが…お前みたいなやつが…


「お前みたいなやつが神になってたまるか!ユリは確かに面倒なやつだけど…お前に何したって言うんだ!!」

 アンディの目が完全にこちらに向く。

「…ああ、神候補のこと 知ってんのか。柚から聞いたってとこだろうな…」

そして、秋野の言った言葉の中の、『神』というワードに反応した。

「じゃあ聞くが…お前のお友達は逆に、“神になってもいい”のか?中学生の餓鬼(ガキ)が?」

「それは…」

「神になれるほどの実力があるのなら、神になっても大丈夫かもな。…でも無理だ。神になる前に、神候補に殺されてしまうかもしれない。分かってたんだろ?…つまるところ、それが今ってだけだ」

 くる、元の方向に顔を戻した。

その態度は、あまりに淡白なもので、まるで心の底にある 人を馬鹿にしている気持ち を隠さずに見せびらかしているようだった。

「さて…」

 戦いの再開を伝えようとすると、金田が喋る。

大声というわけでもなく、本当に、普通の声ではきはきと。

「別に神になれなくてもいい。神が決まるその日までに、お前みたいなクズが神になるのを止めれれば…」

「ふざけろ」

その短いアンドレアスの言葉は、何かの再開を告げるようでもあった。


「何か はじまりそうな気がめっちゃする…もう警察(ケーサツ)呼んだ方ええんちゃうか?」

「そうかもしれない。本当は、私も 何も分かっていないのとほとんど同じようなもんなんだ…」

すると、突然 ハーッハッハッハ と気色の悪い笑い声が飛んできた。

「その通りだな。お前は何も分かっていない。神のことも、俺のことも」

 そう言ったのはアンドレアスだった。秋野からしたら名前の知らない歳上の男。冷静に考えたら、こんなのノーモーションで警察に通報するのが当然である。

「どういうことだよ」

つまり、その()(しん)(しゃ)と話を続ける秋野は普通じゃなく変人よりだったということだ。

 そこはどうでもよく、彼は話を続ける。

「『ユリがぁ お前にぃ 何したってぇ 言うんだぁ』…とかお前は言ったな…。何をしたか?お前も知らないんじゃないか。俺とユリは…そう…クッ、家族なんだよ。ハハハハハ」

 笑いの混じった言葉。どう考えても、秋野を…ユリを馬鹿にした言い方だ。

 少し感情的になり過ぎていると感じながらも、秋野はイライラしたときに使う(じょう)(とう)()を吐き出す。

「何がおかしいんだ!!」

 永久の次に長いであろう時間の間が()いて、アンドレアスは応えた。

可笑(おか)しいさ…。可笑しくて、可笑しくて 笑いを堪えるのに必死だ。妹に人生をブチ壊された俺が、妹の最も大切な…()()を潰せるんだからな!」

 立て続けに、彼は喋る。今度はどうやら金田に向けてだ。

「おい(ゆず)。戦いは…」

左腕に巻かれていた琉瑠流(るるる)の服を スルスルと(ほど)いて


「戦いはもう再開したものだと思った」

パッ と右手で持っていた服を離す。

 アンドレアスの手から離された服は、()(たん)にものすごいスピードを出して金田へと飛んでいく。まるで、風の魔法に乗っているかのような速さ。

それこそ、目にも()まらぬ速さだ。

 ファサッ!

秋野が、金田の顔に服が(かぶ)さったのを見たときくらいには、アンドレアスは走っていた。

「ぐ…ぬ、」

だから、金田が顔にへばりついた服を取って放ったころには、アンドレアスはもう右足を突き出していた。

「ぐわぁッ」

 左脚にヒットを喰らう。

金田が痛がっている間に、そいつは左に回り込んで

「死ね」

酷い言葉を吐き棄てながら両手を金田に当てた。

 その瞬間から、あまりにも強力な風が屋上で立ち込める。砂が舞い、そこにいたほとんどが目を(つぶ)る程のもの。


 人が飛ぶレベルの風ってのは、まぁ珍しいもので、誰しもが どんな強さの風で人は浮くか を知っているわけではない。無論、秋野も。

 何だコレ!?台風の日に遊ぶ馬鹿でもこんな風は経験したことないんじゃないか?…つまり、馬鹿な私でも初めてだ! 風…ユリの魔法か!?にしては強力すぎる!く、そ…早く外の様子を確認しないと…。

 頑張って(ひら)いた秋野の目には…



宙に浮く金田がいた。

「うっ、うわぁあ!」

 バタバタとする姿を見ながら、あの男は笑う。

「お前に、オレは倒せない」

 状況が分かってからは、反射的に行動に出る。つまり秋野は叫んだ。

「機堂!魔法だ!!」

 分かったぞ!多分だけど…あいつも風か何かの魔法使いなんだ!それで、柚のやつをここから落とそうとしてる!…なんで人を【殺】してまで…神に…!

 考えは的中。ここから落として殺されるとこだ。

「わーーッ」

ピタ。

風が止んだか と思う 前に金田にかかる重力が()()り始める。

 そのとき、目を開けた機堂が、すぐに自分のすべきことを理解し、やってくれた。

簡単に言うが、普通ではない。これは完全に運が良かった。

「柚!」

 ボスッ……


 布団(ふとん)に何かが落ちたくらいの音がして、少し遅れて 下の方から何かが浮かんでくる。

金田だ。細かく言うと、機堂の()(ゆう)魔法に乗った、(かね)() (ゆず)

「 」

どっ と3人から汗が()き出す。

誰も 何も 喋らない。


 完全に運が良かったのだ。

まず、機堂(ギーク)が頭の切れるやつだったということ。それと、機堂が浮遊の魔法使いだということだ。

それが、4階から落とされた金田がまだ生きていることに大きく関わる。


「チィッ」

 クソ…。呪文(スペル)を使えば、消費魔力を(おさ)えれたんだろうが…時間が足りなかった。純粋な魔法()だけで人を飛ばすのは、やはり魔力が…。しかも、失敗か。

 アンドレアスが(した)()ちした(べろ)辛酸(しんさん)()めた。


「…ハァッ、ハァ」

「正直言って、かなり困った。だから、秘策に移らせてもらう」

 肩で息をする3匹の中学生を まるでないもののように見ている冷たい態度で、アンドレアスは言った。

そして、あろうことか そいつはスタスタと歩いた。

金田の(となり)(よこ)()り、秋野の前を横切り、機堂の左側を横切り、ユリに目もくれず進んだ。

 誰もが、その状況に口を(はさ)めなかった。4人は、ただ アンドレアスの言う()(サク)とやらを見守るだけだった。


 ギィ…。

とは鳴らない。

扉は開いたままだったからだ。

そして、そいつは扉の向こうへと消えていった。

カツ カツ と(くつ)が階段を鳴らす音だけが、屋上の4人の鼓膜をノックする。

靴の音が聞こえなくなると、4人は合わせるつもりでもなかったのに、一斉(いっせい)に溜息を吐き出した。

 そして、靴から聞こえた()(かい)な音が終わると、代わりにユリが口を開いてくれる。口から出た一言目は…

「ゴメン…」

だった。


「…誰か、説明 (たの)むわァ。それとも、この話は俺が(かか)わらん方がええか」

「いや、機堂(ギーク)、聞こう。何についての話を聞かせてくれるかは分かんないけどさ」

機堂、そして 金田もそれぞれ口を開けた。

 なので、流れ的には絶対たる[主人公]である秋野が口を開くときなのだが…

この次に言葉を発したのは彼だった。

「あ、待った。ありがとう!機堂、秋野!!」

突然なんだ?と思ったが、彼がああ言った理由はすぐに分かる。

「そりゃ人が建物から落ちそうになったら、誰でも止めるだろ…。ったく、本当に、頼むよ」

 4階は、人が落ちても死なないケースもあるらしい。つまり、十分に死ねる高さでもあるのだ。

だから、金田を助けた2人こそ そこまで重い空気にしようとは思わなかったが、助けられた彼自身は本当に感謝した。

「……じゃ、そろそろ聞かせてもらうか。聞かなきゃ、納得(なっとく)できないことが1つあるし」

「そう…ダネ」

 弱々しい声。

だが秋野は関係なしに()いかける。

「何でさっきは(あやま)ったの?」

「エ…?」

()(まど)うユリの近くに集まった3人は、同じ顔をした。

 ?ユリが謝るようなことしたっけ?

 なんて。





そして全てを聞いた。

3人の中学生は走った。

その後を、止めようと1人の女も走る。

 ユリから聞いたのだ。

謝った理由も。

なぜ騙したかも。

どこまでが嘘なのかも。

どこまでが真実なのかも。

アンドレアスとの関係も。

家庭での事情も。

頼みごとも。

その作戦も。

(なに)も。

()も。






あ!!!

そうそう、(なに)()も ユリから聞いたと言ったが、1つだけあった。

聞き忘れたことが。



 ロケットペンダントの中身、この戦いが終わったらユリに聞かないと…。




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