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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
壱章 私と彼女とこの物語
2/66

(1話)中間試験初日と初日

この物語はそちらではフィクションということになるみたいです。実在の人物や団体などとは地球にとっては関係ありません。




-[彼女]は階段を上がった。


 ショートとミディアムの(あいだ)、としか表現の仕様(しよう)がない、短い髪。

 (かなりオブラートに包んだ言い方をすると、)凹凸(おうとつ)の少ないスリムな体型は、浴衣(ゆかた)がよく似合(にあ)う。

 そして、少し男っぽい喋り方をする。

 そんな少し特徴的(とくちょうてき)な女の子がいた。彼女の名前は 秋野(あきの) 真絵(まえ) 。魔法使いである。



 ガチャ、

扉を開けてからすぐに、近くにあるスイッチを押す。途端(とたん)に、小さな白い(たま)から光が()いた。

 照明(しょうめい)のスイッチを押したら、秋野は2秒ほどその場に静止した。

 何か、些細(ささい)な事、しかし大切な事を忘れていたような…


 思い出した。

「あ、そろそろ寝ようとしてたのに…」

照明を()けた事を後悔するという内容の、なんとも()()けたことを言いながら、ベッドへと歩いていく。

そしてすぐさま、頭の下で手を組んで、ベッドで寝転がった。

 夜はかなり前から来ていて、小学生高学年なら寝るべき時間だ。



 さて……

こんなに静かな夜は、つい眠れない事を考えてしまう。

 言葉がこの世に存在していなかったら人はどうやって意思疎通をするのだろう、と。光が存在していなかったなら?音が存在していなかったら?そもそもこの星(サースター)が存在していなかったら?

 全く想像がつかない。何が、どうなるのだろうか。


 魔法がこの世に存在していなかったら人はどうなっているのだろう?


 もう明日は中間試験だと言うのに、秋野(あきの)真絵(まえ)はまたそんな事を考えていた。

「…」


 ここで、ハッと気付く。

「明日は試験か…」

「…」

 「よっ、」と体を起こし、証明のスイッチを押す。(ふたた)び部屋に闇が戻った。

 目的を果たし終えた秋野は、すぐにベッドで横になる。

「…寝よ」

その言葉を最後にこの物語の主人公である、女子中学生は寝た。

ここらではありふれた1日が終わる。世界はやけに静かだ。


 その静けさは明日まで続いた。




 「ふぁ〜」

あくびをしながら道を歩いているのは、秋野だ。

 夏服を着ている。制服はもうすっかり半袖の夏服だが、布を少なくしたところで、夏が涼しくなってくれるわけではない。なので汗がたらたらと出る。

「今からテストを受けると分かっていながらも学校に向かうなんてのは、もはや洗脳(せんのう)だ」 と普段(ふだん)から(なげ)いている彼女は今、テストを受けるために学校へと向かっている。

 あくびを出し終えた後、無言でしばらく歩いて、河見(かわみ)魔法中学校の門をくぐる。


 いつもは、門の近くに先生が立っていて、挨拶(あいさつ)をしてくるのだが、たまたま早く来た秋野は会わなかった。

その先生がまた、鉄球みたいな重くて黒い球を作り出す なんていう変わった魔法を使う野郎で、休み時間にゲームの話を一緒にするくらいの仲ではあった。

だが、今日は敵だ。それも強敵。(あ、ダジャレではないからな!)

数学のテストなんかを作りやがるあいつの顔は、できれば見たくない。

「でも1番に怖いのは、二時間目の魔法科のテストなんだよなあ…」

そう言って、彼女は誰もいない廊下(ろうか)に 自分の足音を(ひび)かせた。




 ここ、サースターでは三種の種族がいる。

 他種族より運動神経が鋭く、凄まじい筋肉と力を持った『力使い』。

 他種族より反射神経そして五感が鋭く、物事を合理的・効率的に考えることができる『知恵使い』。

 そして、全人類の約15%ほど、最も少ない種族で、特徴として地球人と違う点はただ一つ…魔法を使う者達のことである…


『魔法使い』…。


 そのため、それぞれがそれぞれの役目を全うするために異なった教育を受ける。力仕事をする者、文明を発達させる者、とそれぞれに合った学校でそれぞれに合った教育を。


 そして、ここ、河味(かわみ)魔法中学校は魔法使いを育成する場。魔法使いである秋野の通う中学校ということだ。

そんな中学校の今日は、定期試験の日だ。

 今日から3日間ずっと面倒くさい試験が続くと思うと足取りが重い。

 秋野がどすどすと歩いていると

「あ」

後ろから声がする。

「おーい秋野ー!おはよ」

と同級生の金田(かねだ)(となり)まで来て歩く。

 ちなみにオタク野郎。まぁ、こいつがオタクなんてのは私と…あいつくらいしか知らないと思うけど。でも男なのに魔法少女のアニメを見てるってのは、どうかと思うぞ…。


 金田は、秋野の友人だ。昔からよく遊んでいた。(よう)するに、(おさな)馴染(なじ)みなのだが、別に近所だとか、親が友達同士だとかではなかった。


 眠気も(あい)()って挨拶(あいさつ)を返すのが(だる)い。

「おぁ〜、金田ー。はよー」

口を開いた途端、あくびが出てしまい変な挨拶になってしまった。

「ふ〜ぁ」

金田にもあくびが伝染(でんせん)する。

「バカ、やめろ。親密な奴にはあくびが伝染しやすいっていう説、私は信じないからな」

「その男っぽい喋り方を辞めたら…いやすまん無理か。せめて黙ってたら結構モテるのになぁ」

「ウルセー」

金田よ、お前は乙女にそんな指摘をするなんて、失礼と思わんのか。

「なんだよその顔…。そういえば昨日どれくらい勉強した?…いやそもそも勉強したか?お前」

「いいや。魔法なんか勉強したところで役に立たないでしょ」

「まぁ、大した職業に就くことはできないけども。でも魔法を勉強しないとそれこそ何の役にも立たないニートになんぞ〜」


 そう。そうなのだ。魔法使いの大半は自身の魔法を利用したサービス業に就く。炎の魔法使いはコックになったり。浮遊の魔法使いはサーカスの団員になったりと。

 (ちな)みに、魔法使いに、エリートの知恵使いほど稼ぐ者はほとんどいない。というか、1人もいないと思う。知らないけど。


 そんなことを話している内に2人は教室に着いた。

 早く机に(いと)しい腕枕を敷いて寝たい。

ガタ、と音を立てて椅子(いす)()()り出し、座る。

 しかし、後ろの席の金田が話しかけてくるので秋野は結局眠ることができなかった。

おい、なんで『()きの』の次が『()ねだ』なんだ…とこの時ばかりは思ってしまう。

 その後、他の生徒が教室にぞろぞろと入ってくるも、金田は妙に安心するペースで話をし続けた。



 中学生2人が日常的な会話をしていると、扉を開けて教室内に彩扉(さいど)先生が入ってきた。課題が少ないことで生徒に人気の数学教師だ。

つまり秋野にとって今日の敵。

「お前らー、席に着けー。」

その言葉でみんなは席につく。

「今日、7月27日は1学期中間試験初日だ。これを乗り越えたらすぐ夏休みだから、頑張れよー」


 朝のホームルームを聞いていると、聞き慣れない単語が聞こえてきたため、秋野は久々にホームルームに耳を(かたむ)けた。それは、実に3ヶ月ぶりであった!!!

(つまり中学校に入学してからほとんど聞いてない!!!のではなく、小学校からずっと寝ていたので、中学校に入学してから()ほとんど聞いていない!!!ということになる)

「そう言えば、昨日、中学時代からの友人に会ったんだが、その時変な話を聞いてなぁ〜。神になる権利とかなんとか…」

クラスメートは首をかしげた。秋野も、何言ってんだこいつは…みたいな顔をしていたが、金田は違った。

彼は驚いていた。そして先生にこう聞いた。

「先生…もしかして、か、神候補ですか…!?」

「…ああ。金田、お前もか?」

秋野を含め教室にいる全員が訳も分からないまましんとしていた。しかし、

「おぉ、まさかこんなに近くにいるなんて!俺もそうなんですよ」

と金田が答えた瞬間に、彼の頭上1mほどのところに約直径20cmのどす黒い球体が出現した。


それは紛れもなく彩扉先生の魔法だった。



 なにをしているんだ?こいつは。今にも身体中から吹き出そうな嫌な汗を堪えながら秋野は金田の頭上にある球体を素早く両手で受け止めた。と、途端(とたん)にそのズシリとした球は消えてしまった。

「先生…急に人の8年来の友人を殺そうとしないでください」

当然(とうぜん)、クラスは どよどよ という ざわめきに包まれている。

「お前は…秋野か。確か(ハン)とかいう魔法を使うんだったな。“何か”を2分の1にするという…」

 秋野は冷や汗でびっしょりしている。汗なんて制限しようと思って制限できるものでもない。

「俺の魔弾の質量を2分の1にしたか…」

「なぜ生徒を殺そうとしたんですか。彩扉先生」

「なぜって、話すと長くなるから嫌だよ。魔弾手(マダンテ)!!!」

彩扉は両手を金田に向けた。すると金田の頭上に再び禍々(まがまか)しい黒球(こっきゅう)が出現した。直径約2mの。


 この大きさじゃあ体積を半分にしても質量を 半分にしても、近くにいる秋野を含めて2人とも死ぬのはクラスにいた全員が理解していた。

「…ッ!」

「…まぁ、子供は大人には勝てないよなぁ。

しかし初日から権利数が増えてラッキーだったよ」

そう呟きながら彩扉はスタスタ歩き教室を出ようとしていた。出ようと、していた。

「それ、どういう事ですか…?」


 バッとその教室にいた全員の視線が一点に集中する。クラスの生徒一同はびっくりして声も出ない。教室を出るべく扉に手を伸ばしていた1人の中学校教師はまるで青く晴れた空なのに突然に雷が落ちてきたのを間近に見たかのような顔をしていた。

「なぜ…何故生きているんだ…?」


 忄ッッッ布(こっっっわ)!!!怖!怖い怖い怖い怖い怖い!

 秋野の心臓はドクドクと今にも破裂しそうな勢いで全身に血液を送り出し、体温を上げている。

殺されかけたということが分かった時、人は何も考えずただ身体から汗を流すことに全てが働くのだと直感的に彼女は理解した。


 秋野は彩扉の魔法継続時間を2分の1にし、その上にしゃがんだのだ。

 生まれたその時から自分の魔法を理解し、その魔法と共に生きてきた魔法使いの本能によってギリギリあの巨大な黒球に押し潰されずに済んだ。


 しかしそんなことは今どうでもいい。今は、この状況を理解しようとする前に、何とかしないといけない。


 彩扉はじっ、と震えている女子中学生のそばにいる気絶している男子中学生を見ると

「…あぁ、お前ら本当に面倒くさい」

と言いながら再び両手を天井に向ける。すると、教室内は一層ざわめきと泣き声、悲鳴が大きくなり、とても

五月蝿(うるさ)い」

彩扉は続けざまに言う。おかげで、教室はうるさくなくなった。

「本当に面倒くさい。金田は気絶しているのか…。まだ【負】けていなければ【死】んでいない」


 教室内に声を出す生徒は居ない。半数ほどが音も立てずに泣いているだけだ。

 あまりに静かなので廊下から大勢の人が走る音が聞こえてきた。防音性の無い教室から騒ぎは外に漏れている。それに気づいた彩扉はさっさと自分の生徒を殺そうとしていた。

「魔」

「待て…」

秋野は声を振り絞って出したが彩扉には届かない。

「弾」



「待て!!!」



 ()0秒の間教室内は教師まで黙ったことによって完全に無音となった。そしてその静寂(せいじゃく)()0秒後に破られた。


 ドン、と戸を開ける音が教室に響く。


「彩扉先生!何をしているんですか!?生徒が倒れているじゃあありませんか!」

「ああ…校長先生!丁度良かった!すいません、今他の教員の方も呼ぼうとしているところでした」

「え?」

「金田君が突然倒れてしまって…誰か携帯電話を持っている教員がいたら早く救急車を呼んでください!!」

「え?あ、あぁ…!」


 彩扉がこっちを見ている。

腹の中をグルグルと何かが回っているのを感じた。こいつ、とぼけるつもりだ。怒りのあまり強く握りしめた手は爪が食い込んで血が出てきた。

「うわぁぁぁあ!!」

秋野が殴りかかると、いともたやすく彩扉はその拳を掴んで秋野の(ほお)()った。

馬鹿(ばか)!友達が倒れて気が動転(どうてん)してるのか知らないが、こういう時こそ冷静になれ!」

そのビンタがあまりにも痛かったのでピタリと涙が止まる。

 教室にはもう、金田の様子を見る先生達の声しか無かった。




-少し時間が経ち、[彩扉]が呼んだ救急車が学校付近(ふきん)に着いた。


 金田は気絶していて自分の意思で歩く事が出来ないので3人の先生で持ち上げて教室を出て行く。それに続いて彩扉先生も教室から出て行く。



 あぁ面倒くさい。こんなことしてる暇無いのに。さっさと殺して権利だけ奪ったらどっか行くか…。まぁ殺しても多分罪に問われないと思うけど流石に教え子を殺した町でのこのこ暮らすほど神経図太くはないわ。

「初日から面倒くさい…」

早く帰りたい。ハルが待っている。その日、その数学教師は、そう思った。




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