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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
壱章 私と彼女とこの物語
18/66

(17話)男と女と屋上の男女

 状況を整理するには、物事の初めからもう一度 (ストーリー)辿(たど)るのが一番いい。

では整理していこう。


()(どう)()で4人で遊んでたら、(しも)()ユリから電話がかかってきた。

②その内容は、ユリが引っ越したことと、渡したいモノと用事があるからこっちに来てくれ というものだった。

③ユリは性格に(なん)があるので、1人ではなく 秋野と機堂を連れて来た。

④用事とは、落し物を探すことだったので、(ふた)()に分かれて探している。

⑤ふと、「渡したいモノ」のことを思い出したので、ユリに聞いてみた。ユリが渡したいのではなく、ユリの知り合いが自分に渡したいらしい。

ユリの知り合いの「渡したいモノ」とは、



⑥『神になるための権利』だった。



「え?」

????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????

 どういうことだ?

金田の頭の周りには、ゲシュタルト崩壊(ほうかい)()こしてしまいそうなほどの“クエスチョンマーク”が…“?”が()()っていた。

 どこからおかしくなった?⑥?⑥からか?『神になるための権利』?いや、神候補はいるんだから神になるための権利が存在していることはおかしいことじゃない…それは、神候補である自分が一番分かってるはずだ!でも、それだと この町で()った神候補は3人ってことになる。神候補ってのは、こんなに沢山(たくさん)いるものなのか?

 その()(もん)の内、分かったのは最初の疑問だけだった。それも、かなり後の話だが。

おかしくなったのは、⑥からではない。①からだ。


 何かを探すときの体勢(たいせい)をしていた金田が、ゆっくりと立つ。

「ユリさん、それってどういう…」

 どうにか冷静でいようとしながら、彼はゆっくり質問した。

「ソレがサ、私モよく分からナイんだって!(くわ)しいコトは本人に聞いてみなヨ」

「本人に?」

「ウン。実は、(かれ)()もココに来てるんダ」

「このハイツに…」

「ゴメン!きっと手伝ってくれると思って、どうせなら彼等にも会ってもらおうトしたんダ」

自分は、ペンダント探しを手伝ってくれ という(たの)みを断らない。そう思って勝手(かって)にユリは、渡すモノがある知り合いとやらを呼んだということだ。


「…」

(ボーッ)。彼は、()()ったまま、(だま)ったまま、混乱(こんらん)最中(さなか)にいた。

そんな彼を見たユリが、少し動揺(どうよう)しつつも声をかける。

(ダイ)(ジョー)()?」

「はい…」

 彼は…金田は…なんとか()()こうとしていた。様々(さまざま)なことを、自分に言い聞かせている。

 神候補とは、いつかは必ず戦うことになる。そんな神候補から神になる権利を(ゆず)ってもらえるなんて、むしろラッキーじゃないか。

「ここにいるんなら、(ちょう)()良かったです。ペンダント見つかってから会いに行きますか?」

なるべく明るく言った。

「どうせ、ソンなに時間かからナイだろうシ、今カラでもいいケド。ドウする?」

「じゃあ、もう(もら)いにいきます」

神になるための権利を。

「……リョーカイ!」


 色々あったが、ついに行くと決めた。

なので、今はツカツカと階段を上っている。上に行くらしい…が、4階に着いても、前を歩くユリに止まる気配はなかった。

「あの、どこに行くつもりですか?」

とは言ったが、大体 予想はついてきた。最上階である4階よりも上となると…

(おく)(じょう)ダヨ。」

ユリは淡白(たんぱく)にそう答えた。

 アニメやドラマでは、よくビルや学校の屋上での会話シーンがあるが、本当に屋上を開放している場所は少ないと聞く。なので金田は、屋上に行くと聞いたとき、自分でも気づかないうちに少しワクワクした。

「へぇ…」

「ココだ。ここから、屋上に行けるヨ…」

 銀色の安っぽい扉。上半分は汚れたガラスが()られている。

 本当に開いているのか?彼の心のどこかにあったそういう気持ちにはおかまいなしに、




扉は開いた。

 ビュウッと風が()く。開けたとき(ちょう)()風が吹いたのか、屋上はこんな感じでいつも風が吹いているのか、分からなかったが 気持ちの良い風だった。

そして広がる景色。どこまでも続く建造物(けんぞうぶつ)の海。遠くに見える山。すぐ(となり)を見ると何かの建物の背中がこちらを向いている。

何よりも空だ。4階から屋上へ…たった数m、高さが変わるだけで空の見え方はこんなにも変わるのか。そう思える空があった。


ただ、その美しい空の少し()(まえ)には、


「あ…」

2つの人影(ひとかげ)

「…」

 あの2人とユリがどんな関係なのかは分からないが、そいつらに近づくにつれてユリの口数(くちかず)が減り 表情(ひょうじょう)(くも)ってきているところを見ると、不安になる。

それは、気のせいではなかった。金田は気づかなかったが、ユリは小さく(ふる)えてすらいたのだ。


「…」

もう姿はハッキリと見えてきていた。

 右には、若い男。

髪型(かみがた)はベリーショート。その青っぽい黒(ブルーブラック)の短い髪からは。(さわ)やかな(いん)(しょう)を受ける。白色のラインが入った青いジャージの前が(ひら)いており、そこから水色のシャツが見えている。(ちなみにシャツには、扇風(せんぷう)()? の絵がプリントされている。少しダサい)

 その(ひだり)(どなり)にいたやつが

「おい、本物のようだ」

とだけ言った。

その存在が、今 どんな状況(じょうきょう)か教えてくれる。()(りつ)使いだ。見れば分かる。

()(りつ)使いは普通の人間とは体の構造(こうぞう)が少し違う…しかし、そいつは別に (つばさ)が生えているわけでも、(つの)が生えているわけでも、尻尾(しっぽ)が生えているわけでもない。

…ただ、顔がとても白く、顔には目も口も鼻も無かった。長く美しい黒髪と、()(なか)直径(ちょっけい)10cmほどの ブラックスターサファイアのような なんとも説明するのが難しい 黒く美しい()()()まっている。

服装(ふくそう)はとても普通のものなので かえって、顔の黒い宝石のようなもののインパクトが強くなった。どう見ても規律使い…

 ああ、ダメだ…

(わる)()がないにしても、外見(がいけん)で決めつけてしまった……と反省(はんせい)しながら、金田はその2人をじっと見る。

「…」


 ずっと黙っていたが、いよいよそいつは喋った。青っぽい黒の髪をした方だ。

「そう、緊張をするな。神になるための権利を(じょう)()するために来たってのは……あの女から聞いただろう?」

びく、と体が反応する。

“あの女”()ばわりされているユリはどんな顔をしていたのだろうか?それは前にいる 規律使いと青っぽい髪の2人にしか分からなかった。

 とりあえず、金田は返事をする。

「…はい。それは、あなたも(かみ)(こう)()…ってことですよね?」

少しおどおどしながら聞いてみる。

「ああ、そうだ」

やはり…。

予想はしていても、いざ言われるとびびってしまう。

「…」

無意識のうちに、金田は黙ってしまった。

 そこを、ありがたいことに、相手の方から話してくれる。

「…っと、名前くらい教えないと、信用できるはずもないか。俺はアンドレアス。アンディで良い」

へぇ〜、そうなんですね!僕は(ゆず)って言います!…と言うほどのコミュニケーション(りょく)すら金田にはない。

「…」

何か言わないと、と考えている間に、アンドレアスはまた口を開く。そして、少し、ほんの少しだけ()()(げん)そうに言った。

「…どうした?苗字(ファミリーネーム)も教えないと駄目(ダメ)か?」

これは分かりづらいが、「今度はお前が名乗(なの)る番だ」と言っている。直感(ちょっかん)でそう感じとった彼は、自分も名前を言うことにした。

「いや…。えっと、あ、僕は(ゆず)です」

アンドレアス…いや、アンディは、嘲笑(ちょうしょう)ともとれるくらいの軽い笑いをする。

「そうか。よろしく。こっちは琉瑠流(るるる)って言うやつだ。変わってる名前だろ?」

そして、隣のあいつを紹介したのだ。

 本当にインパクトの強い見た目だ…。だが、その黒い宝石のような何かは美しくもある。

「柚か。どうも、紹介に(あず)かった琉瑠流(るるる)だ。よろしく頼む」

手を上げて軽く挨拶をされた。

「あ、はい」

そちらの方を見ながら、ペコと一応頭を下げておく。

琉瑠流(るるる)はその後すぐ隣を向いて、「アンディ、変わっているとはあんまりじゃないか?」と言っていたようだが…。


「まぁ、とにかく、それだけだ。琉瑠流(るるる)が見たところ、どうやらお前は本当の神候補らしいしな」

そうだった。()(りつ)使いは、相手の『神になるための権利』の数が、相手が『神候補』かどうか が分かるのだった。

そのことを思い出しながら、金田は小さく(うなず)く。


「金田君、君は()()いの規律使いがいないのかい?」

琉瑠流(るるる)が少し心配してくれている…というより(どう)(じょう)のように言ってくれる。

「まぁ、いいじゃないか」

そこをアンドレアスが間髪(かんはつ)入れず行った。

 あれ?

 金田は、ユリが本当にずっと黙っているので、流石(さすが)に心配になっていた。あの2人とどういう関係なのか…それが原因(げんいん)なのか…。

何かが始まりそうな気がした。

だが、

(すず)しい風が()いたのは気のせいじゃないとハッキリ分かるほど感じた。

そして、

何かは始まるようだ。

 パン、と手を合わして アンドレアスがこっちを向く。

「じゃあ、こっちの話はまとまっているし、少し聞いてもらうとするか」

「え?」

「よく分からないような(やつ)から、一方的(いっぽうてき)に神になるための権利を()()けられるなんて、嫌だろ?」

「まぁ…」


「うん。最初っから要約(ようやく)して言わせてもらうと、『神になるための権利なんて物騒(ぶっそう)なモン、そもそもいらねぇ』って話なんだがな。…というか、それだけだ」

たしかに、と金田は思った。というか、思いすぎて声に出してしまった。

「たしかに…」

 そして話は続けられる。

(なさ)けないが、それだけの理由なんだ。琉瑠流(るるる)からわざわざ(もら)った権利だがな…くれてやる ということさ」

右手をズボンのポケットに入れ、左手をぷらぷらさせながら言う。

アンドレアスは続けて(しゃべ)る。

「…で、……いる?」

 いるか、と聞かれた。何をかは、言わなくても分かる。だから、思うだけでいい。



神になるための権利 だ。



「はい。アンディさん、ありがとうございます」

神を目指(めざ)すということは、()(けん)なことだが、彼がやりたいことでもあった。

「いい、別に。むしろ助かる」

来る…。

 ごく、と(つば)を飲み込む。

だが、よく考えれば、【()】けた神候補から権利を(もら)うことはあっても【(ゆず)】られたことはない。

 どんな感じに貰うんだろうか…

と思っていたら、彼はポケットから何か取り出した。

「ほらよ」

ヒュッ!

 その小さな何かは(ちゅう)()った。

すぐに パシ、と左手で受け取る。

そして、その手を開いて、手の中にあった小さい何かを見た。


「…ビー(だま)?」

 受け取ったのは、赤いビー玉のようなものだった。

 ビー玉?…いや、まさか。権利を(ゆず)るときは、権利がこういう形になるとか?…ええ?そうとは思えない。これはどういうことだ?聞いてみよかな。これはどうい

「ゔっ!!」

 変な声が出る。

やけに(はら)が痛いな…と思った次の瞬間、信じられないような激痛が走った。



 痛い!!!

痛い痛い痛い痛い!!!!

「げっ、あっ、か…」

あまりの痛さに、足が自然と後ろに退()こうとしている。

 カンッ!カン。カララララ…

落としてしまった赤いビー玉が、転がっていく。

(うそ)だ。(すべ)てな。でも、こういうもんだろう?神になるための戦いって」

 前に立っていた男が何かを言った。笑っていやがった。

でも心がぐわんぐわんとして、何も聞こえない。

ただ、一つ分かった。(はら)馬鹿(ばか)みたいに痛むのは、アンドレアスに(なぐ)られたからだ。

それと、もう一つ分かった。いや、分かるのだ。(はら)を殴った理由は、自分の神になるための権利を(うば)うためだと。

「ゔえ゛」

さっき飲んだお茶が()()されそうになる。


 人生、十数年間。まだ短いといっても、これから長い人生の中で、出会って1日目の男にマジ(なぐ)りされることなんかあるだろうか?

できればないことを(のぞ)む。


「ずっと連絡(れんらく)も取ってないような(やつ)から、電話で『探し物を手伝ってくれ』と言われて、来る奴がいるとはな」

 金田は、なんとか()ちこたえた。

アンドレアスの言っていることも分かる。つまりは、ユリもこいつらの仲間(チーム)、こいつらと共犯(グル)だったということだ。

「くっ…」


「おかしいと思わなかったのか?全部 嘘だよ。探し物を手伝って欲しいってのも、渡したいモノがあるってのもな」

なんてことをアンドレアスは言っていたが、そんなことはどうでもよかった。

 そんなことより、ユリはとこだ?あいつらの仲間なら大丈夫かもしれないけど、もしかして傷つけられてたり…。あ!屋上(ここ)に来られる扉は開けたままだ!秋野や機堂がここに来たら、あいつらまで…。

そんなことばかり、金田は考えていた。



 風が吹く。



 琉瑠流(るるる) はやれやれと、溜息(ためいき)をついていた。

 アンドレアス は前にいる青年(せいねん)を見て、笑っていた。

 (かね)() (ゆず) は前の相手に苦しみながらもみんなのことを、心配していた。

 (しも)() ユリ は誰とも目を合わせず(ひと)り、






泣いていた。




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